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人生は美しい

一年後、跡取り息子に、借りていたパスポートを返しに、家族で日本を訪れた。


弁護士を通じて、養子縁組を無効にして、息子の戸籍を元に戻して、パスポートを取った。



ちょうどバラの季節で、品川の屋敷は、バラが咲き乱れていた。


でも、私の大切なプリセス・ドゥ・モナコがあらかた、切られていた。


執事が止めるのも聞かず、息子が、プロポーズする度に、彼女に持って行ったので…。


それなら、仕方がない。息子の恋の役に立つなら、あの人だって、喜んでくれてるだろう。




跡取り息子は、何回もプロポーズして、やっとメイドの彼女にOKをもらったと言う。


「オレが成人したら、すぐに結婚式を挙げるから、そん時は、約束通り、オフクロたちを招待するぜ。」


上機嫌の彼のかたわらには、婚約者になった彼女が、照れくさそうに、笑っていた。


「SPもついてたし、教団の連中なんかに、私が負けるわけないってのに、ぼっちゃまったら、夜、廊下でずっと見張ってて、それで、まあ…ちょっと見直したっていうか…。根負けしたっていうか…。」


この古い屋敷に、新しい風が吹いてる。



私の隣には、ジーザスがいて、小さなエレインが、大きな息子たちに、抱き上げられたりしてる。私と息子の婚約者は、彼女の焼いたスコーンを食べながら、ウェディングドレスのデザインの話に花を咲かせる。



まといつく過去の苦しみから解き放たれて、 家族で笑いあうことができるようになった私達。


生きてて、本当に良かった。


La vie est belle…人生は、美しいわ。



***


ある日、ベッドサイドの電話がなった。朝の四時。


寝ぼけまなこで、電話をとると、ロスの夫の声がして、びっくりして目が覚めた。


夫が電話をしてくることなど、なかったから…。


でも、私は不機嫌さを隠さずに言う。


「アロー、こっちは何時だと思ってる?朝の四時よ!」


「すまない……。」と、夫は謝り、そして、続けた。


「離婚してほしい。」と。



長年、夫の愛人だった秘書が二年前、彼の娘を産んだ。子供は染色体の異常の障がいがあった。そして、心臓に欠陥があり、生まれてすぐ手術が、必要だった。それでも、よくならず、もう一度、心臓の手術を受けると言う。


「その前に、きちんと籍を入れて、彼女の夫になり、家族として支えたい。そして、娘のためにできるだけのことをしたい。娘をとても愛しているんだ。」


それは、私が初めて聞く、夫の人間らしい言葉だった。


「了解よ。すぐにサインするから、書類を送ってちょうだい。娘さんの手術の成功を祈るわ……心から。」


そう言って、電話を切ると、少しだけ泣いた。


この結婚で、引き裂かれた恋人のことを思って…。


長かった。こんな日がくるなんて、信じられない。


私を縛り続けた最後の鎖が解けたのだ。


私は涙を拭いて、ベッドの上で叫んだ。


「フリー・アット・ラーーーーースト!」(ついに、自由だ!)


それから隣に寝てる愛しい人を叩き起こしてこう告げた。


「ねえ、ジーザス。結婚式をあげましょう!離婚が決まったのよ!!」



***


一ヶ月後


モナコの小さな教会で、ごく身内だけで結婚式を挙げた私たち。


私は、マリアベールをかぶり、小さなエレインが、ドレスの裾をもってくれた。フロックコートで正装した息子たち。息子の婚約者は、息子が見たてた可憐な薔薇色のワンショルダーのミディアムドレス。


ストックホルムからは、ジーザスのお年を召したジーザスのお父様がいらしてくださった。


「ストックホルムにも、遊びに来なさい。夏は湖のそばのサマーハウスにいるから。」


「ええ、ぜひ。お父様。」


式の後は、自宅でガーデンパーティーを開いた。お料理は、久しぶりにアンナが腕をふるった。


アンナをジーザスのお父様に、紹介すると、少女みたいに頬を染めた。ほんとに、わかりやすいんだから…。お父様にお料理をほめられて、上機嫌だ。


向こうでは、ジーザスが、跡取り息子と何かしゃべってるわ。


「あの女…泣かしたりしたら、ただじゃおかないからな。」


「フッ…そんな心配いらないさ。それより、君こそママンを“あの女”呼ばわりしないで、もっと優しくしたらどうだい?」


「なんだと!」


「やめろよ!ぼっちゃま、お母様の結婚式なんだから。ジーザスさんとケンカしてる場合じゃないだろうが!」


「ぼっちゃまって言うな!おまえは、婚約者なんだから、もっと他の呼び方しろよ。」


「アハ…なんか…てれくさくって。つい…。」


「フッ…フィアンセに早く、愛しい人と呼んでもらうことだね。息子をよろしく頼むよ。マドモアゼル。」(^_−)−☆



ジーザスにウインクされて、彼女がぼうっとなる。


「マドモアゼルだって…新しいお父様ったら、す・て・き・♡」


「おまえなに頬染めてんだよ!クッソーーー!あの野郎…俺は絶対に親父だなんて認めねえんだよ!」


「思春期のガキじゃあるまいし、少しはお母さんの結婚を喜んであげたらどうです?兄さん。」


「おまえは落ち着きすぎなんだよ!だいたい俺はおまえっていう弟がいたことだって、最近知ったんだからな。」



もめてるところへ、小さなエレインが銀の大きなお皿を持って行く。


「お兄ちゃま、お姉ちゃま、プチパイどうぞ。さっき焼けたのよ。」


「ありがとう。エレインちゃん。さ、もめてるお兄ちゃまたちにプチパイ食べさせてあげて。」


エレインが息子の婚約者に抱っこされて、息子たちの口にプチパイを入れてあげる。


「ハイ、お兄ちゃま、あ~ん。こっちのお兄ちゃまも、あ~ん。」


「む…しょうがねえな。」しぶしぶ口を開ける跡取り息子。


「ありがとう、エレイン。ママンはどこだい?」


「あそこで、パパとキスしてる。」


「なんか、すっごく面白くねえな。」


「妬かない、妬かない。あたしがいるだろ?」


「あ、ああ。…そ…そうだな…。」


「なに赤くなってるんですか、兄さん。意外とウブですね。」


「うるせえ!てめえは、弟のくせに、生意気なんだよ!俺とおんなじ顔しやがって、まったく気に食わない野郎だぜ。」


「お兄ちゃまたち、ケンカしないで。もうひとつ、パイ召し上がれ。」


ガーデンパーティーは賑やかに…。


次回、最終回です。

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