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キャットファイト

いつものように、アンナの作った夕食を一人で食べていると


ジーザス・クライストが訪ねてきた。



「アロー、マダム。お花しか持ってこれなかったけど、入れてくれる?」


「まあ、もちろんよ。お入りなさい。食事中なの。良かったらスープを一緒にどう。」





ダイニングで、彼にスープを取り分ける。


「ピストゥ………バジルと豆のスープよ。南仏では夏場だけ、これを食べるの。


メイドのアンナは料理の腕だけは絶品なのよ。食べてみて!」


「マダム…今日も一人?ご主人は?」


「仕事であまり家にいないのよ。ジェットセッターなの。でも、いつも私を気づかって


くれる優しい夫なの。モナコは治安がいいから、自分が留守がちでも、私が安全なように


って、ここに住むのを決めたのよ。」


(モナコが世界一、治安がいいのは本当だけど、あとは嘘。本当のことなんて、誰にも


知られたくないわ………。)


「庭のバラの世話をして、ピアノが弾ければ、もうそれでラヴィアンローズ


バラ色の人生よ。」


(これは本当のこと。ただ、愛する人と暮らすことが抜けているけど………)




「ラヴィアンローズか………いいね。幸せなんだ。」




彼が無邪気に目を細める。少年の面影を彷彿させる。


ああ、良かった。顔色も良くなってきたし………。


きっとあの恋人とうまくいってるんだわ。




………と、思った矢先にこんなことを言う。



「彼女とケンカしちゃってさ………。僕、あんまり一人の子と長続きしないんだよね。


ママンに似た素敵な女の子なんだけど………やっぱりママンとは、違うね。」


「そう………。」




ママンに似た素敵な女の子………でも、やっぱりママンじゃない。


そんなの当たり前だ。それじゃ、誰とつきあったって、うまくいきっこない………。


でも、そんなこと言っても無駄ね。彼が自分でわかるまで、ほっておくしかないんだわ。





私はがっかりして、ため息をついた。



立ち上がって、空いたお皿をキッチンに運ぼうとすると、彼が手伝ってくれる。



テーブルをきれいにすると、カモミールのお茶をいれた。



「蜂蜜はどう?香りのいいのを手に入れたのよ。」


「じゃあ、少しだけ………。」




カモミール匂いと温められた蜂蜜の匂い。


心が休まる匂いだ。




あとは何を話すでもなく、お茶を飲んで彼は帰った。




次の日、仕事が終わって、ビーチクラブで寝そべって読書してたら


もめてる男女の声がした。




読書してるふり、フランス語がわからないふりをしてると、いろいろと面白いことが


耳に入ってくる。




「あなたが信じられないの!昨日はバーに行ってるっていうから、探したのよ!


いなかったじゃない!どこにいってたのよ!」



「バーにいたさ。君が気づかなかっただけだよ。僕は一人で好きに出かけることも


できないのかい?四六時中、監視されて、もうウンザリだよ。」



パシーーーーン!!


ひっぱたかれる音………セ・フィニ。(終了)





ふふふ………。ヤキモチやきの女の子が、彼氏をひっぱたいた。


でも、数時間もすると、きっとまた仲直りしてるのよ。そんなカップル


ここでたくさん見てきたわ。




サングラスごしに気の毒な彼氏の顔を見ると………。


ジーザス・クライスト!


彼だった。





気づかれないように、視線を本に戻したけど、遅かった。


「マダム………見てたろう………ごらんのとおりさ!」




彼は吐き捨てるように、そう言って、立ち去った。







ビーチクラブから、駐車場に行く途中で、歩きながら瓶のハイネケンを飲んでる


彼とまた出くわした。




聞き耳を立てていたのが、ばれてた私はきまりが悪い。


いいわ、笑ってごまかそう。


「サ………サヴァ?(ごきげんいかが)」


「いいわけないよ!さっき彼女とケンカしたばかりなの、知ってるくせに!」


「アハ………偶然、耳に入ってきたのよ……彼女は?」


「さあ、ショッピングにでも、出かけたんだろ。」


「いいことを教えてあげるわ!彼女が帰ってきたら、キスして、僕が悪かった!


キミなしでは、生きていけないって言うのよ。みんなそうして仲直りしてるわ。」



「……どうせ、それもビーチクラブで、盗み聞きしてるんだろ?


まったく悪趣味だよな!」



「……人間観察と言ってほしいわ!おかげで、あなたに役に立つアドバイスも


してあげられるわよ。」





私は開き直る。


「ヤキモチやきで、束縛したがりの彼女とうまくやるにはね、あなたが彼女に嫉妬して


あげればいいの。どこへ行ってたの?さっき、あの男と何を話してたの?って


しつこくきくのよ。すると、彼女はあなたに、愛されてるって感じて、安心するから


イライラして、ケンカをふっかけてくることもないわ!」




「ふうん……。でも、そんなことまでして、仲直りしたいと思わないな。


あなたのアドバイスは、残念ながら、役に立たないよ。」


「それじゃあ、今度つきあう子は、そんなことしてでも、引き止めたいって思う子と


つきあいなさいね。オルヴォワー♡」



♥*♥*♥*♥*♥



次の日……



彼は彼女と連れだって、ラウンジに現れた。


やれやれ、やっぱり仲直りできたんじゃないの。


のんきにそう喜んだ。





曲が終わって、カフェノワールを飲んでたら、ジーザスが席を立って話しかけてきた。


「やっぱり、あなたの作戦、試してみたよ。うまくいった!メルシー♡マダム!」


「ふふふ………感謝しなさい。」



そんなたわいもない会話をしていたら、ジーザスの彼女がツカツカとやってきて


彼をひっぱっていった。そして、聞こえよがしに言った。



「あんな人と親しくしないで!あの人………敗戦国の東洋人じゃない!


上品ぶってるけど、どうせ淫売しにこの国にきてるに決まってるわ!」




私は立ち上がった。そして、彼らの後ろに立って、こう言った。


「エクスキュゼモワ、マドモアゼル。


MERDE! Ne te monque pas des veritables japonaises traditionelles!! 」


(このクソ女!大和撫子をなめるな!!)






そして、彼女をひっぱたいた。


彼女も負けずに、ひっぱたきかえす。


あとは、キャットファイト(女同士のとっくみあい)だ!





人だかりができて、また支配人が割ってはいる。



「レディ!もう明日から来なくていい!!」





こうして、私はお気に入りの仕事を失った。









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