第七話
戸惑いながらも美咲が一番、一生懸命に頑張ってくれているような気がするわ。
彼女の笑顔が無理に作られたものだと分かっているのに、それを本物の笑顔に変えることが出来ないなんて、私も駄目ね。
家来としてとか軍師としてとか、そういうことじゃない。
友達としてそんなんじゃいけないわよね。
「ありがとう。敵の気配を見逃さないように、しっかり精神を研ぎ澄まし目を凝らすのよ。眠くなって鈍ってきたら、すぐに起こして頂戴ね。遠慮ならいらないわ。安全の為だもの」
ここで無理して美咲に眠るように言ったところで、彼女は譲るような子じゃないわ。
それだったら、ここはお願いしておいた方がいいわね。
眠さのせいで私が変なことを言う訳には行かない。ってのは本当だしね。
私の言葉や判断に、私たちの運命は懸かってしまうと言っても過言ではないわ。それだけ重要な役割なのよ。
それを考えたら、寝不足で寝惚けるなんていけないわ。
適当な理由を付けて甘えているだけ。でもいいの。
私は冷静でいなければいけない。私は完璧でいなければいけない。
そんな私の像を守る為の行動であり、優しさではないとしても、それでもいいの。
狡い自分を納得させようと自分で自分に言い訳を並べて説き伏せると、草の中に寝転んで私は瞳を閉じた。
城で暮らしていた頃は、こんなところで野宿をするだなんて、考えもしなかったわ。
たった数日で、暮らしはこんなにも変わってしまうものなのね。こんなにも全てを失ってしまうものなのね。
自分の無力さが未だに悔やまれるけれど、泣いている暇などないのだからと私は深い眠りに付いた。
「ねえゆきたん、本当にあたしたちだけで取り戻せるのかな。国も城も皆も、取り戻せるのかな」
私が目覚めたのは、丁度日が昇ってきたところであった。
昨日と同じ体勢でぐっすりと眠っている凛。見張りをしていて眠ってしまったのか、座ったままで眠っている明。
そして私と同じく、今目覚めたのであろう美咲。
二人が眠っている今だから、私と二人だから彼女はそう言ってくれるのだろう。
作り笑顔なんて浮かべないで、不安と恐怖と信頼と、複雑な表情を美咲は向けてきた。
「正直に言ってしまえば、可能性としては低いでしょうね。香山の軍勢に比べて、私たちの存在はあまりにもちっぽけ過ぎるわ。あちらがその気になれば、この逃走劇はすぐに終わってしまうと思う」
言いたくはなかったけれど、美咲が求めているのは適当な励ましやはぐらかす言葉じゃないと思い、真面目に思っていることを答えた。




