第十三話
「西の地は誰の管轄下にもありませんよね。恐らく盗賊などの住処となっていることでしょう。少しでも警戒心を解いてしまえば、折角先生が集めた金や食料が全て奪われてしまいます。よって、南へ逃げるのが得策ではないかと思うのです」
どうやらこれで主張は終わりらしく、凛はぺこりと一度頭を下げた。
まだあまり何も教えられていないのに、早くも師匠である私を超えてしまいそうなくらいね。やっぱり、凛が仲間になってくれたことは私にとってかなりのプラスとなるわ。
それにこれならば、私が死んだとしても美咲のことを守ってくれるでしょう。
「姫様、大丈夫ですか? 梶原颯太様を慕って下さっていた、民の皆様に会うこともあるかもしれません。しかし救わずに、見捨てることが出来ますか? ご判断は姫様に委ねます。貴女の行きたい方へ、どこへ行こうとも貴女をお守り致しますのでご安心を」
最も安全と思われる道を提案する。それでも最終的にどこへ進むか判断するのは美咲だわ。そして美咲がどの道を選んだとしても、常に最善の行動を考え続ける。
それが軍師の役目なのよ。
数々の戦いの中、我が父はそうして来たんだ。
今回香山家に敗北し、城は奪われ大将は殺された。守れなかった、予想して対策を用意することが出来なかった。だから、軍師の責任であるとも言える。
それほどまでに、軍師とは大切な役割を担っているんだ。
「あたしは大丈夫。今のあたしは、何をしたって皆を助けられない。だからまず城を取り戻して、それから皆を助けるんだ。大丈夫、大丈夫。自分を守ることが、皆の未来を守るんだから」
自分に言い聞かせるように、美咲は何度も大丈夫と口にする。
とりあえず姫である美咲の同意も得たことだし、南へと進むとしましょうか。
凛の意見は筋が通っていると思うし、別に反論はないわ。私に意見があると言う訳でもないし、凛がそうしようと言っているならば否定する意味がない。
美咲には厳しいことを言ったけれど、私も故郷が今どんな状況なのか見たいって気持ちがあるし。
「急がなければ、街を通過する頃に暗くなられては困ります。空を見た限り、今にも雨が降り出しそうに見えました。暗い中雨に打たれながらでは、進み辛くて仕方がないでしょう」
城を奪ったばかりなのだから、きっと今は戦力の補充に力を注いでいる筈。それに、香山裕史は真面目な男だと聞いている。
女遊びもしなければ、酒もあまり飲まないそうな。
元々大将の影響で、つまらないくらいに健全なあの地。夜は皆しっかり眠りに付くんだもの。




