第十一話
「美味そうな饅頭だなぁ。俺に少し分けてくれよ」
お饅頭屋さんを見つけた。お腹が空いていた私は、目に入ったそれが欲しくて堪らなくなってしまう。
だから女性店員の首に剣を向け、出来る限り低い声でお願いをした。
「は、はい。ただいま」
その店員は涙目になりながらも、震える声でそう答えた。この様子だと、私が女だと言うことにも気付いていないようね。
私の背の低さだと、成人男性が纏うような鎧を装着するのがかなり厳しい。
バランスを取りながら手足を長く見せているのだから、立ち方もかなり不自然だろう。しかしそれにも気付いていないようだ。
「オラの店になんのようだ! 金払えねぇ奴にあげる饅頭なんぞないと何度も言っとろう! 懲りないやっちゃ」
あまり素直なお店ではなかったらしい。
店員が奥に消えたと思うと、入れ替わりに大柄な男が出て来た。
何度も言っている? と言うことは、よく来ると言うことなのね。そしてこの男は、毎回それを追い払っていると。
ってことは、お饅頭の味は確かってことかしら。
兵が全てではないのね。そこはちょっと意外。
大将が治めている地では、兵がそのような悪行を働くことはなかった。
でも治安が悪いとこだと、兵が店や民を襲ったりするって聞いたわ。そしてそれに逆らってはいけないんだって、何かで読んだことがある気がする。
やっぱり、本では分からないこともあるのね。
実際の経験が何よりも大切ってことかしら。
そんなことを考えながら、私は普通にその大男を切り捨てた。強いんだと思ったから手加減しなかったのに、そのまま倒れていって少し驚いてしまう。
威勢がいいだけ、見掛け倒し。そんなところかしら。
しかし、なんの罪もない人を殺してしまったわ。ただでさえ血で汚れていたのに、新たな血が付いてしまった。
私がその血を見て顔を歪めていると、先程の女性店員がお饅頭を箱に入れて渡してくれた。
お持ち帰り用にしてくれるなんて、気が利くじゃない。
「ふん」
お礼を言おうと思ったけれど、それではいけないと思う。失礼は承知で不機嫌そうに言うと、私は同じように色々なお店を襲った。
どうやら、あの大男は豪傑とこの街では有名だったらしい。
それを倒したという噂はあっと言う間に広がり、剣を抜くまでもなく皆が私に物を恵んでくれた。
嬉しい。良いこと。なのだけれど、さすがにあまりいい気はしなかったわ。
山を登るのに邪魔なので、鎧を脱ぎ捨て剣を掴むと、私は急いで小屋に戻った。顔にも少し血が付着していたようで、美咲は心配そうにしながらそれを拭き取ってくれた。




