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その3(解決編)

 翌日の事だ。

 朝のホームルームで昨日は表立って行動してなかった晃一くんが先生に聞いた。

「先生、昨日のパンツの件はどうなったんですか?」

 僕らがあれだけ粘って監視していたんだ。仮に犯人が家に帰って再び学校に来たとしても1時間待ったくらいでは見つけられる。だけど、先生の返事は意外なものだった。

「お? 忘れた奴がちゃんと取りに来たぞ」

「え?」「ウソ」

 そんな声が重なった。昨日の夕方……とは考えにくい。すると朝早く学校に来てから……?

「いつですか? いつ取りに来たんですか?」

 晃一くんがさらに聞く。さすがに犯人が誰だったかなんて教えてはくれないだろうから、少しでも情報を得ようとしているらしい。いつも晃一くんは学校に来るのが早いから、仮に今日なら大分容疑者が限られるはずだ。

「もちろん昨日だよ。さすがに丸一日放置しておくことはできないだろ」

 先生がウソを言っているようには見えない。すると僕たちが帰った後に来たに違いない。あぁ、もう少し待っていればよかった。激しく後悔した。

 悠斗と目があった。悠斗も残念そうな顔をしていた。


 犯人はわからなかったけど、事件そのものは解決した。

 一度もバッグから出していないのに消えた財布が交番で見つかったみたいな気持ちだった。財布もカードも取られたものは何もない。だけど今までのものとは少し違う気持ち。

 一番驚いたのは、こんなことに僕自身興味があったという事。3限の国語の時間に気づいた。探偵になったわけでもないのにこんな頭から離れないなんて。みんなはホームルーム以降全く話題にしないのに。

 でも、ずっと考えていたおかげで怪しい人を見つけることができた。いつもと比べるとたいしたことではないと思うけど、普通に考えるとちょっとしっくりこない。友達関係が悪化しないことを祈りつつ、僕は放課後2人きりで話す機会を作った。


「家に来るのって久しぶりだね」

 僕は遊びに行った。あまり自分から『遊びに行ってもいい?』なんて聞いたことがないからちょっと驚いていたけど、それがかえって良かったのか断られなかった。

「あー、そうだな」

 2階の部屋に行き、1人待つ。しばらくするとお盆に麦茶を載せて持ってきた。普段の言動からするとちょっと意外に思えるかもしれないけど、僕は知っている。

「今コレやってるんだけど、やる?」

「うん」

 レースゲームをすることにした。ゲーム機本体を出してコードをつなげて……僕は見ているだけ。そこで話すことにした。

「あのパンツ事件って結局誰が犯人だったんだろうね」

 僕の意識しすぎか、ほんの一瞬動きが止まった気がした。

「え? 知らないよ。やっぱり渉じゃないのか?」

「ちょっとさ、今日の授業中ずっと考えていたんだけど、今考えると篤志の行動ってちょっと変だったよね」

 その一言で篤志は僕が何の目的で来たのか理解し、僕も覚悟をした。

「変ってどこが?」

「とりあえず3つかな。最初に篤志が渉くんを追う役になったこと。だって授業で突っ込んでいた篤志1人が尾行したらばれた時に何も言い訳できないよね。……これについてはそこまで考えられなかったというのもあるけど」

 コードを持って屈んだまま篤志は僕を見ている。

「次に、帰ってくるときの集合場所。できるだけ長く見張りをしていた方がいいのにわざわざ校門集合にさせたこと。つまり篤志が僕たちと会うまでに校内に入れる時間があったんだ。わざわざ外で集合なんて面倒くさいと思っていたんだけど」

 篤志はあまり表情を変えずに、僕をじっと見てる。

「最後にお店でシロであることを意識させようとして互いに見せ合った事。最初から休み時間に全員ですればよかったのに。……これも後で思いついたなら仕方ないけどね。とりあえずこの3つだけど、特に証拠があるわけでもないんだ。ほら、昨日あそこまで熱を入れたからさ、どうしても可能性を確かめたかったんだ」

 言い終わった僕の説明を聞いて篤志は……笑った。

「あははは! お前マジになりすぎだよ! 俺が犯人のわけないだろ! あっははは……」

 全くいつもの篤志らしい笑いだった。篤志が言うには僕は考えすぎだったらしい。とにかくあの時は自分が考えている案が一番だと思い、僕たちの意見を受けることなく思いついたことをやっただけ、ということらしい。

 いらぬ心配だったということがわかって拍子抜けした。ドッと疲れが出た僕はゲームをして真剣に楽しむことにした。疑ってゴメン、その一言も加えた。


 楽しいと時間が過ぎるのも早い。まだ空は明るいけど、もう6時になろうとしていた。

「もうこんな時間だね。そろそろ帰るよ」

「ん? ああ、そうだな」

 ソフトをしまって、コードを片づけて……篤志がつぶやいた。

「俺なんだ」

「……え? 何が?」

「パンツ忘れたの」

 一瞬何を言っているのか僕にはわからなかった。とても日本語とは言えない言葉だった。しばらくしてその言葉の意味を理解した僕は次に「ウソピョ~ン」とでも言ってくるのを準備していた。

「とにかく蒸し暑くてすぐに着替えて出たかったんだ。それだけなのに……なのにこんな……こと……に……」

 最後まで言えないほど激しく泣き始めた篤志。

 推理が当たっていたとかそんなレベルではない。ただ目の前の未だかつて他人の前でここまで泣いたことはないであろう篤志の姿にただただ立ち尽くしているだけだった。

 無理をしていたんだ。それにも限界があったんだ。

 かけてあげる言葉も出てこなかった。



 僕は思った。

 僕がこの事件の犯人なんだって。

 トリックにあたる部分を自分は「ネタ」と呼んでいますが、この場合は『替えのパンツを忘れて水着をはいている』ネタでした。当然それだけで話はできません。

 今までは出題型の推理小説を書いてきましたが、これだけは無理がありました。よってしばらく放置していましたが、まさかこんな形で登場するとは……わからないものです。

 篤志が行ったトリック(?)も最後の妙なシリアスさも話の流れみたいな感じでした。本当は舞台が小学校ということでもっと子供らしい感じになる予定でしたが……。

 自分の脳内が一番のミステリーですね。

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