己のために 五
梶原家であるということが、それだけで殺すべき存在ということなのかもしれない。
美咲個人に恨みがある訳でもないでしょうに、十五の美少女を殺そうだなんて、けれど美咲まで助けて貰おうだなんてあまりに虫のいい話だ。
多くを望むことは許されないの。
「ボクの私情と思われるかもしれませんし、ボクの意見が公平なものか疑われるかもしれませんが、ボクはその要求を受け入れても良いと思います。それでは美鈴様、どうなさいますか?」
淡々とした冷たい喋り方の翔の言葉が、これほど感情の籠るものとなったことが、私に嬉しく思えるほどに翔は動揺を見せていた。
美咲も信じてくれたように、私の目にはきっと狂いがなかったんだわ。
誰よりも何よりも私の誇れるところは、人を見る目ということね。
しかし最終的な決定権は、この香山の娘にあるという。
「うぅん、可哀想ですけどぉ、仕方ないですね。かけちゃん、お願いします」
人が良さそうに作られた笑顔で、可哀想だとか言ってくるけれど、そんなことを感じているとはとても思えない。
だからといって、私たちを苦しめたいだとか、そういったこともないらしい。
本当に彼女はなんとも思っていないのだろう。
少しの感情さえも入っているとは思えず、仕事の一つとして片付けているだけ。誰が死のうと、どうだって良いんだ。
殺してきた人の人生なんて、私も今まで考えることがなかった。
作業のように斬ってきた人たちにも、こんな風に、それぞれの人生があったのだろうな。
そう思うと、私がここで罰を受けるのが、当然のことなのかもしれない。
こいつは、いつこの気持ちを知って、いつ殺されるのだろう。いつこの地獄を、誰が見せてくれるのだろう。
けれど自らの為に大切な人を犠牲にしようとしている私としては、彼女を恨むことなど許されるはずがなかった。
今はまだ無理だけれど、いずれは感謝を抱けるようにならなければならない。
「忠誠の証として、雪絵さんが……。天野雪絵が梶原美咲の処刑を執行するのです。それをもって、我が軍は天野雪絵を受け入れ信頼することを誓います」
守ってきた相手であり、守らなければいけない相手である。
その美咲を、私の手で処刑するだなんて、残酷で耐えがたいことであった。裏切りの覚悟は決めていたのに、ここまでの覚悟は持てていなかった。
剣を渡す翔ではなく、無慈悲な笑みを浮かべる笑みを浮かべる香山美鈴でもなく、自分の甘さがただ恨めしかった。
「わかりました」
「くれぐれも、失敗しただとか、そういったことはないようにするのですよ」
「ええ、努力します。それでも尚、失敗したとなりましては、運命が美咲の生を告げているということでしょう。ならば代わりに私が死ぬとします。そうはならないよう、確実に一撃で仕留めさせて頂きますね」