二
二
休日もお昼近くになり、さすがにもうこれ以上寝ていられない、ということになってベットから起き上がった。そのまま一階のリビングに降りていくと、おじいちゃんがベランダで何かをじっと見つめていた。何を見つめているのだろうと思って近寄っていくと、彼はある木片? をずっと見ているのだった。
それは長さが一メートルほどある、真新しい木の角材だった。
「おじいちゃんおはよう」
「おお信行秀か。おはよう」
おじいちゃんに後ろから声をかけてみる。
「おじいちゃん何を見ているの?」
「木じゃ」
木……だよね。うん。それはどこからどう見ても木だ。
「なんで木なんか見ているの?」
「うむ。わしはこれからこの木を切ろうと思っておる。いわゆる切断というやつじゃな。この木を切断して、そしてその切断したもので、ミニハウスを作ろうと思っておる」
「ミニハウス?」
信行秀は、何だそれ、と思った。
「ミニハウスというのは、その言葉通り、小さな家、ということじゃ。おじいちゃんは今からこの木で小さな観賞用の家を作ろうと思っておるのじゃよ」
「そうなんだ」
わけわからんな。なんかわけわからんことをしようとしている。しかしまあどうでもいいだろう。おじいちゃんのすることはもはやどうでもいい。
なぜなら彼は、もう労働を終えている人間だからである。人間としての労働を終えている人間なのだから、何をして遊ぼうといいじゃないか。他人に迷惑のかけるものでなければかわいいもんだ。とめるべきことでは全然ないことだろう。
ミニハウス。
まったくわけがわからんし、そんなもの作って何をするのかわからないけれども、いいんじゃないかな。おじいちゃんはもう自分の好きなことをしまくったらいいんじゃないかな。ハゲ。
「でも一つ困ったことがあってのお」
「どうしたの?」
「この木を切る道具がないんじゃ」
木を切る道具? たとえばノコギリとか?
「ノコギリとかがないの?」信行秀は言った。
「そうじゃ。肝心のノコギリがない。ノコギリがなければこの木を切断することはできんのお」
「そうなんだ。でもノコギリならどこかにあるんじゃないの? 俺探してこようか?」
「ノコギリはあるんじゃよ。場所はわかっておるんじゃ」
何だ話が早い。
「どこ?」
「あの物置の中じゃ」
そういうと、信行秀の祖父は、庭の隅に置いてあった物置を指差した。あそこにノコギリがあるというのだろうか。
「いいよ。俺がとってきてやるよ」
「すまんのお。こう年を取ってしまうと、あそこの物置にノコギリを探しに行くのも億劫なんじゃ。なさけない」
「いいよ。俺がとってくるって」
「ありがとう」
構わん構わん。全然構わんよ。確かに今日は久しぶりの休日だし、ちょっとしたことにでもできれば体を動かしたくないっていうのはあるけど、でもおじいちゃんの頼みだから。おじいちゃんの頼みだったら、俺、よろこんできいてあげるよ。自分も年を取ったらって思うと、どうしてもほっとけないんだ。自分のおじいちゃんだしね。よく覚えていないけど、小さい頃お世話になっただろうし。
信行秀は一旦玄関から外に出ると、庭の物置へと移動した。