第三話
「美咲、落ち着きなさい。まず折角武器を持っているんだから、使用くらいしなさいよ」
冷静にツッコミを入れて、そんな場合ではないので翔を探すことに集中することにする。
ずっと私が美咲のことを守り続けるって、そう誓ったから。
そして師匠として、弟子のこともしっかりと守らないといけないわ。むしろ美咲よりも守ってあげるべきね。
戦いに慣れていたり、武力に自信があったりとするせいかしら。
微塵も恐れているような姿は見せず、堂々とした態度で美咲は戦っている。
私に言われてやっと気が付いたようで、剣を抜いて男性たちに向き直った。
どこに隠れていたのかは知らないけれど、戦争未経験である筈の姫が迷わず人を切り捨てるその様子に、驚きが止まらないみたい。
これだったら、暫くは硬直から立ち直れないでしょうね。
きっと伏兵とか言って美咲を驚かせるつもりだったんでしょうけど、美咲をそんじょそこらのお姫様と一緒にしちゃいけないわ。
この私と一緒に日々鍛錬を続けて来たんだから、成人男性にだって余裕で立ち向かえるわ。
「ひ、姫、姫のことは! 姫のことは僕が守るので、下がっていて下さい。先生が与えてくれた任務、しっかりと務めさせて……頂きま……」
変わらない無表情ながらも、凛は明らかに怯えてしまっている。
私が美咲を任せると言ったせいで、使命感を感じて美咲のことを守ろうとしてくれているのでしょう。
ただそれでも、賢い凛は強い訳じゃない。彼女の希望で剣を交えたことがあるのだけど、力はごく普通の少女のものでしかなかったわ。
その上恐怖ゆえか、今は冷静な判断すら出来ないでしょう。
「りんたん、大丈夫よ。あたしに任せて。ゆきたん多分、りんたんに戦えって言ってないと思うよ。あたしちょっとアホだから、頭良いりんたんにあたしを任せたんだと思う」
血に塗れ男を容赦なく切り倒しながらも、微笑みながら美咲は凛を後ろに下がらせる。美咲が絶世の美少女でありその笑顔があまりに可愛いだけに、その光景はかなりシュールだった。
でもまあ、何気に美咲の言葉はちゃんと合っているわ。
彼女が賢いというよりも、彼女の場合は私のことを知っているからなのでしょうね。
「先生、了解致しました。軍師たるもの、常に冷静であるべき」
凛はやっと正気を取り戻してきたらしい。小さく頷く私を見て、深呼吸をすると美咲の後ろに退いた。
本来ならば姫に戦わせるなんて、そんなのは外道も外道。どれほど戦いたいと申しても、殿ならばともかく姫に戦わせる人がいるものか。
それなのに凛は美咲の後ろに退いた。
それはきっと、自分よりも美咲の方がずっと強いと判断し、即座に美咲の勝率が極めて高いことを感じたからでしょう。
馬鹿みたいに木に突撃する明だって、美咲に攻撃が当たろうものならそれを許しはしまい。




