四
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それでもあきらめずに(というか、あきらめるにしかるべきタイミングを見計らって)いると、もう空気が抜けてぶよぶよになってしまっているボールを発見した。
それはバスケットボールだった。
そういえば信行秀は、中学、高校とバスケットボール部に所属していて、高校三年生のときにはキャプテンもやっていたのだった。あまり強い高校ではなかったけれども、それなりに部活の時間は充実していた。
いや別に充実なんてしていなかったさ!
よく思い出せ。
よく思い出すんだ信行秀! お前は確かに高校二年生のときに、新チームのキャプテンとして任命されたけれども、そのころはもっとほかのことに興味があったし、うわ受験勉強の邪魔になりそう、みたいに思って、決してその任命されたことをうれしくなんて思っていなかったぞ。
それにだいたい友達とさぼっていただろう。
何かあれば、お前は部活のさぼることばかり考えていたはずだ。じゃあなぜ部活をやめなかったのか。そりゃ部活をやめるのがかっこ悪いと思っていたからだ。部活をやめて帰宅部になれば、ほかの生徒たちから一気にバカにされると恐れていたのだ。
「しょうもない。今更こんなものが出てきたって何にもなりゃしないな。それに空気が抜けていたんじゃ、本当にゴミじゃないか。これはただのゴミだ。ゴミ箱に今すぐシュートすべきだな」
信行秀はそう思うと、うわまたおしゃれだ、と思った。
またおしゃれだ。
またゴミ箱を使った、ウェットのきいたいい感じのセリフを言ってしまった。シュートとか! ゴミ箱に今すぐシュートとか、誰かがもうすでに思いついて発言していそうだけれども、それが誰なのかは具体的にはわからない。
しかも微妙にかっこいいのかかっこ悪いのかわからない。
かっこいいとでも思っているのか。
かっこいいのかかっこ悪いのかよくわからないんだったら、それはやっぱりかっこ悪いんだろう。ああなんてかっこ悪いセリフを思いついてしまったんだ、俺。
死にたい。
もう死んで灰になってしまいたい。
なんでこんなノコギリの探す役なんて買って出てしまったんだろう。今まで一度だってそんな役をしたことはないのに。一度でも、俺って結構物置からノコギリ探すのうまいな、みたいなこと思ったことないのに。
調子に乗っていた自分に腹が立つ。
休日だから、何か人のためになることをやって、さらにいい感じの気分になってやろうと思っていた自分が憎い。憎たらしくてアゴを殴ってやりたくなる。
アゴを殴られて失神しろ。
バスケットボールにも特にいい思い出はないしさ。
いい思い出の一つでもあれば、何か心がほっこりとして、それはそれでまたいい感じになれたのだろうけれども、ちゃんと記憶を掘り起こしてみたら、案外怠けていたっていうか、あのころから何事においても面倒くさがり屋だった自分が見えてくるばかりじゃないか。
クソだな。
やっぱり俺の人生はクソだ。もしこれがゲームか何かなら、そろそろリセットボタンを押してすべてをなかったことにするレベルだ。
ああもう疲れた。俺は人並みだ。何をどれだけがんばったところで、せいぜい人並みまでの域にしか到達できないんだ。ノコギリを発見した。
発見したノコギリを祖父に渡すと、祖父はよろこんだ。完。