第4話『スキル<ステータス超成長>』
【ハギ・ケイイチロウ/魔法剣士】
性別:男性
レベル:135
生命力:180
攻撃力:190
魔法力:180
敏捷性:150
技巧:140
保留中ステータスポイント:10
【習得スキル】
<ステータス超成長><地属性魔法><剛腕><不眠不休><痛覚耐性><精神耐性>
金策のために一週間、死力を尽くして魔物を狩りまくった結果がこれである。
特に大変だったのは初日だ。街の近隣で最初に出会った魔物は『一角獣のような角が生えたイノシシ』だったのだが、これを撃破するのが本当にしんどかった。どうせ序盤の雑魚敵だろうと侮ってナイフ一本で突撃したら、猛スピードの突進で腹を貫かれて普通に死ぬかと思った。
だが、そこで僕は早くもスキル<ステータス超成長>の規格外性能に気づいた。
この世界で傷を劇的に癒やす方法は複数ある。回復薬を使うとか聖属性魔法をかけてもらうとか。
その数ある手段のうち一つが『レベルアップすること』である。
戦闘によって経験値を積み、レベルアップを果たして己の限界を超えたとき、肉体は自然と万全の状態に修復される。理屈は分からないが、この世界ではそういう現象が発生するのだ。そう体感した。
そこで<ステータス超成長>の出番である。
僕が女神様より授かったこのスキルは、周囲からドン引きされるほど爆速でのレベルアップを約束する。それゆえ格上の敵と死闘を繰り広げていると、分刻みのペースでレベルが上がって勝手に傷が全快していくのだ。
要するに、強敵が相手だろうと即死さえ避ければだいたい何とかなる。そのおかげでイノシシに腹を突き刺されても死なずに済んだし、刺された状態のまま決死の反撃を試みることもできたし、最終的に泥仕合の末だが勝利を収めることもできた。
そんな死闘を毎日のように繰り広げ――小休止としてこの街にひとまず帰還したわけである。
「戦利品は表の橇に乗っけてあります。『雷を落としてくる鳥の尾羽』とか『人間を金縛りにしてくる大蛇の眼球』とか。『全身が燃えてる馬のたてがみ』に『毒霧を吹く大蛙の肝』もありまして……」
魔物は倒すと砕け散って消滅するのだが、希少部位らしい箇所だけは例外的にその場に残る特性があった。他の冒険者もそれらを集めて「ギルドに買い取ってもらう」的なことを喋っていたので、金になるのは間違いない。
というわけで、それらの品々を<地属性魔法>で成型した土の橇に乗っけて、高そうなのも安そうなのも手当たり次第に運んできた。
ちなみに<地属性魔法>はひたすら魔物を石で殴り続けていたらいつの間にか習得していた。きっと大地の精にガッツを認められたのだと思う。女神様から貰った初期装備のナイフは初日で折れた。
と、そんな回想にしげしげと浸っていた僕だが、そこで気づいた。
ギルド嬢のお姉さんがこちらに背を向け、抱え込むように掃除バケツを抱いて――盛大にゲロを吐いていた。
「お……お姉さん?」
「申し訳ありません……。あまりに常軌を逸したステータスだったもので、つい反吐が出てしまい……うぷっ」
ハンカチで口元を覆いながら振り向いたギルド嬢だったが、再び口を押さえてバケツに向かった。
後方に控えていたギルドの職員たちも僕の顔を指差してざわめき出す。
「あれ、先週までレベル5以下だった人……!」
「嘘でしょ?」
「本当だって。噂になってたもん。あの歳であのレベルは低すぎだって」
「それが一週間であれ?」
「異常だろ」
「変な病気持ってそう」
「何か臭くね?」
途中から周囲の冒険者たちにもヒソヒソ話が伝播していく。全方位の人間が僕を汚物のように眺め、露骨に距離を置き出す。
(これは……ちょっと予想以上だったな……)
ステータス上昇速度が早すぎると気味悪がられるのは知っていた。他ならぬ魔王が闇落ちした原因がそれなのだから。
だが、まだ自分はせいぜい一週間ほど金策戦闘に励んだだけである。ある程度キモがられる覚悟はしていたが、ここまでの反応とは思わなかった。
「本当に人間か? 魔物とかじゃねえの?」
「何かの悪質な呪いとか」
「みなさん誤解です! 僕は魔物でもないし、呪いを受けてるわけでもありません! ただステータスが異様に伸びやすいレアスキルを持っているだけなんです!」
女神の使者とは明かさないが、スキルのことは別に明かしても構うまい。
思い切って告白してみたところ――より一段とざわめきが大きくなった。
「そんなキモいスキルがあんのか?」
「聞いたことねぇ」
「あったとしてもう呪いだろそんなの」
「伝染ったりしねえだろうな」
殺伐とした雰囲気が漂い始める。
棘のある視線があちこちから浴びせられ、僕に「出ていけ」と圧をかけてくる。こちらはただ戦利品を換金したいだけなのに。
「物騒な空気ね。何の騒ぎ?」
と、そのとき。
凛とした声が響くと、騒然としていたギルドが一瞬で静まり返った。
声の方に振り返ってみれば――
「ギルド荒らしの不届き者でも出たのなら、報酬次第で退治してあげてもいいけれど」
そこには『師匠』がいた。




