是永 慎司
その日、私は敗北した。
テレビから政府が新しい制度を発表した。
「マーダーサブスクリプションを導入します」
特定の殺人鬼による殺人が合法化されたのだ。
県や市が国に対して月額制で利用料を支払い、
そこに住む希望者は「死」を契約すことが出来る。
契約理由は様々だ。
安楽死や尊厳死の為に殺人鬼を派遣する者。
自分に掛けた保険金で家族を養いたい者。
まだ捕まっていない逃走中の犯罪者に対して、
国が殺人鬼を派遣することもある。
私の上官が口を開く。
「是永…、これでルーベルを追えなくなったな」
この制度が始まった原因の一つは
私達警察官の非力さだった。
10年前、日本国内を騒がせる連続殺人事件が始まった。
犯人は通称「ルーベル・コル」。
ルーベル・コルは3か月に1度のペースで
殺人を繰り返し、5年経った頃には犠牲者の数は
20人になっていた。
被害者の殺害方法は様々だが、
必ず心臓がある胸の部分に刺し傷がある。
そして死体の血を使って壁や床に
ハートマークと「ルーベル・コル」というサインを
書くことからその名が付いた。
ラテン語でルーベルは赤、コルは心臓を意味する。
私はこのルーベル・コルを長年追い続けて来た。
しかし事件発生から5年間、
私達はこの犯人を捕まえることが出来なかった。
すると、ルーベル・コルに便乗する者が現れ始めた。
ルーベルを信奉する者や模倣犯は後を絶たず、
全国で殺人事件が多発し、
収集が付かない状態になった。
そこで政府はマーダーサブスクリプションの制度を導入した。
「どうせ捕まえられないのなら利用しようという事か…」
私は、ルーベルを取り逃がしたのだ。




