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カルト教団

もう一人の、息子は、富士山麓の上九一色村というところにいた。


半年前、息子を養子にした家の主人が、ナントカという宗教団体に入って、全財産を寄付して、その宗教団体のコミュニティで生活するようになったから、もう手紙を届けることは、できないと執事から連絡があってから、ずっと気になってはいた。



なんだか、嫌な予感がした。


日本では、宗教団体は、問題視されてないけど、欧米では、カルト教団の痛ましい事件が、未成年者を犠牲にする事件を引き起こしていたから……。





1978年、南アメリカのガイアナで、視察のために訪れた米国会議員ら一行を「人民寺院」の信者が射殺した後、教祖ジム・ジョーンズの指示によって信者たちが集団自殺した。


その9割に当たる917人が死亡。うち267人は18歳以下の子供であり、巻き添えで他殺された無理心中のケースだった。



1993年、デビッド・コレシュを教祖とする「ブランチ・ダビディアン」が、アメリカ、テキサス州の自己拠点で武装し、たてこもった。そして、FBIと銃撃戦をした末、その後の集団自殺で86名が死亡した。



1994年、10月5日、「太陽寺院」の教祖、ジョセフ・デ・マンプロを含む信者53人がスイスとカナダで集団無理心中をしてる。



カルト教団は、とても危険だと、私は知っていた。



カルト教団といえども、宗教団体の建物となれば、それなりの装飾がなされ、気品と風格を兼ね備えていることが多い。


でも、「サティアン」と呼ばれるその建物は、装飾なんかなく、ただの工場としか思えなかった。


建物には、小さな窓しかついてなくて、縦横にはりめぐらされたパイプが、殺風景な雰囲気をかもし出していた。




普通は、外部の人間は、この宗教団体の敷地には入れないし、内部の人間とも接触はできない。



私はその教団に、多額のお布施をした。そして、「知り合いとその息子に会いたい。話を聞いて、自分も入ってみるかどうか検討したいのです。」と言ったら、ここまで連れて来てくれたのだ。



殺風景な部屋に通されて、息子が養子に出された家の主人と話した。


「事情があって、手放しましたが、息子を返してほしいのです。」


「ここでは、みな教団の子供。私の自由にはなりませんよ。だいたい、あなたは、子供を放って、ヨーロッパに出奔なさってたとか……。気まぐれに、子供をふりまわすのも、いいかげんにしなさい。」



と、とりつくしまがなかった。



教団の幹部に頼んで、直接、息子に会わせてもらうように、取りはからってもらった。この宗教団体…上部の人間になればなるほど、ものすごく、お金が好きだった。私に資産があり、息子と接触させた方が、得だと判断したんだろう。




息子の寝起きしてる少年のための宿舎に連れて行ってもらった。



吐き気を、もよおす臭い。


 6畳くらいの部屋で5~6人が寝泊まりしているようだ。


お風呂とトイレは共同で、トイレは 今どき、くみとり式だった。



私は息子が、すぐにわかった。髪はザンバラで、伸び放題で、ひげもうっすら生えてるけど、ひときわ大柄な体つきは、あの人そっくりだったから。



案内役の男を買収して、建物の陰で、二人だけで話すことができた。


私は異臭のする息子を抱きしめた。


「会いたかったわ。私は、あなたを産んだ母親よ。私を恨んでるでしょうけど、会って、愛してるって、伝えたかったの。」


「恨むだなんて…。お母さん。こんな所までいらして下さって、申し訳ないです。でも、もう来ちゃ行けません。」


もう一人の息子は、まだ中学に通う年齢だというのに、ていねいで、落ち着いた話し方をした。あの人に似てるというより、庭師だった、あの人のお父さまに、そっくりな物腰だった。



「ここは、外部に連絡する手段はまったくない上に、四カ所も検問所があるんです。拉致されて、来た人もいっぱいいる。違法で危険な集団です。このまま監禁されても、おかしくない。警察もここへは、立ち入れないんです。あなたは、どうやってここまで?」



「お布施を一千万、キャッシュで包んだわ。だから、大丈夫。もっと、お布施を持って来るような事を匂わせて、ここから出て行くわ。あなたと一緒に。」


「私は、養子ですが、父を置いていけない。ここに来たのは、私の本意ではないけど、父を見捨てるわけには、行かないのです。母が亡くなって、悲しみに沈む父は、こんな教団に全財産を寄付して、帰依してしまった。そんな父ですが、14年間、私の父親でした。」



「あなたの父親は、もう生きてないけど、この有様を見たら、どんなに難しくても、あなたを連れて逃げたわ。たとえ、あなたが嫌がってもね。」


「私の実の父親はロスにいるはずでしょう。さあ、もう行ってください。私はあなた方から、捨てられた子供です。今さら、来ておせっかいをしないでください。」



物腰は、やわらかいが、眼差しには、跡取り息子と同じように、敵意に似たものが宿っていた。


この息子も、やはり捨てられたことを、怒っていた。精一杯、大人の態度で、接してくれていたのだ。


でも、引き下がるわけには、いかない。


「いいえ。もう、とうに亡くなったわ。私の恋人だった。死産だったと知らされてたあなたが、他所へやられてたことを知って、いったんは、別れた恋人に連れ戻してもらったの。そして、あなたとあなたの双子の兄を連れて逃げたわ。そして、半年間、一緒に暮らしたことがあるのよ。」


「今…なんて…?」


夏バテで、お休みしてたけど、復活しました。最終回までガンガン行きます。双子の父親とヒロインのラブストーリーの「東京編」も同時刻に投稿しときました。あわせて、お楽しみください。

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