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第零話
十五歳の春の出来事であった。
凛と明という、とても大切な二人と出会った春。
でもそれは、大切なものを失った春でもあった。
大切な人に出会い、大切な人を失った。
大切なものを、今までの全てを失ってしまった。
香山裕史。
あいつが全てを奪った。私の全てを奪ったんだ。
大将を、颯太さんの命を奪った。
父の命も共に奪った。
城も、国も奪った。
そして何より大切な、美咲の笑顔を奪ったんだ。
たった四人で、命辛々逃げ出して。
苦しむ民を見捨て、私たちは故郷を捨てて。
それでも絶対に取り戻して見せる。
失ったものを、私は取り戻して見せる。
もう一度あの城に戻り、美咲の隣で笑うんだ。
無様なあいつの姿を、美咲の隣で嗤うんだ。
だから私は負けたりしない。




