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カジノナイト

ジーザスと仲直りした。


ま、いいか。とんだとばっちりを受けたけど、彼が笑顔になったし………


Tou set bien qui finit bien! 結果オーライだわ!


キャーーーっ!私ったら、バスローブ姿だ!





私が慌てて、奥に引っ込むと、代わりにアンナが出て来た。



ムッシュウ、マダムが失礼なことばかり言ってすみませんね。


まあまあ、大きな花束ですこと………。すぐに、お茶を用意しますから


こちらでかけてお待ちくださいな。




アンナはいそいそとお茶をいれてる。



私には………


「マダム!そちらの部屋に、バカラの大きな花瓶があったでしょう!


それを出してきてくださいな!」


と、命令する。



私はまだ、バスローブ姿なので、赤い箱に入った花瓶を、箱ごと、廊下に押し出す。


ダイニングでは、またアンナが、よけいなことをジーザスに、言ってる。




「マダムは、これからカジノに出かけるんですよ。良かったらエスコートを


お願いしたいんですけど………。」



私は奥の部屋から、首だけ出して、叫ぶ。


「エスコートなんて、い・ら・な・い!」



「僕で良かったらエスコート引き受けたいんですが


ただマダムがああいってるし、花束も渡せたから、今日はもう失礼します。」



アンナが、奥の部屋に来て、私をこわい目でにらむ。


………仕方ない。アンナを怒らせると、後がこわい。



私はダイニングの方へ、猫なで声で言う。


「お願い♡ムッシュウ・クライスト。私をエスコートしてくださらない?」



♥*♥*♥*♥*♥


私はカジノに行くための、ソワレを選ぶ。


ディオールのオートクチュールのオペラピンクのソワレ。


カッティングが素晴らしく、背中が大きくあいている。


すそが、軽く床を引きずるフロアレングス。



手首には、繊細な金の鎖のブレスレット。


手を動かすとサラサラとかすかな音を立てる。この音が好き。




キャットファイトのせいで、腕にはあちらこちら、傷のテープが貼ってある。


シルクオーガンジーのショールで、隠せばいいわ。



シニヨンに、まとめた髪には、ダイアモンドと真珠の髪飾りをする。




華奢なヒールは、腕のいいミラノの靴職人に、作らせた


ピンクのパンソンレザー。


オープントウで、ヒールの高さは13cm。


でも、一晩中はいてたって、足がいたくならない、素晴らしい靴。




ファンデーションを塗って、チークをのせる。


眉は定期的にサロンで整えてもらっているから、軽く色をのせるだけ。


アイシャドウとアイライナーで、存在感を増す瞳。




ルージュを塗る前に、特殊な美容液で、唇をふっくらとさせておく。


ルージュの色は、ソワレに合わせて、イヴ・サンローランのNO19。


唇の輪郭を、肌色のコレクターペンシルで描いて、グラマラスに仕上げる。


ルージュの上から、グロスを塗って、唇を艶やかに光らせる。



マスカラは、まつげの全体に塗って、少し乾かしておく。


乾いたら、目尻の方の3分の1のまつげに、二度塗りする。


そうすると、猫の目のようにセクシーになる。




マスカラを塗っているときに、気づいた。


なんだか、わくわくしていることに………。


どうして?


エスコートのいるおでかけなんか、うっとうしいだけなのに………。






大きく開いたデコルテを飾るのは、ピンクダイヤモンドの首飾り。


プリンセスカットをほどこされた5カラットのダイヤモンドは


まるでブーゲンビリアのように、鮮やかで濃いピンク色をしている。


サザビーズのオークションで、一目惚れして落としていらい、私の宝物。


後にも先にも、こんなファンシーヴィヴィットは、ないだろう。


レポシ(モナコ王室御用達のオートクチュール宝飾店)に


デザインを伝えて、メレーダイヤと真珠をあしらってもらって


首飾りにした。



私の一番のお気に入り。


♥*♥*♥*♥*♥


私がソワレを身につけ、お化粧をしている間に、アンナはすっかりジーザスを


気に入り、プロヴァンス風のジャガイモのソテーなんか食べさせてた。




それは、いい。………だけど………


なぜ、テーブルの上に私がオークションで落とした100年物の


シャトー・ディケム(極上の貴腐ワイン)が、勝手に抜栓されてあるの?




アンナめ!勝手に地下のワインセラーから、出したわね。


これはとっておきだから、気をつけて扱ってねって言ったのに………。


「とっておき」ってとこしか、憶えてなかったらしいわ。



文句を言っても、後の祭り。


多分悪びれもせず「あら、そうでしたか?」とかなんとか言うんでしょうよ!



私はアンナに文句を言う気力がないので、心の中で叫ぶ。


(Allez au diable!! 地獄におちろーーーーーっ!!)



♥*♥*♥*♥*♥


その上、アンナはカジノに行く前に、ジーザスに、モンテカルロ法を


教えてやれって、………私に説明役を押しつけた。



モンテカルロ法………数列を使ったカジノの攻略法で一時期、モンテカルロ


のカジノを倒産に追いやったので、この名前がついてる。



理論は難解だけど、簡単な計算をするだけでいい。


私は紙とペンを使って、説明した。だけど、彼は全く理解してくれない。



「さっき説明したように、この計算をやってみて。


………だから、この両端の数字をたすのよ。」


「マダム………だめだ!僕………数学苦手なんだ………」


「………(idot バカモノ)………!!」



仕方ない。2in1法という、もっと簡単な方法を教えよう………。



でも、なぜ?ソワレを着て、おめかししてるのに、ダイニングで


こんな家庭教師みたいなことしなくてはならないの?


私はアンナに、抗議のまなざしを向ける。


(どうして、こんなめんどうなことを、おしつけるのよ!?)



アンナは全く意に介さず


「マダムの教え方が悪いんですよ。ジェジュ・クリが、おかわいそうだわ。」


とか、言ってる!冗談じゃないわよ!


そして、


「ムッシュウなら、計算なんかできなくても、きっと勝てますよ!」


とか、無責任なこと言ってるし………。



おバカさんのジーザス・クライストは、バカラのルールも、ブラックジャックの


ルールも、よくわかってないみたいだ………。


も~~~!仕方ない。ルーレットだ!



♥*♥*♥*♥*♥


私たちは、ロテル・ド・パリの目の前のグラン・カジノに来た。


シャルル・ガルニエが設計した宮殿のような建物が


モンテカルロの夜にライトアップされてる。


赤と白のモナコの国旗。


正面玄関前の広場に、フェラーリディーノを停める。




大きな時計の下をジーザスに、エスコートされて、中に入る。


天井には大きなシャンデリアが、いくつも輝く。


美しいステンドグラス。ベージュの大理石の床。


ベルエポック調の典雅なロビーを抜けて、私たちの行く先は


奥にあるサロン・プリヴェ(プライベート・ルーム)………


そのさらに奥のVIPルームだ。



そこでの掛け金はチップ一枚が、3000$(約30万円)


私はチップを100枚買って、ジーザスと半分こする。


VIPルームのタキシードに蝶ネクタイのクルーピエ(ディーラー)が


私の顔をみて、大げさに両手を広げて、天をあおぐ仕草をする。


こないだ、ものすごく勝ったから………。



ムシャクシャした時に、カジノに来ると、不思議と勝つ。


アドレナリンのせいなのか、カンが冴えて、ブラックジャックでも


バカラでも負けなしだ。



でも、今夜はちょっとルーレットを楽しむだけ。


席について、桃のベリーニを飲みながら、ちょっとずつベットする。


赤か黒か、もしくは好きな数字にチップをおくだけだから


(おバカさんの)ジーザスでも、楽しめるはず………。




勝ったり負けたりしながらも、私のチップは、倍になった。


でも………………ジーザス・クライストは、全部すってしまった。




しょうがない。彼はテニス以外、神様に見放されているんだわ。



「ごめんよ。マダム。僕、カジノ向いてないみたいだ。」


「いいのよ。私がなんとか挽回するから………。」




いつもこのては使わないけど、しょげてる彼を見たら


びっくりさせてやりたくなった。



ルーレットは、クルーピエが玉を投げる前と後に、ベットする。


私は、今日はずっと、投げる前に赤か黒かにかけていた。


今度は、投げた後にベットする。




玉が転がる音に耳をすます。カラカラと鳴ってるその音をきいていると


頭の中に数字が浮かぶ。


締め切られる直前に、赤の16に手持ちのチップを10枚おく。



「赤の16!」


クルーピエが、私のチップが置いてある数字を言った。


おお~~っ!と、周りが感嘆の声でわく。


10枚のチップが一挙に360枚になった。



ジーザスの目が点になってる。


私は、マネージャーを呼んで、チップを全部小切手にかえさせる。


そして、その小切手にサインして、渡す。


「いつものようにしておいて。」


「では、全額ユニセフに寄付しておきます。


領収書は、後ほど、御自宅へ届けさせます。」



私たちのやりとりを聞いてたジーザス・クライストが、目を丸くした。


「全額寄付だって?一体、いくらだよ!?チップ一枚が30$だから


ええと………。」


「計算しなくていいわ。ジーザス。いいじゃない。いつもこうしてるの。


お金は便利よ。飢えてる子供達にパンを買ってあげられるわ。ワクチンも。鉛筆や


ノートにもなるわ。お金で生命は、買えないけど、お金で救える命もあるのよ。


私のムシャクシャもスッキリするし、一挙両得でしょ!」


「せめて、元手の100枚分だけでも回収したら?


3000$が100枚で30万$だよ!」



「まあ、ジーザス!自分のお金を出さないチャリティーなんて………


それじゃ、スッキリしないわよ!」


「僕………ついていけない………。」






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