オレンジ・プレッセ
運転代行の運転するフェラーリに乗って、ジーザスと午前三時に帰宅。
「傷のテープが、はがれてしまってるよ。」
彼が救急箱から、傷薬を取り出して、クスクス笑いながら、私の腕に塗りこむ。
「女の子同士の取っ組み合いなんて、初めて見たよ。あなた、強いね。」
「………一体誰のせいだと、思ってるのよ。」
のんきなジーザス・クライスト。眠気をこらえて、一応、お説教しとく。
「今日は特別だけど、あなたはもう大人の男性なんだから…恋人でもない女性の家に気軽に泊ったりしてはダメ…。そんなんだから、彼女がヤキモチやきになるのよ………。」
「じゃあ、僕をあなたの恋人にすればいいよ。そして、あなたが僕にヤキモチを妬く。面白そうだな。」
「私は全然、面白くないわ。さ、冗談はやめて、さっさと寝なさい。ゲストルームに、シャワーがついてるわ。」
「ちぇ……。じゃあ、明日帰る前にピアノをひいてくれる?もう、ラウンジであなたの演奏聴けないんでしょう。またコンソレーション弾いてよ。でないと、また外で歌うよ!」
「そんなことしなくても、弾いてあげるわ………おやすみなさい。」
翌朝………といっても昼近く。
ねぼけまなこで、ダイニングに降りて行ったら、すごいことになってた!
いつもは、カフェ・オレに、クロワッサンに、パックのオレンジジュースがテーブルに置いてあるだけなのに………。
搾りたてのオレンジ・プレッセに、ニース風サラダ。焼きたてのパンケーキに蜂蜜。プロヴァンス風の野菜たっぷりのオムレツ、フルーツ………etc………。
「何よ!アンナ、こんなに食べられないわよ!」
「マダムにじゃありません!ジェジュ・クリのために作ったんです。アレルヤ!」
「ひどいわ!私と待遇が違いすぎるじゃない。私が、オレンジ・プレッセ作ってって言っても、オレンジ搾ると肩が凝るとか、めんどくさいって作ってくれなかったくせに………。」
私がアンナに抗議してると、ジーザスが、シャツのボタンをきっちり一番上までしめて、ダイニングに降りて来た。
「ボンジュー!素敵なマダムたち。素敵な朝食だね、ありがとう、アンナ。」
って、ウインク(^_−)−☆する。
ジーザスにウインクされたアンナは、ますます彼を気に入ったらしく、とんでもないことを言い出した。
「ジェジュ・クリ!ホテルなんて、チェックアウトして、ここに滞在なさったらいい!」
「何言ってるのよ、アンナ!正気?この家の主人は私よ!」
私が抗議のまなざしを向けると、アンナは………オマエは黙ってろ!と言わんばかりに、にらむ………。こ、こわい………。そして、有無を言わせぬ口調で言う。
「マダムも、そうお望みですよね。全仏チャンピオンになった方が、滞在するなんて、名誉なことですもの。」
「そ………そうね。でも、ムッシュウにも都合があるんじゃないかしら………?無理にすすめたら、きっとご迷惑よ………。」
って、私が遠回しに断ってるのに、ジーザスときたら。
「いや…僕はガールフレンドにふられたばっかりで、都合なんかないよ。孤独で………傷心で………暇な男さ………。」
ジーザスが悲しげにうつむくので、アンナはもう、絶対に彼をここに滞在させるってきかない。
「どうせ、私がお世話するんですから。マダムは、ピアノだけ弾いてればいいんです!」
「そ………そんな………」
こうして、ジーザス・クライストは、私の家に滞在することになった。
「