マウリツィオ・ポリーニ
ジーザスとはいつも一緒だったけど、私はときどき、一人でミラノに行った。
プライベート・レッスンを受けるために。
「ディーノを飛ばして、明日の夕方には、帰ってくるわ。あなたはトレーニングを頑張ってね。ミラノの市場で、美味しいサラミをお土産に買ってくるわ。」
「あなたがいないと、さびしいよ。早く、帰ってきて。でも、あんまり飛ばしすぎないでよ。」
「わかってるわ。」
出かけようとすると、玄関ホールで、アンナに腕をつかまれた。
「マダム、どうしてです?ミラノには、行かないで。ジェジュ・クリがいるでしょう?」
「………何を心配してるのよ。すぐに帰ってくるわ。」
「マダム!」
きつい目で、アンナがにらむ。
「本当にレッスンよ。あなたが考えてるようなことは、ないわ。マエストロは、もう愛人じゃないのよ。おせっかいも、たいがいにして!私の人生よ!」
「………私がお救いした命です。」
私はアンナの手を振りはらった。
「あなたには、感謝してる。でも、レッスンには、行くわ、私は、ピアノを弾くためだけに、生きてるのよ!」
その時、私たちがもめてる声を聞いて、ジーザスが階段を降りてきていたのに、私は気づかなかった。
♥*♥*♥*♥*♥
ミラノから帰ると、ジーザスはいなかった。
「せっかく、お土産買ってきたのに………。」
久しぶりに、一人で夕食を食べると、とても寂しかった。
ジーザスは、深夜に泥酔して、帰ってきた。
「おかえり……ミラノの………情事は楽しかった?」
「何を言ってるの?レッスンに行っただけでしょ!そんなこと言うなら、お土産あげないわよ。」
「嘘だ!」
彼が壁を殴ったので、私は恐ろしくなる。酔って暴れて、ラケットを握る大切な手を、傷めたら大変だから。
ジーザスを抱きしめて、落ち着かせようとした。でも、私を乱暴に振りはらう。
私は腹を立てて、叫んだ。
「一体、どうしたっていうのよ!ミラノで、あなた以外の愛人とファックしてきたって言えば、満足なの?それが望みなの?私はレッスンが終わったら、あなたに早く会いたくて、二時間もディーノをすっ飛ばしてきたっていうのに、家に帰っても、あなたはいないし………。
あなたこそ、ブロンドとファックしてきたんじゃないの!それとも、別のブルネット?どうして、こんなケンカしなきゃあならないのよ!」
「………マウリツィオ・ポリーニ」
ジーザスが、ポツリと言った。
「アンナがあなたの愛人だって………。」
(あのおしゃべりのプロヴァンス人め!地獄に堕ちればいいんだわ!)
「………彼は愛人だったわ。でも、昔のことよ。今は私の教師で、友人だわ。そんなことを気にしてたの?さあ、抱きしめてちょうだい。キスはいやだわ。お酒くさいから。」
「君は………僕を狂おしくさせる。嫉妬で、気が狂いそうだ。」
「まあ、ジーザス。結婚してる女に、そんなに夢中になっちゃダメよ。私は薄情な女なのよ。あなたの他にもたくさん、愛人がいるかもしれないわ。でも、ミラノでは、本当に何もなかった。ポリーニ氏とまだ続いてたら、あなたなんかほっといて、ミラノでもっとゆっくりしてくるわよ!」
「本当に………?」
「天国にいる、あなたのママンに誓うわ。」
彼はやっと、抱擁してくれた。
「まったくアンナをクビにしてやりたいわ!あなたと私が、あんまり仲がいいから、きっと意地悪したくなったのよ。さ、シャワーを浴びてきて。もう休みましょう。」
♥*♥*♥*♥*♥
ジーザスの髪をドライヤーで、乾かしてあげながら、ベッドで話した。
「いつ、別れたの?」
「二年前。」
「どこで知り合ったの?」
「ローザンヌの病院で。入院してたら、彼が慰問に来たのよ。ペトリューシュカを弾いてくれたわ。退院してから、彼に会いに行った。そして、恋に落ちたの。」
「入院してたって………病気だったの?」
「………腱鞘炎よ。たいしたことなかったの。留守中、アンナがずっとお庭のバラの世話をしてくれてたの。だから、アンナをクビにしたりできないのよ。」
「どうして別れたの?どちらかが、浮気した?わかった、あなたが、彼を追いかけ回して、それで振られたんだ!」
「意地悪ね。………そうよ、私が彼を追いかけ回して、ウンザリさせて、それでふられたの。だから、今度は、あなたを追いかけ回さないように、すごく気をつけてるんだから。」
「追いかけ回してよ。そして、ウンザリだって、僕に言わせて!」
「ふふふ………もう、寝ましょう。おやすみなさい。愛しい人。」
このあと、性的な表現があるので、ムーンライトにUPします。とにかく仲直りしたってことかな。




