第二話
「颯太さん、一緒に助けに行きましょう? それに、どうせ逃げても無駄なんだわ。生かしておいては貰えないもの。それなら、ちょっとくらい攻めたことをしても許される筈ね」
逃げ続けていても、状況は変わらない。むしろ、私たちの方が立場的には危うくなってしまうわ。
精神を研ぎ澄まして、安心して休むことさえ出来ず、明日を迎えられるかさえ分からない不安の中で眠るの。それに、十分な食事を得ることも出来ないし。
上手く逃げられていたとしても、生きていられるかどうか。
自らの手は汚さず、自然と死ぬのを待つ。最初から翔はそう言うつもりで? うぅ。
まあなんにしても、逃げていたって何も始まらないわ。
「ゆきたんがそう言うんだったら、あたしも自信を持って行動出来る。あたしのこと、ちゃんと隣で支えていてね?」
美咲も疲れ気味らしい。もう、派手に戦いたくて仕方がないと言った様子ね。
そもそも、彼女には逃げること自体が向いていなかったのかしら。奪われたなら奪い返す、ただそれだけだものね。
一筋の願いに懸けて、私たちの故郷に戻るしかない。
もしかしたら、父上だって私たちを呼び戻す為に、この人を向かわせてくれたのかもしれない。
かなりの危険を冒してまでここまでしてくれたんだから、助けを求めているに違いないわ。
「父上も、生きているのですよね?」
おじさんが頷いてくれたのを確認し、私は立ち上がった。続けて美咲が立ち上がると、草が大きく揺れた。
「あっ。ごめんなさい。僕、先生や姫より遅く起きるなんて、本当にごめんなさい。もう日も昇っているのに……」
ようやく目覚めたようで、凛は慌てて立ち上がり私たちに頭を下げてきた。
明は相変わらず眠っているけれど、疲れているのだろうし仕方がないだろう。
「りんたん、あたしたちね、お城に帰ることに決めたの」
「まさかそこまでの行動、予測されているとは思いたくありませんからね。踊らされて逃げ惑っているくらいなら、危険でも予想外の行動をし、相手の意表を突いてやりたいのです。立ち上がれなくなるくらい、思いっきりね」
ヤル気満々で言った美咲と私に、謝っていた凛だけれど、驚いたように口を開けてこちらを見てきた。でもその瞳は輝いているのだから、さすがは私の弟子よね。
これで止めたりするようなら、破門するところだったわ。
安全よりも、私は刺激を求めてみせましょう。美しさを求めてみせましょう。
ただ生きていたいと言うだけならば、どれほど笑われても無様でも、命乞いをしてみせたでしょう。
香山を恨むこともなく、跪いてその思うがままになっていたことでしょう。




