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プロローグ

「いやー、この森のどこかにある聖域。一度でいいから入ってみたいよな~」


 誰に言うでもなく、好奇心を固めてそのままはめ込んだような爛々と輝く青い瞳で、周囲を見渡す一人の青年。鬱蒼と茂る森の中に在りながらも、その燃えるような短髪の赤髪が特に目を引く。背には長大な白銀の槍を装備し、その身を黒い軽鎧で固めている。

 その背後には、崩れた竜の彫像がいくつもの欠片となり、太い木の根がむき出しな大地に散乱していた。が、彼はそれに気づいた様子もなく、一人高揚して森を進む。


「だって“竜”の聖域だぜ? 響きからして珍しいドラゴンがいるに違いないんだよ。いやー否が応にもテンションあがるな~って、まだ竜の子一匹見てないんだけどなー、はっはっはー! ってお?」


 と。

 歩きながら上を向いて馬鹿笑いしていると、ラグナの視界に赤い木の実が入ってきた。大きさは目視で人の頭ほどもあり、それは頭上十数メートルはあろうかという位置にある。

 とげとげしてよく熟している真っ赤なその実は、地上まで香ってきそうなほどこれ以上ないくらいの美味しさを醸し出していた。

 ごくり、と喉が欲をこぼす。


「さすがにちょっと高いな。ジャンプしても届かないだろうし……」


 森の中を延々歩いてきて小腹が空いているのに、手軽に手の届かない位置に木の実がなっている。腕を組みながらもどかしくなり、次第にイライラし出してポリポリと頭を掻くラグナ。

 森の外で待機させているドラゴンを連れてくればよかった、とラグナは心の中で少し後悔した。だがさすがにまだレベルが低い。もしも森の中で思わぬ強敵と遭遇してやられちゃったら困る! 泣いてしまうかもしれない!

 ラグナは拳を強く握りこみ、自身の胸をバシバシ叩いてむせび泣く。自分の竜が敵に打ち負かされボロボロになっているところを想像し、止め処なく涙がこぼれてきたのだ。


「うぅ、俺のドラゴンが、なんてこった。……まあ仕方ない、技でも使うか」


 けれど途端に泣き止み真顔に戻ると、言うなり背中に装備していた槍を外す。そしてラグナはおもむろに投擲の構えをとった。

 木の実のちょうど(へた)の部分を狙い、枝から断ち切って落とそうという算段だ。

 次の瞬間グッと腰を沈め、下半身のばねを最大限活用し強く地面を蹴る。

 バリバリと音を散らしながら帯電する白銀槍。


「おら、飛んでけ俺の槍! 《ライトニングスロー》!」


 ビュンッ――――と風を切る音が鳴る、最小限のステップで放たれた得物。

 雷を纏った銀の槍は、その技名の示すとおり閃光の如く勢いで、目標である木の実へと真っ直ぐ飛んでいく。軌道は寸分足りと狂うことなく、ラグナの獲物は見事!


「あっ!?」


 そのど真ん中を打ち抜かれ木っ端微塵に粉砕された。


「…………あぁあああっ!! 俺のおやつがッ!!」


 自分で仕出かしたこととはいえ、そのあまりのショックにラグナは大きく肩を沈ませた。

 俺のおやつ、俺のおやつと自身を呪うような怨嗟の声をぶつぶつと呟きながら、光を映すことのなくなった瞳を地に落とす。

 けれど数瞬の後、ラグナはとある大事なことに気づいて顔を上げた。


「はっ! しまった、俺の槍ーッ!!」


 そうしてラグナは思いっきり力を込めて投擲した自身の槍を探しに、さらに薄暗い森の奥へと泣く泣く駆けていくのだった。



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