己のために 四
助けて。ねえ、助けてよ。だれか、助けてよ……。
私も落ちたもので、そう望んでしまっている。
そんな私のところに、皆が来てくれたのだと、報告された。
しかし私が願っていた形ではなくて、私が信じたくなかった形で、訪れてくれたのである。
逃げ切ることなど出来るはずもなく、皆とも捕まったようなのだ。
一日も経たないうちの再会なのに、物凄く久しぶりであるかのように思えるわ。
「父上たちは?」
「捕まる直前に自害したわ」
私の知っている美咲とは違う、暗い顔で、私の質問に彼女は答えをくれる。
そうか、そうよね、そんなものよね。
どこにもある筈のない平和を、十五年間も信じていられただけ、幸せと思うべきなのかしら。
「お願いがあります。聞いて頂けないでしょうか」
このままだと、私たちは全員、殺されることになってしまう。
今から私がしようとしているのは、最低なお願い。何より大切に想い合い続けてきた大好きな美咲のことも、私を信じ慕ってくれた凛のことも、私たちを守ってくれた明のことも――
この場にいる、それだけじゃない。
尊敬する父上のことも、大将のことも、大将が守ってきた素敵な国、私の故郷のことも、私を見守り笑ってくれた心優しい民のことも。
そして今までの私のことも、全てを裏切る選択であり、最低の選択だろう。
最初から間違っていたんだ。
逃げ出し、反抗した時点で、間違ってしまっていたんだ。
その罪を犯したのは私であるのに、私は私の幸せの為に、その罪を大切な人に擦り付けようとしている。
私の気持ちを伝えて、どうするべきなのかと、処刑の日まで美咲に相談した。
心優しい美咲が提案してくれたのは、私に残されたハッピーエンドへの欠片だった。
そして今、私はそれを告げようとしているのだが、言葉に詰まってしまう。美咲の優しさを無駄にはしたくないのに。
「いかがなさいましたか、雪絵さん。元いた国を捨て、生きる覚悟が出来ましたか?」
「はい、そうなのです。恥ずかしながら、私は生きたいと思ってしまっているのです……。それはもう、美咲と一緒に死ぬこと以上に……っ」
父上と大将がそうであったように、私と美咲もその道を辿り、目指すものだと思っていた。こんな醜い気持ちになんて気付くんじゃなかった。
彼らこそが、正しい選択だと私は知っている。父を尊敬しているから、確信だって持てる。
唆した張本人である私が、本来ならば罪を問われるべきなのだ。
それに従っただけの人たちに、罪を問うべきではないわ。
「翔、私は本当に貴男のことを信じても良いの?」
「あたしはゆきたんの目に狂いはないと思ってる。だけど、一応、言っておくから。かけるん、ゆきたんの無事は保障してくれなくちゃ許さないからね」
息を大きく吸い込んで、美咲は大人びた笑みを浮かべる。
「父亡き今、総大将である私を殺せばそれで終わりでしょ。ゆきたんの傍からあたしを引き剥がすんだから、それだけのことはしてよね」
何も相談していないのだから、凛と明は当然ひどく驚いている。
凛は黙ってこちらを見ている。明はぽかんと口が開いてしまっていた