第四話
「今よっ! 行きなさいっ!!」
やっと私は翔が何をしているのか分かったわ。
彼のトリックも見つけたし、彼の隙だって読めた。
だから私は確実に安全な時を見計らい、走り出せと号令を出した。
少し驚いたような表情はしたけれど、私の声を聞いて美咲は全速力で走り出す。暴れ回っていた明もそれに続いた。
凛については、驚いているという様子はない。
戸惑っているという様子もそこまではない。
私や美咲とは違って、凛は大人しく城内で勉強をしていることが多かった。あまりに真面目で勤勉過ぎた。
真面目に勉強をしていたからこそ、このような場面では足が竦んで動けなくなってしまうのでしょう。
そんな彼女の気持ちが私は痛いくらいに分かったから、その手を掴んで全力で走り出した。
「しゃがんでっ!」
今や私は全てを見抜いたといっても過言ではないわ。
天才軍師と言ってもこれくらいか、このような子供騙しに引っ掛かり掛けていた私が恥ずかしい。そう思えてしまう程度だわ。
一度仕組みが分かってしまえば、攻撃の順や罠だって全て分かるわ。
私の指示に従って皆が動いてくれていたから、ちゃんと攻撃を避けて逃げ続けていることが出来た。
ただいくら私だって、父上を唸らせた天才軍師の罠がこれだけだとは思っていないわ。
私みたいな子供に見抜かれるとは思っていなかったでしょうけど、他にも沢山の手を用意している筈だわ。
くれぐれも油断だけはしないで、警戒心は解かず美咲を守る為だけに逃げましょう。
早く城を、街を取り返したいって、取り返さなくちゃいけないって、そうはどうしても思ってしまう。
でも慌てたりすると、決して正しい判断なんて出来ないわ。
いくら経験値の低い私だって、それくらいは経験で分かる。ゆっくりと慎重に、確実に目的を達成させる為に。
全てを取り返すのは、もっと力を付けてからの最終目標よ。
とりあえず、いますることはただ一つ。
生きる、ということだけ。
自分が生きる為に、愛弟子を生かす為に、仲間を生かす為に、そして何より大切な美咲に生きて貰う為に。
今はその為だけに、プライドなんて捨てて走り続けるの。
無様に逃げ続けるの。
確かの戦おうと思えば、あれくらいの量ならば相手も出来るかもしれない。
しかし実戦経験の少ない私たちだから、訓練は積んでいると言えども、どこかで怪我をしてしまうかもしれないわ。
疲労だって溜まっていくでしょうし、無駄に戦うのは良くない。
戦いは出来る限り避けなければいけないわ。特に、殺したりするなんてことは。
無意味に人の命を奪いたくない、なんて生易しいことを言いはしないわ。敵は敵なんだから、私はそんなところに情けを掛けたりしない。
ただそれでも、凛の気分を悪くさせてしまうのは、私だって望まないわ。




