その1
ねぇ、学校の水泳の授業って好きだった?
僕は何とか25mなら泳げるし、バタフライは苦手だけど、クロールも泳げるよ。
これは僕の小学校で起きたとある事件。
まさか……まさかあんな日にこんなことになるなんて思いもよらなかった。ホント、後悔してもきりがないよ。
◆
それはいつも通りの夏の暑い日。教室にクーラーなんてないから窓を半開きにして過ごしていたいつもの日。
普段は授業後に女子が教室を占領して着替えて僕たちが廊下で待つ、そんな体育の時間なんだけど、今日は違う。先週から始まった水泳の授業で、更衣室で着替えた僕たちと女子は次の算数の準備をしていた。
チャイムが鳴って先生が入ってくる。
そして台の前に立つなり、開口一番。ここから全てが始まった。
「えー、男子更衣室にパンツの忘れものがあった。心当たりがあるものは後で職員室に来るように」
当然のように教室内はざわめいた。俺じゃない、お前なのか、いいや違う、ということは誰かノーパンなのか、そんな低レベルなやりとりが僕の耳に聞こえてきた。
「まさか渉じゃないよな?」
そんな声が室内に響いた。
声の主は篤志。渉くんの2つ前の席から間の悠斗を横にやって覗き込むように聞いてきた。こんな事を堂々と口に出せるのは篤志くらいだ。
「違うよ」
それだけ言うと渉くんは目を逸らした。その反応を見てさらに篤志が聞こうとするところに先生が割って入った。
「はいはい、下らない犯人捜しは後回し。授業やるぞ。一昨日の宿題はやってきたか?」
一旦その場でパンツ事件の犯人捜しは休止となった。
先生が授業を進めて黒板に書いていく中、僕は後悔していた。まさかこんな時にこんなことが起きるなんて。
算数が終わって給食の時間へと進んだけど、教室内にずっと先生がいるためか比較的みんないつも通りの様子だった。
そして昼休み。家が近所ということで特に仲がいい僕と篤志と悠斗の3人はウサギ小屋の横で固まって話をしていた。
「絶対犯人は渉に決まってる」
再度強く訴える篤志。比較的思ったことは口に出す性格だけど、この場合どう働いたかわからない。だけど、何かのアクションにはなるのだと思う。
「確かに渉は一番の容疑者だよな」
席が篤志と渉くんの間の悠斗。僕と幼稚園から一緒の仲だ。篤志ほどではないけど、少なくとも僕よりは色々アクティブな性格だ。
「僕も……確かに渉くんである可能性は高いよね」
あまり人を疑いたくない性格だけど、今回ばかりは仕方がない。僕も容疑者を渉くんにすることにした。
ちなみに6年1組36名のうち、男子は16名。この中にパンツを忘れた犯人がいて、そのうち3名がここにいる。
今、他の13名は全員グラウンドにいて、昼休みにパンツをとりに行くという犯人はいないらしい。
「このままだと放課後だな。渉は絶対放課後に職員室へ行くはずだ。となるとつける必要があるな」
そのまま篤志の提案によって放課後僕と悠斗は職員室が見える場所で待機、篤志が渉くんをつけることになった。何かあったら篤志と悠斗の携帯でやり取りをする。うん、僕は携帯を持ってないんだ。