己のために 終
受け取った刀を私は高く振り上げた。
刀の訓練くらいしているのに、緊張しているのか、それとも恐怖を覚えているのか、手が震えてしまっている。刀の扱いには慣れているし、処刑を執行した経験もある。
自分を落ち着かせ精神を統一し、私は美咲を斬る。
あぁ、斬られても、美咲はやはり可愛らしいままだ。
まるで赤子が母親の腕の中で眠っているよう。健やかで、無垢で、無邪気で愛らしい。
私には美咲を忘れることは出来ない。
生まれてから、今までの十五年間を、全て捨てることになってしまうから。父上も、故郷も、全て捨てることになってしまうから。
それらが私を作ってくれたのだもの、忘れられないわ。
だけれど哀しみだけでなくて、それらも全て背負った上で、私は幸せに生きる義務があるのね。
もう大丈夫。もう、強くなれる。
過去の私も抱えたまま、新しい私が今きっと産声を上げた。
なのだけれど、最後に過去の私の未練を残させるのだから、翔は侮れない憎き天才軍師だ。
美しく美咲が散るその瞬間、彼が泣いているように見えてしまったのだから。
”ねえ、ゆきたん、正しい道ってあったのかな。どうしたら良かったのかな”
「さあ、どうなのかしら。正しいってどういうことなのか、私には……」
”りんたんとあーたんは生きているし、ゆきたんだって生きてる。ゆきたんは、好きな人と幸せになっている”
「ううん、凛は私の傍にいてくれているけれど、明は結局、貴女の後を追ってしまったの。それに、私は何よりも大切だった美咲を喪ってしまったわ。自らの手で、殺してしまったわ」
優しい美咲はそれでも笑顔で言えるの。
”いつかあたしのことを忘れて、幸せになってくれたら良いな”って。