体格差SS
『妖精』
「ぴ、ピプリちゃん。本当にこれでいいの?」
「うん……すごくいいよ。さいこぉ」
「そ、そう。ならよかった」
私の手の中でにいる妖精さん、ピプリちゃんは温泉の中のようなリラックスした顔をしているので、きっと楽しんでくれているのだろう。でも全然理解できない。
ピプリちゃんは私が出会った時から変わらない身長30センチくらいの体で、私が両手で握ると胴体と膝上くらいまでが見えなくなる。そんな状態でぎゅっとして窮屈で苦しいはずなのに。というか普通に、壊れちゃいそうで力をいれるのはかなり恐いのだけど。
ピプリちゃんは私が小学生で引っ越してきた時、家の近所の公園で出会った。前の学校では太っていたのもあって軽くいじられていたので、新しくお友達をつくるのが恐かった。そんな私が公園で時間をつぶしていると、同じように公園の花壇の前でぼんやりしていたピプリちゃんが声をかけてくれたのだ。
あの頃の私は子供で、仲良くなったピプリちゃんによかったら家に来て住まないかなんて誘ってしまったりした。妖精種は同種族で固まって住むことが多いので、私にとって珍しいと言っても普通に人種の一種だ。だからピプリちゃんも当時から家も職もある大人だったのにペットを拾おうとするように声をかけるなんて、今思い出しても本当に恥ずかしい。
そんなこともあったけどピプリちゃんは私に優しくしてくれて、ピプリちゃんの応援もあってお友達もできた。それからも私の相談にのってくれて、大切なお友達だった。この間まで。
ピプリちゃんと私は恋人になった。中学生になった私は友達と一緒にバレンタインのチョコレートをたくさんつくった。その中でもピプリちゃんは私の中で一番大切なお友達だから、特別なやつをつくってプレゼントした。
そうしたら本気の告白だと勘違いされてしまって、すごく喜んでくれたピプリちゃんが可愛くて、それを否定するのが申し訳なくて恋人になってしまった。
本当に私がピプリちゃんのことを恋愛的にも好きなのか、よくわからない。でもピプリちゃんのことは大好きだし、恋人になるのが嫌ってわけじゃない。
恋人というのに憧れないでもないけど、私は太っているからそう言う魅力はない。だからこの機会を逃したら恋人ができることってないだろうし、ピプリちゃんも私が告白したからってだけだろうし。
という流れで恋人になって数か月。友達だった時と同じように私の部屋に遊びに来たピプリちゃんは、あのね、と言いにくそうにしながらよかったらぎゅって両手で握ってくれない? とお願いされたのだ。
「冬華ちゃーん、んふふ。ごめんね、変なことお願いして。でも私、こうして触れ合うのが好きなんだ。でも恋人じゃないと変に思われるから、なかなか頼めなくて」
「そうなんだ? ううん。気にしないで。私でよかったらなんでもするよ」
ちょっと戸惑ってはいるけど、素直に嬉しい。今までも大切な友達だった。だけど友達以上になったから今まで以上に甘えてくれてるんだと思うと、なんだかすごく、いい、というか。これがときめくと言うものなのかもしれない。
「なんでも……そ、そういうことはあんまり気安く言わない方がいいかも……?」
「ピプリちゃんにしか言わないよ? 恋人なんだし」
「そーぉ? じゃ、じゃあ、もう一個、お願いしてもいい?」
「うん。なぁに?」
「えっとぉ……太ももに挟んでもらうこととか、できます?」
何故か敬語で聞かれた。触れ合うのが好きってことだけど、手以外でもいいというか、体をぎゅっとくっつけるのが好きなのかな? 狭いところが好きみたいな感じで。
足ってどうなのかな、と思わなくもないけど、別に断ることもでない。私は足を少し開いた状態でベッドに深く座りなおして、ひざ下のスカートを少しめくって太ももを出す。
「ど、どうぞ?」
「お、お邪魔しまーす」
「うん」
スカートをめくってみると私の太い足が見えて思ったより恥ずかしいかも、と思いながら促すと、ピプリちゃんはどこか遠慮がちながらもとっても嬉しそうに私の太ももに着地する。
足を開いていても太ももの隙間からベッドは殆ど見えない。その上にピプリちゃんはそっと座ると、スカートの裾を掴んで炬燵に入るみたいに足をいれて体を揺らして太ももの間に入っていく。
足先が太もものお肉を押しのけてはいってきて、ピプリちゃんの肩が膝の間に埋まる。そうして完全に寝転がっているのを見てから、少しだけ太ももに力を入れて閉じる。
「あぁ……す、すごくいいよ」
軽くきゅっとしめると、ピプリちゃんは顔を赤くして嬉しそうにそう言いながらぎゅっと私のスカートの裾を掴んで皺を寄せながら、布団をかぶるように私のスカートを顔に寄せた。
「……」
そんなピプリちゃんの様子に、私は言葉を返せない。
だって、なんか、ちょっと待ってよ? これ、思っていた以上にめちゃくちゃ恥ずかしくなってきたと言うか、ちょっと、えっちでは? ピプリちゃんの足先が私の下着に触れそうなくらい近いし、下着が見えそうな角度だし、なんか、なんかさっきの手とは全然違う感覚というか。
「ぴ、ピプリちゃん」
「んふへ、なにー?」
「あの……これって、えっちなことじゃないよね?」
「……」
私の問いかけに、とろけそうな顔をしていたピプリちゃんはすっと顔を真顔にして、私の太ももをとんとんと軽く叩いた。それに太ももの力をゆるめると、ピプリちゃんはすっと抜けるようにスカートの下からでてきて、私の前まで来てこほんとわざとらしく咳払いした。
「あの……わ、わかってるよ? 私たち体格が小さい妖精種からすると、他種族の年齢わかりにくいけど、冬華ちゃんまだ学生で子供だもんね? だからそういう、えっちなのはまだ先だよね。うん。その、ちょっとだけ今のは調子にのっちゃったかも。ごめんなさい」
「あ、うん……」
気まずそうに言い訳をされて反射のように相槌をうちながら、言われた内容を理解する。えっと、あの、つまり子供だから我慢するけど、私のことえっちな目では見てるってこと、だよね?
……そ、そう言う意味で私のことちゃんと恋人として好きってことだったの? え、え、か、考えてなかった。そう言う意味での恋人だったなんて。
「……あの、ほんとにごめんね。今後気を付けるね」
「あ、う、ううん。私こそ、変な言い方してごめん。その、責めるとかじゃなくて……い、嫌なわけじゃなくて……手、手でぎゅっとするとかは、全然大丈夫だから」
混乱して頭の中がぐるぐるして黙ってしまう私に、ピプリちゃんは申し訳なさそうにしょんぼりしながら謝罪してきた。私は慌ててそっと手でピプリちゃんを迎えに行って手のひらに乗せて、ピプリちゃんに悪感情を持ったわけじゃないよってアピールする。
うん、嫌、じゃない。想定外すぎて心臓がドキマギして全然頭が回らないけど、でも、嫌ってわけじゃない。えっちなことに、全然まったく興味がない、と言ったら嘘になるし。
ただそう言うのはまだ早いっていうか、ピプリちゃんとは女の子同士だし、太ってるから恥ずかしいし、体の大きさもかなり違うし、どういう風にっていうか、も、もうちょっと、時間がほしい、かな??
「あの……もうちょっと、大人になったら、ね?」
「うんっ。ありがとう。私、楽しみに待ってるね」
「う、うん」
無邪気にも見える笑顔でそう言うピプリちゃんに、私はドキドキしてうまくお話できなくて、誤魔化すようにそっと両手でさっきより優しく包んだ。
―――――
妖精種みたいに他の種族に比べて体格差が大きいと、一緒に暮らすのは大変だ。だから殆どの妖精種は同族だけの集落で暮らしている。だけど私はまだ飛べない子供の頃に集落にやってきた人間のせいで性癖を壊されて、自分より大きな女の脂肪の圧力にしか興奮できなくなったので都会に出ることにした。
妖精種は独立した集落だけあって価値観がかなり街と違う。都会に行くことでなんとか他の妖精種の先輩の紹介で住居と仕事を手に入れ、しばらくは街に馴染んでから、この辺だとどういう風に恋人募集するかも聞いてみよ。と思っていた頃、冬華ちゃんと出会った。
正直に言おう。かなり好みの女の子がいるなと思ってちらちら見てたら、向こうもこっちを見てきて目が合って、にこっと笑うとむこうも返してくれたからこれは脈あり、と思って声をかけた。冬華ちゃんは引っ越してきたばかりで友人がいないと言うことだったので、とりあえずは友人からと親しくなった。
しばらくそうして友人関係を続けてから知ったのだけど、どうやら冬華ちゃんはまだ子供だったらしい。いや、学生と聞いた時点でそうだろうとは思ったけど、まだ卒業した先に進学して何年も学生をするらしい。大人になるまで長いようだ。
これだから異種族は見た目で年がわかりにくい。そうなると、恋人になれるとしてもずいぶん先の話。冬華ちゃんとは普通に友人関係で子供なら珍しい妖精種だから見ていただけで脈ありというわけでもないので、とりあえず先輩に相談して一般的な恋人の作り方を試してみた。
だけど色々試してみて、みんな優しくはしてくれたけど妖精種が珍しいから会ってくれるだけで、みんな私を恋愛対象として見てはくれなかった。
そんなわけで街での生活には馴染んで親しい人もできてはいても、肝心の恋人は全然候補もいない。と半分諦めて過ごしていたところ、なんと冬華ちゃんからバレンタインのチョコレートをもらってしまった。恥じらってもじもじしながらの手作りチョコ。これは噂に聞く本命に違いない。
そうして私と冬華ちゃんは恋人になった。冬華ちゃんは控えめで気遣い屋な優しい子で、もちろん見た目は花丸。告白されて断る選択肢なんてない。
とはいえそうは見えないけどまだ子供というのはわかっているので、えっちなことはもうちょっと大きくなるまで我慢するつもりだったけど、ついなんでもすると言われたのでちょっとだけ調子に乗って太ももに挟んでもらってしまった。
だって、手でぎゅってされるのだけでも気持ちよかったから。これでも胸とかお尻とか、脱がなきゃいけないお腹とかは遠慮したんだけど。でもそうだよね。恋人って言ってもどのくらいの熱量かはわからないよね。
私は飛べない時から全然そういうのに興味が出てしまっていたのだけど、それもあの強烈な体験あってのこと。立派な体だからって、子供だと言うなら考慮すべきだった。
「あの……もうちょっと、大人になったら、ね?」
と反省する私に、冬華ちゃんは優しくそう微笑みながら私を手に乗せてくれた。
優しい……ますます好きになっちゃう。もしかして嫌われちゃったかと不安だったけど、まだそこまでじゃないらしい。本当によかった。
「うんっ。ありがとう。私、楽しみに待ってるね」
「う、うん」
冬華ちゃんが大人になるのっていつだろう。確か三年生が最上級生って言ってたから、二年後には大人ってことでいいのかな? 学校ってシステムもいまいちわかってないんだよね。もう失敗しないようちゃんと確認しないと。
と理性的に頭を働かせようとする私を、冬華ちゃんはさっきより優しく私を両手で握った。優しくて圧迫感とか気持ちよさはないけど、冬華ちゃんらしくてほんわかする。
「冬華ちゃんはあと何年で大人になるのか確認してもいい? 三年生が終わったら卒業で間違いない?」
「えっと、間違いないけど、中学は卒業してもまだ高校生だし、高校生はまだ未成年だから子供だと思うよ?」
「えっ、そんなに学校に行くの? こ、高校は何年なの?」
「高校も三年だよ」
「そ、そうなんだ……じゃあ、五年かー」
相槌をうちながら、うわー、長ーいと心の中で思ってしまう。待つのに五年は長い。というシンプルな気持ちと、それと同時に思っていたより冬華ちゃん子供なんだって気持ちでなんか、複雑になってしまう。
一般的に妖精種の方が少数派というか、変わった生態だってのはわかってるけど、他種族ってほんとにわかんない。
「うん……それは、そうなんだけど。あの……ピプリちゃん、その……え、えっちなのはあれだけど、恋人として、キスとか、それは、そこまで待たせないようにするから……ね?」
「えっ、い、いいの? 無理しないでいいけど、ま、待ってるね」
「うん……」
もじもじと真っ赤になっている冬華ちゃんは可愛いし、無意識にだろうけど手に力がはいっていい感じに握ってもらってるのだけど、いや、ほんとにいいの? キスは子供の時でもセーフなの?
だって冬華ちゃんのおっきなお口に唇を合わせるとか、その唇を開けて中の舌と触れ合うとか、めちゃくちゃエッチだと思うんだけど。
冬華ちゃんの誘惑するようなお言葉に、私はドキドキして期待してしまうのをとめられない。でも冬華ちゃんも私を本気で思ってくれているのは伝わってくるから、大事にしようって思いながら、とりあえず今は冬華ちゃんの手の感触をじっくり味わうのに集中することにした。
〇
『ケットシー』
「お、お見合い? 今どき??」
「そう……今どきじゃないよねぇー?」
何やら珍しく気が立っている様子のルームメイトのミムリにどうしたの? と聞いたところとんでもない話が返ってきた。お父さんからの電話で、お見合いをするように言われたと。私たちまだ高校生だよ?
ホットミルクをいれてローテーブルにカップを置き、すぐ隣の二段ベッドの側面にもたれかかるように座ると、ミムリがするりと転がるようにベッド下段から降りてくる。
「ありがとー。はぁー、癒されるー」
そして両手でカップをおさえて顔をよせて、ぺろぺろと水面を舐めるようにミルクを飲んだ。普通に行儀の悪いそんな態度がとてつもなく可愛くて許せるのだから、可愛いってずるいなぁと思う。
寝る前にはホットミルクを飲むの習慣は、元々ミムリがやっていて、私が釣られて身についたものだ。今では私が二人分を用意しているけど、温かい飲み物を飲む時にだけこうしてぺろぺろする姿が見たくてしているところがある。
「それで、どうしてお見合いなんて話になったの?」
「んー。最近はケットシーもこうして街にでる若者が増えてるんだけど、そこでケットシー同士が出会うことってほぼないし、かといってケットシーの里に私が行くわけないから前から探してたらしいのよ。で、いい人がいたからって。いやほんと、信じらんないよねぇ」
「なるほど? まあ親心ってことだろうけど、さすがにまだ早いよね」
「ってか、余計なお世話も甚だしいよ。うちの両親は幼少期はケットシーの里で過ごしたから毛無し、あ、これは別に差用語じゃなくて、単に全身毛が生えてるかどうかだけなんだけど」
「そんな気にしなくても大丈夫だよ」
言いたいことはわかる。言っても私も全身毛は生えるけど、常にふさふさで子供の頃の写真を見たら大きい猫にしか見えないケットシーとは全然見た目が違う。ケットシーからしたら他種族は毛がないと感じるのは自然だ。
私もケットシーの知り合いはミムリしかいない。高校の寮にはいってルームメイトとして出会い、仲良くなったし猫とと思ってるわけじゃないけど、正直猫みたいに接してしまっている。いやだって、ミムリ自身可愛がられるの好きだし。
「そう? ありがと」
一瞬慌てたようにしたミムリだけど、私がほんとに気にしてないのがわかったのかほっとしたように顔をかいてから、ごろんと私の膝の上に頭を乗せた。
ほとんど反射のように頭を撫でる。滑らかな毛並み。ぴくぴく動く柔らかい耳。心地よさそうに目を閉じて喉を鳴らされる。可愛すぎる。普通にめちゃくちゃ可愛い。
これは差別ではないのだけど、見た目は本当に身長1メートルくらいの服を着ている大きな猫ちゃんなので可愛すぎる。
「で、その毛無しがどうしたの?」
「ん。生まれてからある程度大人になるまでケットシーしかいない環境で育つと、異種族だからってことじゃないけど、どうしても毛無しを恋愛対象とはみれないみたい。だからケットシーはケットシー同士でって思い込んでるの」
「ふーん? そう言うってことは、ミムリは違うの?」
ミムリは子供の時から普通の街で暮らしていたらしいのでそう尋ねてみる。ミムリは鼻をくんくんさせて甘えるように私の膝に頭を摺り寄せてから、目を開けて私をちらっと見ながら頷いた。
「そうなのよ。むしろ家族くらいしかケットシーを知らないから、故郷の写真とか見せられても全然見分けつかないし。普通に初恋相手も異種族だし」
「あ、そうなんだ」
流れ的に異種族で毛無しでも恋愛対象ってことなのだろうとは思ったけど、初恋相手が異種族というのは妙にリアルは話に感じられてちょっと戸惑ってしまう。
いや高校生だし、全然初恋経験してても何もおかしくないけど、こんなにミムリが? と思ってしまう。駄目とかじゃなくて、私の可愛いミムリがどこの馬の骨に初恋を? みたいな感覚に近かったと思う。
もちろん、出会って一年くらいの私の方がよっぽどぽっと出の馬の骨ってのは頭ではわかってるんだけど。ルームメイトでずっと一緒で学校で一番仲いいと自負しているのもあって、こう、つい感覚的に。
とりあえずショックを誤魔化すように、ミムリの顎をくすぐりながら口を開く。
「あー、それは親にも言いにくいし、断るの難しいよね」
「そうそう。夏休みに帰ったらって言われても、今から恋人つくるのも現実的じゃないしねぇ」
こ、恋人。初恋だけでもびっくりなのに、ミムリが恋人をつくるなんて。私の腕の中で転がってるミムリが?
動揺で思わず手を顎から離してしまったので、誤魔化すためにミムリを引き寄せるようにして抱きかかえる。服越しにも伝わるあったかくてフワフワの体にほっとして、お腹をぽんぽんしながら相槌をうつ。
「だねぇ。はは……ちなみに、どんな人がタイプとかあるの?」
「んー。私より大きい人? 今みたいに抱っこしてくれると安心するし、美奈子みたいに撫でるのがうまくて甘えさせてくれる人かなぁ?」
え? これ脈ありなの? ……いやいや、脈ありってなに、私が片思いしてる前提の物言い。
言い方的に半分冗談で言ってるやつだし。
「……じゃあ、私と付き合う? お見合いまでの限定で、お試しというか、仮交際というか」
私は目をそらして天井をみながらそう言った。わかってるけど、でも、ほんとに私が無理なら冗談半分でも言わないはずだ。私と付き合う選択肢があるってのは間違いない。
だったらミムリが適当にその場しのぎで知らない人と付き合うよりは私が付き合った方が間違いない。ミムリが変な人にからまれるよりずっと安全だ。
「え? それ助かるけど、ほんとにいいの?」
「う、うん……焦って適当に恋人つくられても心配だし、お見合いも心配だし」
ぱっと明るい声で尋ねられて視線を下げると、私の胸に手を当てるように身をよじって振り向いたミムリのきらきらした瞳と目があう。
「ありがとー! ほんと助かる! さすが美奈子ぉ。負担にならない程度でいいからね」
「ううん。気にしないで。夏休みいっぱいでも、四か月くらいなんだし、お試しとしてちょうどいいんじゃないかな」
「ん?」
「え?」
いつも通りの距離感で、いつもと何も変わらないミムリの可愛さで、別に何もおかしなことはないのに、妙に胸騒ぎというか、変な感じだ。だからか、急にミムリに首を傾げられた意味がちょっと理解できなかった。
え、私今変なこと言っちゃった? 別にそんな、ミムリに下心をもっていたわけじゃ。……ミムリと付き合うなんて考えたこともなかったけど、じゃあ、ありかなしかで言うとってなったらありって言うか。むしろ他の子と付き合うくらいなら私とって思うし。
とりあえずなんかわかんないけどいい流れでお試しで恋人になれたわけだし、なんか、多分今動揺しすぎて変にドキドキして私の気持ちがどうなのか断定できないけど、四か月もあればはっきりするだろうし。変なこと言ってないよね?
「ミムリ? 私、変なこと言った?」
「んーん? 別にぃ? ふふふ……」
ミムリにじっと見られてどぎまぎしながら自分の言ったことを振り返りつつ、平静を装って問いかける。ミムリはそんな私にニンマリと笑って楽しそうによいしょと私の太ももの上で立ち上がる。そして鎖骨下に両手を添えて私に顔を寄せてくる。
「ど、どうしたの?」
「んー」
私の問いかけを無視し、くんくん、と匂いをかぐように鼻先を近づけてからミムリは私の口に口をくっつけた。ふわっと柔らかいものを感じてすぐに、ざらついた舌が私の唇を撫でた。え? は? き、キスされた!? しかも舐められた!?
「……」
「ん、よろしくね。恋人さん」
そうして悪戯っぽく笑うミムリに私は返事をすることができないくらい混乱しながらも、ばくばくとさっきまでと比べ物にならないくらいうるさくなった心臓の音に、もうすでに私の恋がはじまってしまっているのを否応なく自覚させられるのだった。
――――――
うちの親は頭が固い。同じ種族だから楽な部分もそりゃああるだろうけど、異種族だから可能な大きな体から発せられる安心できる包容力とか、器用に気持ちよく撫でてくれるところとか、そう言う異種族ならではの良さがあるのに。
とはいっても、私にとって異種族の毛無しになれているから恋愛対象になっているだけで、逆に向こうからしたら毛有りの私は見慣れない姿で、なにをしても許される可愛さを持っているとはいえ恋愛対象にはならないと言うのも自覚していた。
今は見わけもつきにくいくらいだけど、同種族のケットシーは見慣れたら普通に見わけもついて恋愛対象にすることはできるだろう。だから、お見合いをと言う気遣いがまったく意味のないものだとは言えない。
とはいえ、だからってまだ高校二年生の私をお見合いさせようとか、前時代すぎるでしょ。もうちょっとくらい夢をみさせてくれてもいいのに。
まあ、寮にはいって家を離れたことで余計に心配したのかもしれないけど。そう言う態度が逆に嫌だから家を出たのに。
「じゃあ、私と付き合う? お見合いまでの限定で、お試しというか、仮交際というか」
「え? それ助かるけど、ほんとにいいの?」
「う、うん……焦って適当に恋人つくられても心配だし、お見合いも心配だし」
と納得できない複雑な思いをルームメイトで大親友の美奈子によしよししてもらって癒してもらいながら愚痴っていると、なんとお見合い対策で恋人になってくれると驚きの提案をされてしまった。
「ありがとー! ほんと助かる! さすが美奈子ぉ。負担にならない程度でいいからね」
「ううん。気にしないで。夏休みいっぱいでも、四か月くらいなんだし、お試しとしてちょうどいいんじゃないかな」
「ん?」
「え?」
優しくて甘やかしてくれて本当にいい子だと思っていたけど、まさかそんなことまでしてくれるなんて。振り向いて感謝を伝えて、できるだけ負担をかけないようにするつもりでそう言ったところ、何か変な言い方をされてしまった。
今回のお見合いを阻止するため、親への言い訳としての恋人になってくれると言うことなら、最低限夏休みまでの間に一緒に遊びに行く際にデートっぽい写真をとったり、最悪夏休みにうちに来て挨拶してくれるということだと思っていた。
でも今の言い方だと、四か月お試しで付き合うという、お見合い対策の為だけじゃなくて普通に恋人として付き合うと言うように聞こえた。
「ミムリ? 私、変なこと言った?」
「んーん? 別にぃ? ふふふ……」
だから首を傾げてその目をじっと見て真意を問うたのだけど、美奈子はどこか動揺したように瞬きをして頬をわずかに赤くしていて、手をついた下にある美奈子の心臓が早くなるのを感じられた。
なるほど。どうやら美奈子は私に対して気があって、お見合い対策込みで付き合ってみてもいいと思っての提案だったらしい。
思わずにんまりと笑ってしまう。好きなタイプは美奈子みたいな人、なんて冗談半分で言ったけど、半分は本気だ。まだこれから二年近くルームメイトとして過ごすのに本気になっても気まずいし、ケットシーはそう言う意味ではモテない。と半ばあきらめかけていたので全然そんなつもりはなかった。
でも美奈子からOKと言ってくれるなら話は別だ。全然あり。むしろこちらからお願いしたいくらいだ。
とはいえ、本当にケットシーの私を恋愛対象と見れるのか確認する必要がある。
「ど、どうしたの?」
「んー」
なので私は戸惑う美奈子に顔を寄せ、そっとその唇にキスをしてぺろりと舐めた。
キスはケットシー的にはあんまり恋人的行為という感覚がない。毛無しの種族的に一般的な恋人行為とわかってはいるけど、舐めて毛づくろいする習慣があるから。もちろん赤の他人とはしないし仲良しじゃないと抵抗はあるけど、普通に美奈子となら大親友として全然下心なして抵抗なくできる行為だ。
「……」
だけど私の行動に、美奈子は明確に恋人行為と認識しているのか、さっきまでのは勘違いだったと思えるくらい明確に顔を真っ赤に脈拍を早くしている。
私からのキスでこんなにドキドキするなんて、ちゃんと恋愛対象として意識してくれていないとできないことだろう。
本当に私のことちゃんと意識した上で恋人になろうとしてることがわかって、私もドキドキしてきてしまう。美奈子と付き合えるなんて思ってなかったから、素で甘えまくってだらけた姿ばかり見せていたのに。こんな私を好きになってくれていたなんて。
やばい。ただ愚痴を言うだけのつもりだったのに、どんどん美奈子のことを意識して好きになってしまっている。
「ん、よろしくね。恋人さん」
こうなったら、もう美奈子に本気にならないなんて無理だ。もうこれからの私の一生で他にケットシーを恋人にしてくれて見た目も中身も魅力的な女の子が他に現れるとは思えない。お見合いまでのお試し期間で本気になってもらえるよう、本気をだして頑張ろう。
私はそう決意しながら、美奈子に体を摺り寄せてマーキングをするのだった。




