第八話
「そうだよね。うん、あたしもそう思うの。昨日敵の様子を見て、完全にあたしたちを弄んでいるんだって、そう思った」
やっぱり、美咲は馬鹿じゃないわ。
明るく朗らかで強くていつも笑っていて、それでも彼女は馬鹿じゃあないわ。彼女も彼女なりに様々なことを考えているし、ときに的を射るような発言もし、私に策を与えてくれることだってある。
だけどそんな彼女だからこそ、厄介と言えば厄介なのよね。
敵にとっても勿論そうなのだろうけれど、私にとってもそうだわ。
「美咲、貴女ねぇ、優秀にもほどがあるってもんでしょう? あまりに一人でなんでも出来過ぎるわ。けれど自惚れないところも、貴女の魅力ね」
突然私が褒めたりするもんだから、美咲は驚いてしまったらしい。
分かりやすく目を丸くして、その後もまた分かりやすく顔を赤くさせた。こういう可愛いところも、さすがだわ。
美咲ったら、どうしてそこまで私を惑わすのよ。
「貴女があまりに優れているから、優れているだけに、私は貴女を守ることが出来ないかもしれない。こうしてびくびくしながら逃げ惑い、ほんの少しの可能性に懸ける。それは本当に正しい選択だったのかしら」
自分が戦うように美咲を促したというのに、説得に努めたのは私なのに、今更になって何を言っているのよ。
あのときの私はどこへ行ってしまったの?
全てを取り戻して、香山を跪かせてやるんだって、そう決めた私は。
「ゆきたんらしくないよ。自信を持ちましょ」
まるで私が自意識過剰みたいな言い方で気に入らないけれど、美咲の言葉は嬉しかった。
「あたしはゆきたんにいつも守られてる。ゆきたんがいてくれなきゃ、あたしはきっともういなかった。だから、正しくなくても、あたしはゆきたんを信じる」
美咲の言葉は私の心を温かくするどころか、熱くしてくれたわ。
じんわりと涙さえ滲んでいて、彼女の為に絶対に負ける訳には行かないと、私は改めて心に火を宿した。
そうよ。私がこんなんでどうするの? 美咲の笑顔をまた取り戻す為に、心から浮かべてくれる幸せそうな笑顔を取り戻す為に、私は諦めちゃいけないの。
私は皆を励ます係りでもあるんだから、弱音なんか吐いちゃいけないわよね。
「ありがとう。私は後悔もしないし、諦めたりもしない。貴女の為に、一生を捧げるでしょうし、何があっても貴女が、美咲が幸せになれるようにする」
そこまで言って、私は大きく息を吸う。そして言葉を続けた。
「貴女が信じてくれるなら」




