その2
そもそも何故渉くんが容疑者になってしまったのかというと今までの行動が原因だったりする。
基本的に何事も平均以上にこなす渉くんだけど、いわゆる『うっかりさん』だったりする。左右違う靴下を履いてくる、宿題を忘れる(本当にやったけど、忘れて昼休み取りに行ったほど)、理科の移動教室で持ってきたのが音楽の教科書、その音楽ではリコーダーを家に忘れてくる、これらは比較的目立つものだけど、極端な事を言えば1日に1回は何らかのうっかりをする感じ。
だから篤志がああ言ったのはあながち見当違いではないんだ。
そんなこんなでホームルームが終わって放課後。僕たち3人はアイコンタクトをして作戦を実行した。
職員室前にいると警戒して誰も来ない可能性がある。だから僕たちは窓越しに入口のドアが見える位置にいた。ちょうど校舎の形が『エ』の字で、左上が職員室だから左下で待機している感じになるかな。
『昇降口を出た。家に帰るかも』
篤志からのメール。渉くんは校舎を出たようだ。
僕たちはじっと職員室を見張っている。今のところクラスの誰かが出入りするのは確認できない。
――10分が経った。悠斗の携帯にメールが届いた。
『渉は家に入っていったよ。しばらく遠くで見張ってる』
うーん、どうやら長期戦になりそうな感じかも。
そもそも職員室なんて普段生徒が出入りなんかしない。そして先生でさえそんなに頻繁に出入りはしない。基本的にほとんどの生徒は用もないので家に帰って、残っているのがまれだ。
――さらに30分は経った。
「暇だな」
「うん、そうだね」
「座らないの?」
「いいよ。立ってる」
悠斗は近くの視聴覚室から椅子を持ってきて座って窓を見ていた。
「オレ思ったんだけどさ、犯人は渉ではないんじゃないかな?」
「え? ど、どうして?」
「いや、何となくだけど。……なぁ、一応念のため2人で確認しないか?」
悠斗の提案が悪魔の言葉に聞こえた。そんな考えが僕の顔に出た。悠斗にとってはただの時間つぶし的な提案だったに違いないけど、笑っていた目元が口元が数秒で素に戻った。
「おいおい、まさか……」
「違うよ! 僕じゃないって!」
ゆっくりと僕の方へ寄ってくる悠斗。僕の後ろにある水泳用のバッグに手を伸ばそうとして……僕のズボンを下ろした。
僕もうっかりしてた。てっきり悠斗はバッグの中身を確認するものだと思っていたからだ。狙いはこっちだったのか……天を仰ぐといっても今は天井。僕は天井を仰いだ。
「これって……」
悠斗は言葉にならない。
それもそうだ、本来はいているはずのパンツが水着なのだから。
「え、何で? ……あっ、まさか家からはいて忘れたパターンか」
悠斗の言う通りだった。
僕は着替えを見られるのがいやだったから家から水着をはいてきた。そして替えのパンツを忘れたのだ。だから確認されるのが怖くて心配したし、濡れるのがいやだったから余計なところに座りたくなかった。
「……まぁ、気にするなよ。おかげで犯人じゃないってわかったんだしさ」
慰めのつもりか悠斗は肩をポンと叩いた。そうだ確かにこれで完全にシロであることが証明できたのだから……いや、何か引っかかる。あ、悠斗のを見ていない。僕はそのことを口に出そうとすると悠斗の携帯が震えた。
『全然出てくる気配がない。学校に戻るから校門前に集合な』
渉くんの粘り勝ちなのか篤志は諦めたみたいだ。結局職員室を誰も出入りしなかった。
暑さにやられたのかゆっくりと歩いてきた篤志。
「1時間も粘ったけど、渉のやつには負けたよ」
もちろん日陰にいたんだろうけど、この暑さの中1時間も外でずっと見張っていたのだから愚痴が出るのも無理はないと思う。
「とりあえず伊勢屋に行かない? 暑くて熱中症になっちゃうよ」
伊勢屋は校門を出て左に3分歩くとある小さなスーパーだ。
僕たちは店に寄って涼み、トイレで3人それぞれ確認した。おかげで篤志にも水着の件はばれたけど、3人そろってシロだった。
となると残り13名の中にいることになる。ここまできて解散するのは名残惜しいけれど、仕方がなかった。
「じゃあ、明日な」「うん、またね」「じゃあね」
それぞれ家に帰って行った。