己のために 一
翔の求めるもの。それが、私なのだとしたら?
そんな筈がないわ。私は美少女だし、胸も大きいし、文武両道だけれど、翔が欲しがるほどじゃないわ。
私は何を期待しているのよ。
でもだからって、そうじゃないと言い切れない。
違う。違う。違う違う。絶対に違う、と思う。
それに私だって、仮にそうだとしたら、どうするつもりなのよ。
どうにもならないじゃないの。
「雪絵さんは独学で学ばれたのですか?」
「ええ」
妙に話し掛けて来る。話をしたいと言って、私もここに来たのだから、そんなの当たり前かもしれないけれど。
彼の問い掛けに、私は一つ一つ、適当な答えを返していった。
ほとんどが肯定か否定か、その程度の意味しか持たない、たった一言だった。
しかし彼は、何度でも私に問いを投げ掛ける。
価値のなさそうな情報なのに、そんなことまで彼は知りたがるのだろうか?
不思議だった。
この美しい天才が、私は不思議でならなかった。
「やはり雪絵さんは興味深い。どうです、ボクと一緒に生きはしませんか?」
質問が途切れたかと思うと、そのようなことを言い出すのだもの。
「……なんてね。お仲間を大切にしていらっしゃるのが、最初に会ったときから分かっておりましたし、冗談ですよ」
すぐに作られた微笑みで誤魔化されたが、先程の真剣な表情が忘れられなかった。
冗談だ。彼自身だってそう言っているのだし、少し、私をからかったくらいのことなのだろう。
この天才がそのようなつまらないことをするとも思えないが、自惚れていた私を、誇り高い私を、嘲笑ってやりたいだけなのだろう。
あぁ、きっとそうだ。そうでなければ困る。
だって私は、この男が憎くて堪らないのだから。
「貴男は、どうしてここにいるの? どうして戦うの? どうして戦の指揮なんてものを、執り続けているの? 噂にあるほどに、残虐な性格の持ち主とは、どうしても思えないのです」
憎くて堪らない。全てを奪ったこの男を、今すぐにでも殺してしまいたい。
その筈なのに、私はそんな風に尋ねてしまっていた。
血も涙もない冷淡な笑みを、冷徹な笑みを、私は何度もこの目で見てきた。それだったら、知っているでしょう。
噂の通り、残虐な性格の持ち主なのよ。こいつは、人間じゃない。
それくらいに思わないといけない。殺さないといけない。なのに、なんでよ。
「さあ、どうしてでしょう。平和という単純な言葉に、惑わされてしまったのかもしれませんね。戦が長引くことにより、敵にしろ味方にしろ、人が死んでいくのは嫌ですから」
そんなことを言わないでよ。憎めなくなるじゃないの……。