三
三
物置の扉を開けてみると、ものすごく埃っぽい匂いがした。
きっと何年も開けていなかったのだろう。
そんなに立派なものではないのだけれども、一畳半くらい? の大きさがある。この中にノコギリがあるのだな。俺はこれからそのノコギリを探し出して、おじいちゃんに渡さねばならない。おじいちゃんの思いにこたえなければなららない。
それが今のところの俺の使命。
信行秀はそう思うと、さっそくノコギリを探し始めることにした。
当初は、簡単に見つかるだろうと思っていた。ノコギリなんてそんなメジャーなもの。そんなメジャーな工具。すぐに見つかるはずさ。逆に見つからなければ、この物置には何が入っているんだ、ということになる。
ノコギリくらいあるだろう。
ノコギリくらいあるはずさ。俺も小さい頃に見た記憶があるんだ。いやそれは確かな記憶ではないけれども、でもどこかで見たことはあるような気がするし、もっといえば、ちゃんと何かで使ったことすらあるような気がする。
あれは友達の家でだったかな?
友達のお父さんと一緒に遊んだときだったかな?
ところがノコギリは、信行秀の思惑とは裏腹に、なかなか出てこない。
なかなか見つかることはなかった。
「何でなんだ? 何で見つからないんだ。もしかしてここにはないのか?」
そう思ってはみるものの、じゃあここでなければどこなんだ、と思うと、そちらの回答もなかなか出てこない。
やはりノコギリは物置にあるはずなのだ。
この物置にあるはずだ。まさかキッチンの棚にあるとか、母親のクローゼットの中に入っているわけがない。母親のクローゼットの中に入っていたらなんか怖いな!
どうしてお母さんそんなところにノコギリを?
ノコギリを隠したっていうんだ。いつか強盗が忍び込んできたときのため? それとも何か夜な夜なそのノコギリを使って切断しているものでもあるというんですか。
ノコギリの見つからない時間が長い。
こういう想定していなかった時間に直面して、その中でいろいろと考えながら作業を進めていると、だんだんとその作業自体が嫌になってくる。
嫌になってきて、「もっと自分は何かほかのことをやっているべきなのでは? どうしてこんなことを俺がしなきゃならないというのだろう。ほかの奴がやればいいのに。本当は、もう俺はなにもしたくないのだ」
信行秀は、もうノコギリを探すのはあきらめようかな、と思った。
なかったよ、といっておじいちゃんの元に戻るのだ。そうすればきっとおじいちゃんだって、そうか、なら悪かったな、みたいなことを言って許してくれることだろう。
俺たちは家族なんだ。
家族なんだから、まさかそんなノコギリの見つけられなかったくらいで、何かひどい目にあわされることはないだろう。ひどい仕打ちのあることなんて、きっとないはずなのだ。