白夜
それからひと夏を、私たちは寄りそって過ごした。
夕方になると、よく二人で私の船で、サントロペまでクルーズして、海の上の夕日を見た。
オレンジ色の水平線に、大きな太陽が沈んで行くのを見ながら、彼はいろいろ話してくれる。
「僕の国では、夏は暗くならないんだ。こんな夕焼けもない。白夜といって、薄暮がえんえんと続くんだ。しばらく、暗くなったと思うと、すぐ夜明けさ。その代わり、冬はずっと暗い。だから、夏の明るい時に、寝てなんかいられないんだ。」
「子供の頃は、家族で明るい夜中に、山に登ったりした。足元は苔でフカフカしてるから、あなたのきゃしゃな靴なんて、足首まで埋まってしまうよ。長靴をはかないと登れないんだ。
てっぺん近くまで登ると、トナカイの群れがいるんだ。大きな角の……。こっちに気づくと、あっという間に移動してしまうから、そっとのぞくんだけど、ワクワクしたな……。」
「日が沈む直前の湖は、山が影絵のようになって、きれいなんだ。夏は釣りをしたり、泳いだり。湖の周りにはブルーベリーの茂みがある…。いつか、あなたを連れて行きたいな。」
ジーザスの国。スウェーデン。
「白夜の夏をあなたと見たいわ。連れて行ってよ…いつかね。ほら、見て!太陽が水平線につくわ!ジュって音がしそう。」
私はそっと彼の肩にもたれる。
いつか…は永遠にいつかのまま。
だけど、今は夢見よう。
長靴をはいて、あなたと白夜に山に登るの。
そして、一緒にトナカイの群れを見る夢を。
ブルーベリーの茂み。影絵のような山。
湖で釣りをする、あなたの隣には私………。
来年の夏も、その次の夏も。
ずっと一緒にいられる夢を………。




