九話
「何を仰られて……」
ぽかんとする女性を尻目に、私達は走って行った。
どこに向かっているのかも分からない。私はただ美咲の後を追った。
「あった。あんたね、絵を盗んだってのは。どうゆうつもりなのよ。あたしがとっちめてやるわ」
そんな美咲の声が聞こえてきた。見つけたらしい。目茶苦茶に走っているだけではなく、ちゃんと探していたんだね。
私もなんとか追い着き、美咲が睨む相手を見た。
あまり大柄とは言えないわ。かと言って、小柄な訳でもないけれど。太ってもいないし、ガリガリだったりもしない。ごく普通の体型ね。
手拭いのようなものを頭に乗せていた。何がしたいのかさっぱり分からない。
反対を向いているので顔は見えない。それに、覗き込んでまで見たいとは思わない。
「五月蝿いな。誰だよ、お前ら。調子乗ってると容赦しない。たとえ相手がお前らのような可愛い子でもさ」
元気いっぱいで高音な男の子の声。なんだか声だけを聴けば、幼い子供のようにも思えるくらいだわ。
「何よそれ。あたし、仲間をバカにする人は許さないわよ」
何気ないその一言で、私は嫉妬という感情が芽生えた。
どうしてなのよ美咲! なんで私のことだけを想ってくれないの? 仲間を、じゃなくて雪絵をって言って欲しかった。




