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ヴィラ・サンミケーレ

 ベルヴェデーレ要塞で、嵐に遭った日の翌日の午後。


 フィレンツェ空港の出発ロビーで、長い長い接吻ディープキスをしてるジーザスと私



「私のパリの住所書いた紙、なくさないでね。」


「もちろんだよ。」



 長い長い抱擁をして、ジーザスはストックホルムへ発って行った。




 一泊だけのフィレンツェ旅行だけど、行きたいところは、いっぱいあった。


 800年前からあるサンタ・マリア・ノヴェッラっていう世界最古の薬局で、アーモンド石鹸を買ったり香水を試したりしたかった。


 ウフィツィ美術館ぐらい行けると思ったのに………。


 ホテル・ヴィラ・サンミケーレのリモナイア・スイートから、結局、一歩も出なかった。


 食事もルームサービスですませて、フライトの時間ギリギリまで、ジーザスと愛し合ってたから。



 別れる気なら殺すっていうサイコで、ホラーなジーザスに


 自殺願望のあった私。



 二人とも、まともじゃない。


 もっとも、ジーザスに言わせれば、私のセッティングした赤いテーブルクロスのディナーの方が、よっぽど、サイコで、ホラーだって。


 19世紀の銀の燭台に、赤いキャンドルを見て、黒魔術かと思ったとか…………。失礼しちゃうわ。


 ペトリュスに、毒でも入ってるんじゃないかって、思いながらも飲み干したんだって。バカね。そんなわけないじゃない!



 嵐のなか、ベルヴェデーレ要塞の中庭で、愛し合ってしまった私たち。


 ずぶ濡れで、ヴィラ・サンミケーレの大理石のロビーに入るはめになった。


 支配人なんか、あきれ顔で、後ほどチェックインの書類を持って行きますから、早くお部屋に………と言ってたわ。


 フィレンツェから車で30分のフィエゾーレの丘の上にあるホテル・ヴィラ・サンミケーレは、15世紀の修道院を改築した歴史のあるホテル。


 建物の正面ファサードを設計したのは、ミケランジェロで、レストランのテラスの手前のフレスコ画もミケランジェロが描いたもの。



 一度、泊まってみたかったの。


 部屋にたどり着くと、ジーザスが、バスにお湯を落として、一緒に入ろうって言う。


 寒くはないけど、濡れた服を脱いで、バスにつかって早く、さっぱりしたかった。


 なのに、一向にお湯がたまらない………。





 歴史のあるホテルと言えば、聞こえはいいけど、ふるーいホテルってことだわ。


 お湯の出が、悪い。


 バブルバスにしたかったけど、お湯が勢いよく出てこないから、無理。


 じーっと二人で、バスタブに腰かけて、裸でお湯がたまるのを待ってた。




「あれ?背中………どうしたの?血がにじんでる。」


「どうしたのじゃないわよ!あなたが壁に私を打ちつけたんでしょう!痛かったんだから!」



「ごめん………お風呂上がったら、薬塗ってあげるよ。」


「当然よ!」




 のんきで優しいジーザスに、怖い一面があることを知ったけど、私はよけいに好きになった。



「別れる気なら、殺すって、サイコでホラーなのよ。あなた。」


「サイコでホラーは、君のディナーだろ?赤いテーブルクロスに赤いキャンドル…怖かったな、あの雰囲気。ペトリュスに毒入ってるかと思ったよ。心中とかに誘われてるのかと思ったけど、僕は君が好きだから、全部食べてあげた。」


「食べてあげたですって?美味しかったって言ったくせに!」


 憎たらしいので、私はつま先で、ジーザスにお湯をかける。でも………ぬるい………。


「もう、いつになったら、たまるのよ!しかも、ぬるいし!」


「君がこのホテルに泊まりたいって、言ったんじゃないか!僕は、フィレンツェの中心部の最新式のホテルにしようって、言ったのに………。」



「………だって、泊まりたかったんだもの。」


「じゃ、文句言わない!」



 ひたすら、お湯がたまるのを待つ。


「ねえ、離婚してないのに、君…子供になぜ会えないの?」


「長~い物語を聞きたい?それとも、ダイジェスト版?」


「ダイジェスト版で、頼むよ。」




「子供を連れて、恋人と駆け落ちしたの。子供は双子の男の子だったわ。でも、勝手に一人、養子に出されてしまったの。


 私はいったんは別れた恋人に頼んで、息子を連れ戻してもらった。それで、もう息子をとられたくなかったから、恋人に連れて逃げてって、頼んだの。


 でも、つかまえられて、夫が恋人を誘拐罪で訴えたわ。駆け落ちだって、私が証言しても、息のかかった医者を連れてきて、私が、ストックホルム症候群だと主張するって………。


 それで、告訴を取り下げてもらうために、夫と取引きしたの。私は、実家を夫に明け渡して、モナコに追放。子供が成人するまで、日本に帰らないって約束よ。」


「君の恋人………亡くなったんだろ?………なら、会いにいけばいい。子供達に。」


「………時間が経ちすぎてしまったわ。怖いの。恋人を助けるために、子供たちをあきらめた私なのよ。きっと、私に棄てられたって、恨んでるわ。」


「君は………気が強いくせに、臆病なんだな。そのうち、一緒に日本に行こう。恨まれてたっていいじゃないか。愛してるって伝えなきゃ。男の子は、ママンが好きだよ。しのごの言ったら、ひっぱたいちまえ。ママンにも、事情があったのよ~って。」



「ジーザス。あなたにかかると、なんでもシンプルに解決しちゃいそう。でも、いろいろと複雑なの。息子は、生まれながらの財閥の当主だけど、財閥を維持してるのは、夫なのよ………。」



「君が複雑に考えすぎるんだろ。人生で大事なのは、愛と生命。それが、最優先事項さ。会いに行こう。ノエルの休暇にでも………。」




 なんだか、もう、何も怖くないって気がしてきた。


 ジーザスと一緒なら………。


「じゃあ、パリで待ってるわ。ノエルには、一緒に日本に行きましょう。」



 バスタブには、やっとお湯がたまり、ジーザスとぬるいお湯で、お互いの体を洗ってた………


 はずなのに………お風呂でも………結局………しちゃった………。









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