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01 私がノーマルエンドを目指す理由

乙女ゲームに似た世界にヒロインとして転生してしまった。

私は大きくため息をついた。

乙女ゲームと言っても、流行りの小説なんかにある異世界風な華美なゲームではない。攻略対象に婚約者とかいたりもしない。婚約破棄もない。当たり前か。そんなゲーム売れんわ。

宵待ノ神子―現世の境界―。日本が舞台のゲームではあるのだが……日本神話が色濃く絡んでいる。そんな世界観の乙女ゲームだった。

私は比良坂鈴音。伊邪那美命の魂の欠片の転生体。その強すぎる霊力と、死の女神の力を持つ、扱いの大変難しい少女である。

攻略対象は6人。私を守る者、警戒する者、危険になれば封じるための者、私の身柄を利用しようとする者、敵と通ずる者、敵の幹部。6人だ。

え?日本が舞台なのに敵?うんそうだね。とある事件に巻き込まれて霊力を暴発させた私を保護したのは裏の世界、神や幽霊などを国民に隠しながらも治安を保つ政府の組織、八咫烏。

私はこの力を使い、人々の役に立つために、影の世界でこれから生きていくことになるらしい。わー嬉しくなーい。

というか乙女ゲームってあれよね……ヒロインが生きるか死ぬかの目に遭うし、攻略対象は大抵厄介な事情持ちでカウンセリングするゲームよね。うわーヒロインとかなりたくなかったなぁ。

毎日訓練漬けだ。まずはこの力を使いこなせるようにならねばバッドエンド。ヘロヘロになりながらベッドに沈む。

私を守る彼……笹原雪成だって、好感度の低い今は大変塩対応だ。

……ゲームとは違って完全無視ではないから、やっぱりここはただ乙女ゲームに似た世界なんだろうけども。やだなぁ。死にたくなかったなぁ。平穏な日本に帰りたいなぁ……。

連絡用に渡されたスマホでゲームをする。修行漬けの毎日の心の支えだ。私を見張っている(見守っている?)雪成はそんな暇あるのかとお説教するけど、心の余裕持たなきゃ潰れるわ。知るか。

今日はとりあえず霊力制御で合格点を貰ったのだ。たまにはご褒美タイム。

……私が選択してたとはいえ、乙女ゲームの主人公ちゃんは本当に真面目なんだなぁ……

そう思いながら、私は眠りに落ちていった……


次の日の朝。私は早くから雪成にたたき起こされた。殺意が湧いた。お前顔が良いからっていい気になるなよ……

どうやら私は制御の訓練に合格したことで、再び学校に通わせてもらえることになったらしい。

「感謝しろよ。お前のような危険な霊力を持つものは、下手したら飼い殺しなんだからな。」

「ワーウレシイナー」

ゲームではツンからデレへの変化が人気のあったメインヒーロー雪成だが、実際対峙してみると感じの悪い美形である。ちっうるせーな。心が荒む。

「……心がこもっていないぞ。鈴音。それと、学校に再び戻ることについて……お前のクラスに八咫烏の人員を増やすことにした。」

「おっ、君が鈴音ちゃん?よろしくね!俺は礼司!」

おおっとぉここで裏切り者のエントリーだぁーーー!!!

敵組織と通じてるスパイのレイジ!レイジじゃないか!礼司ルートでヒロインちゃんと敵組織「神世七代」の板挟みになって「俺と逃げてくれ!」って土下座で迫ってビンタで返されるレイジじゃないか!!!

……そのヘタレっぷりに、人気は低かったものの妙に熱狂的な信者がついていた。

そしてイケメンだ。

スパイとは言っても、こちとら好感度の低い塩対応雪成に飽き飽きしていたところである。嘘でも優しい礼司にころっと行っちゃう礼司ルートのヒロインちゃんの気持ちもわかるなぁ……

いや、行かないけどね?礼司ルート。八咫烏と神世七代の2つの組織に追われる上にバッドエンドの多いルートなんて誰が行くか。

「クールビューティって感じだね?でも俺は君の笑顔が見たいな。」

知るか。拉致してきたこの組織に言え。もしくは原作ヒロインちゃんに言え。


久しぶりに帰った我が家では、父と母が泣きながら私を抱きしめてきた。

「鈴音!心配したんだぞ!」

「事故に巻き込まれて、理由あって面会謝絶だなんて……!お父さんもお母さんも、弁護士に相談して……!でも、帰ってきてよかった……!」

「ごめんね、お父さん、お母さん……ただいま!」

……霊力暴走事件で前世の記憶を思い出してしまったとはいえ、2人は17年私を育ててくれた親だ。この思い出も、ぬくもりも、嘘ではない。

「……すみません、再会に水を差すのは良くないとはわかっているんですが……通達にあった通り、今日からお嬢さんの登下校、および校内での護衛となります。笹原雪成です。」

「芦屋礼司です!」

「貴方がたが……。娘のことでご迷惑をおかけしますが、よろしくお願いします。私たちにとっては大切な娘なんです。」

お父さん……ゲームでやってたときは共通イベントだからってスキップしててごめんね……!

お母さんも頷いて私を抱きしめる。……2回くらい見て、後はスキップしていたこのシーンが、今の私には……一番大切に思えた。

お母さんにお弁当を持たされ、久しぶりの学校への道を歩く。……横には雪成と礼司が張り付いている。

……目立つ。

「ちょっと二人とも!離れて歩いてよ!」

「お前は護衛対象だ。危険なのはお前なんだぞ。分かっているのか?」

「まあ、目立つよね……ごめんね~鈴音ちゃん!できれば慣れて欲しいな。」

……乙女ゲームの主人公は剛の者だなぁ。こんなに目立つ二人を引き連れ歩いて描写すら無かったとは……


……そして久しぶりの学校へ到着した。

私たちは保健室へ向かう。久しぶりの学校で、学校に配属された八咫烏の人と顔合わせを済ませるために……

……表向きは事故に巻き込まれた私の様子を保健室の先生に見せるため、1時間目は休みだ。

「失礼します。」

ガラリと扉を開いた先は―――ハンサムだった。

うおっ!まぶしっ!私についてきた2人を合わせて、この部屋にイケメンが5人勢揃い!

「ようやくおいでですね。比良坂鈴音さん。」

見知らぬイケメンである。しかし、前世の記憶は知っている。彼こそ――

「特異な霊力を持つ貴方をサポートするために八咫烏から遣わされました。今年度の養護教諭を担当します。神城晶です。」

柔らかな美貌。だがしかし私は知っている。彼はもしものことがあった時、私を封印する役目を持つ人だ。

神城先生ルートでは、彼を守るために霊力を暴発させるヒロインちゃんと、それを知り封印すべき少女に心が揺れてしまう養護教諭のストーリーだ。

バッドエンドでは彼は、使命のためにヒロインを封印するが、愛する心も捨てられず自分ごと共に眠ることを選ぶ。

……というか養護教諭とはいえ先生との恋愛ってどうなのよ……私高2なんだけども……

「まさか先輩が死の乙女だったなんて……」

同じテニス部の後輩、七海蓮くんだ。

人当たりのよい犬系後輩を演じているが、ルートでは、実は死の乙女であるヒロインちゃんを利用するために近づき、その為に演技をしている腹黒だぞ!私の好みではない。パスだ。

そうして……最後の一人は、何も言わず私を睨みつけている……

私を警戒する者。

私の前世の最推しだった彼。

クールな眼鏡。代々続く裏の世界の拝み屋。

墨木櫂である。

イベントを 進めなければ 無対応。

ただしデレは一番甘くて激しいのだ。

しかし……しかし彼ルートは、正直実際に対応されたら心折れるわ。ツンデレどころかツン無視だわ。

ないわー……どいつもこいつもないわー……

あと、攻略キャラは敵にもう一人いるんだけど、前世の神々だの前世の関係だの電波ゆんゆんなので、候補にすら入らない。

……。…………。

私は心に決めた。組織からは(ある意味公務員なので)抜けない。危ない橋を渡らない。そして、表に近い公務員の優しい人と恋をして安定した人生を送ろう。

乙女ゲーム……?知らない子ですね……?

いや分かってるよ。どうにかしないと日本が危険なことは。この日本神話だよ!全員集合大戦を乗り切らねばそんな未来はやってこないことは……

よし!狙うはノーマルエンドだな!!!

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