第十二話
「生きましょう。優しい皆には難しいことかもしれませんが、相手ではなく自分を優先として下さい。自分が生きる為に相手を殺せるくらいの人でないと、生きることすら叶わないようですよ」
奪って来たものを並べながら、私は冷たくそう言った。
分かっているわ。美咲も凛も明も、優し過ぎるのよ。三人とも本当に優しくって、それが失われることなどない。分かっているわ。
それでももっと自分を大切にして欲しいと思い、私はそう言った。
「覚悟は出来ているつもりよ。国を取り戻す為、あたしは戦う。邪魔するならば斬り捨てるのみ」
私の言葉に、美咲はそう返してくれた。そして凛も明も頷いた。
出来ればこんな言葉、美咲に言わせたくなんてなかった。
それでもこうなってしまっては、美咲にも覚悟して貰うしかない。だから私は満足気な笑顔をして見せた。
だって軍師となるものだから。
卑怯や非道と言われようとも、自らの意見を貫くのが軍師だから。何があっても冷静に最善の行動を考えるのが、軍師なのだから。
「今日にもここを発とうと思います。殺してしまったあの二人、彼らが帰らないことを敵は不審に思うでしょう。そして二人が私たちに殺されたと気付いたのならば、どこに捜索へ向かったのかを調べ、私たちの場所が分かってしまいます。だからそれまでに、出来るだけ遠くへ逃げるとしましょう」
お金は十分にあるし、宿に泊めて貰うことも可能だわ。明日は馬を調達し、遠くへ遠くへ逃げることだけを考えましょう。
どうせ街を去るのだから、遠慮はいらないわね。最後にもう一度略奪かしら。
「さすが先生です。南へと逃げてはと思うのですが、いかがでしょう」
軽い称賛の後、凛はそんな提案をする。
梶原家が治めていた地から北へ進むと、この山がある。更に北へ進めば街があると、今日初めて知った。
しかし凛はそちらではなく、反対に南へ逃げようというのだ。南へ行けば、当然香山に奪われた故郷へと戻ることになる。
それなのに南へ行きたいというのはなぜか、私は凛に問ってみた。
単純に考えて良いならば、目を眩ませる為などその程度のことよね。
「東へ進めば香山の本陣があります。それも一つの策かとも思いますが、まだリスクが高過ぎます。北へは、香山の兵ももう向かっているでしょう。その上、北の成田家は香山家と親交が深いと聞きます。逃げ切れるとは考えられません」
初めてよね。凛がここまで自分の意見を言うなんて。
立派になったんだな。成長したんだな。そう思ってしまい、本当に師匠らしくなっている自分が笑える。
こんなことを考えている場合じゃないわ。一生懸命に説明してくれているのでしょうから、最後までしっかり聞いてあげようじゃないの。




