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なのはなイリュージョン

作者: さいとう







  きいろ。

   きいろ。

  たまに きみどり。

  きいろ。

   きいろ。

  ときどき しろ。

  きいろ。

   きいろ。

  ずっと ずーっと。

  みわたすかぎり。







「いま思ったんだけど、」

  なに?

「行こっか」

  どこへ?

「さんぽ」

  いいけど……どしたの、急に。



 彼は微笑んだ。なにも言わず、柔らかに微笑んだだけ。そんな彼の笑顔に、ふしぎとつられてわたしも笑った。



「きっとさ、」

  うん。

「もうそこまで来てるよね」

  なにが?

「うん、やっぱり来てる」

  ……?

「『春』だよ」

  春、って……季節の?

「そう」



 よく行く道で、その垣根にとまる小鳥を見つめる彼は、また微笑んだ。『めじろ』だ。そこでわたしはやっと、春が来ていることに気づいた。



 見つめられて恥ずかしくなったのか、めじろは飛んでいった。眩しい青の大空に力強く羽ばたいた。わたしもあんなふうに自由に、大空に羽ばたく翼があったらなあ……。



 ふと視線を垣根に戻す。その根元にぽつんとあった、小さな黄色の花びら。太陽に向かって煌めいていた。春はほんとうにそこまで来ていた。



「春と言えば?」

  春と言えば……?うーん。

「いろいろあるよね」

  あ、桜とか?

「桜かあ、春だね」

  あとは……、

「菜の花も春だね」

  ああ、この花でしょ?



 指さした先にはさっきの黄色。小さくて、愛らしくて、あったかい。まるで目の前にいる彼みたい。わたしが本心を口にすると、彼は手で髪をくしゃくしゃにして微笑んだ。照れたときの彼の癖。わかりやすくてわたしは好き。



 さあっと爽やかな風が通る。ワンピースの裾がちらりとめくれた。視線で風を追いかけると、そこは一面ずっと黄色だった。



  わあ……。

「きれいだね」

  うん。

「とってもきれい」

  そうだね。

「なんか、いいよね」

  なにが?

「こういうのって」

  こういうの……?

「春さがし」

  ああ、そうだね。

「また探そう」

  春?

「うん。でも春だけじゃなくて、」

  夏も?

「夏も秋も冬もずっと」



 ずっときみと探したい。そう言って彼は手で髪をくしゃくしゃにして、そして柔らかに微笑んだ。風がまたワンピースを揺らす。たくさんの小さな黄色が、あたたかく煌めいた。まるでわたしたちを見守るように。









おわり

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