昔々。
王子様は、お姫様のところにしか現れない。
それは私が齢五歳にして知った幼児社会、もとい世界の現実だ。
身を持って痛感したのは、私が幼稚園に意気揚々と通っていた頃の話だ。
間近に卒園が近づいていて、周りのみんなも少し浮足立っていた。もちろん私もだ。
女子の幼児社会は可愛い子が正義。男子の幼児社会は力が強いガキ大将的な立ち位置が一番上。
その中でも私は幼児社会の中で真ん中のザ・普通の立ち位置に在った。
そして、私が好意を抱いていた男の子は幼児社会の中では真ん中だったけれど綺麗な顔つきをしている格好いい子だった。
けれど私の好意もすぐに断ち切られた。
女子社会のカースト一位である可愛い子がかっ攫っていったから。
私は知った。
顔面偏差値も、社会的立ち位置も、性格も、頭脳も、人は平等じゃない。
そんな当たり前のことに当時の私は酷くショックを受けたのだ。
まだ何者にもなれるという希望と、奪われるものへの重要さがわかっていなかったのだ。
そして、そんな社会に身を持って教えられながら十二年が経過した。
現在高校二年生。大学受験を2年後に控え、私は学校へ通っていた。
面白いほどに学校には色々な人がいる。
まだ社会の現実を知らない、叶うはずの無い恋を夢見ている馬鹿たち。
勉強や部活に没頭している至極普通な人たち。
まあ、私はどれにも部類されないのだけれど。
「おはよ!今日もーーは眠そうやなあ」
「はよー。眠いに決まってるやん。さっちゃんは今日も朝練終わりか。お疲れ様」
「ありがと。体育館暑すぎるやろ」
私の親友である紗奈。通称さっちゃん。
中学からの仲で、中学時代は前髪も長く、内気な子だったのだけど、高校に入ってからは後ろに伸ばしていた髪もバッサリと切って、今は女子バスケ部の次期部長として頑張っている。
昨日となんら変わらない一日を過ごし、帰路につく。
ちなみにさっちゃんと一緒に変えることは、ほぼ無い。
さっちゃんは放課後部活だし、部活がなくとも自主練に行っていることが多いからだ。
帰宅時間帯で少し学生が多い電車で窓の近くの手すりに持たれながら、今日図書室で借りてきた本を読む。
駅から自宅へ歩きながら、し日差しがゆるゆると引いていくのを感じて、本のページを捲った。
異世界のものが多い短編集。
そこまではファンタジーが多かったのに、急に恋愛ものに差し替わった。
恋愛ものは、正直苦手。
それに値する人は、ごく僅かでありえないようなことだから。
仕方なく一ページだけ読んでみた。
「…一ページ目で好きになるなんて、この王子も大した事ないな。…しょうもな」
なんでそうなるん?
ずっと一人だった末の王子が平民の可愛い女の子を好きになる?
身分差もいい加減にせえよ!!!!
というか、女の子が可哀想や。
一ページ目で知らん人に一目惚れされて?
女の子に好きな人がおったらどうすんねん!!!!
「しょうもない」と思いながら結局どんどん読み進めていってしまった。
この事が私へ牙を向くことになることも、この事が私にとって重要な記憶になることも
今の私は知らなかった。




