第五話
「う、うわぅっ! はあ、はあ」
体力も足も、凛は限界といった様子。
息の乱れ方も酷いものだし、平らな道でも躓いてばかりだ。
明は笑顔で疲労を少しも見せないけれど、美咲だって疲れている様子だった。
彼女は強いけれど体力はそこまでの怪物じゃないからね。それに私だって、凛ほどではないにしろもう疲れたし辛いわ。
一旦休憩を入れるべきなのでしょうね。
「こんな状態で逃げるのならば、休憩して体力を回復するべきでしょう。無理はお勧め出来ませんから」
軍師っぽく言ったけれど、果てしなく普通のことを私は言った。疲れたから休もう、というだけだものね。
「先生、僕なら問題ありません。それよりも、姫を危険に晒さぬ為、少しでも遠くへ逃げましょう」
凛を心配して私が言ったんだと思ったらしく、もっと逃げようと凛は提案してくる。
普段の凛ならば、こんなミスをする筈がないのにね。
私なんかよりもずっと人を気遣える人だから、他の人の疲労に気付かない訳がないわ。
それに遠くへ逃げることだけが全てじゃない。遠くへ逃げられるのならば、それに越したことはないんだけどね。
ただ森を抜けて今いる場所は、隠れられる場所などどこにもない、広い草原だった。
「疲れちゃったね。りんたんが遠くへ逃がそうとしてくれるのは嬉しいけど、疲れで倒れちゃうよ。休憩しても、いいかな」
凛のことを説得するように、美咲は優しくそう言った。
もう私としては、ナイスとしか言いようがないわ。
やっと凛も私や美咲の疲労に気付いたらしく、頷くと大きく息を吐いた。
「貴女は無理をし過ぎなのです。少し、お休みになられてはいかがでしょう」
囁くように私がそう言ってあげると、一気に力が抜けたようで、凛は可愛らしい寝息を立て始めてしまった。
私に寄り掛かり立ちながら眠る凛を、私はお姫様抱っこした。
こんなに可愛らしい顔を晒されてしまうと、白雪姫を見つけた王子様のような気分になってしまうわ。
凛や明に会うまでは、私は美咲だけを想い、美咲の為だけに生きていくんだと信じていた。
美咲が大好き。その気持ちは今も変わらないけれど、こうして大切な人が増えていくのは、成長と言っていいのか分からない。
別に浮気をしているんじゃないもん。
それでも一途な私じゃなくなっちゃったのは、確かだよね。
「りんたん、寝ちゃったね。でもなんか、りんたんを見てるゆきたん、娘を見ているお母さんみたい」
少しからかうように美咲は言ったんだけど、私自身も確かにそう思うわ。
なんだか、娘を見ているような気持ちになるの。




