四話
予想外の答えだった。
私の発想では、絶対に辿り着くことの出来ない答えだった。
「ここが嫌いなのですか? この国が……っ」
でも許せない。
美咲の父が作り上げた、この国をバカにするなんて。それは、私も許したくなかった。
「いいえ。そうゆう訳ではありません」
私の様子を見てそう言ったのだろうか。
それとも、また私とは全然違う発想で? しかし、ここまで異なっていれば話を聞くのも面白いわ。
それに、五月蝿くないしさ。バカでもないしさ。
「この国を嫌うのではありません。この世界を嫌うのです」
つまり凛は、つまり凛は私と規模が違うということね。
国だなんてそんな小さくはないと? 世界単位で嫌っているなんて……。
「でも貴方、世界なんて知らないでしょう? 私だって国から出たことはありません。貴方はあるのですか? この国から出たことが」
世界を嫌う。
そんなことを言えるほど、世界を知っているのかしら。そんな筈がない、そんな筈がないわよね。
世界を知る筈がない。所詮人間だから。
「ありません。この国から出たことはありませんが、世界を読んだことならあります。そして、どこの国も大して違いがないことを知っています」
そんなことないわ。最高の国も、あるかも知れないじゃない。
本とは違う。広い世界には、もっと素敵なところがある。
「本物を知らないのでしょう? だったらこの世界を嫌うのはどうかと思います」
その私の言葉にも、凛は無表情で首を横に振った。
冷たく、冷たい表情で。
「いいえ。そんなことはありません。だって僕はまだ、生きる楽しみを見つけていませんから。先生と出会えて、きっと楽しい思い出も出来ると信じていますが」
暗いわね。凄い暗いわよね、この子。無表情の理由、といったところかしら。
でも過去がないなら、私のものにしやすいわ。そんな取り方も出来る。
すべて私色に染めてしまうんだ。
そう。まるで、洗脳でもしているように……。
「まだ若いのに、どうしてそんなことを仰るのですか? それに、生きることが楽しい筈がないではありませんか。だから、楽しみを探す物語です。人生は」
凛だって、本が好きならば分かる筈じゃない。そう、本当に本好きだと言うならば。
例外なく、どんな物語も好むべきだわ。
人生という物語だって、楽しむべきじゃない。確かに面白いものではない、大半は辛いことばかりだけど……さ。




