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追放〈ガンナー〉が錬弾少女と『弾代ゼロ』で無双します――撃つほど黒字の無限ループ!

作者: 人火 発

 

「〈ガンナー〉なんて金食い虫だ!」

 ――冒険者ギルドの執務室に怒号が響いた。


 そこには、ギルド長と幹部たち、それから一人の少年がいた。

 少年の名はレオ。

 小柄な体格ながら、背中には長い銃を背負っている。

 〈ガンナー〉という稀少職だ。

 銃は珍しいが、そのぶん運用に莫大なコストがかかる。

 高価な魔導弾を使えば使うほど赤字になる……

 それが、いま彼に突き付けられた現実だった。


「弾代がかさむだけでロクに成果も上げられない! 組合からの資金も枯渇寸前だ。君みたいな『浪費職』をこれ以上抱えておく余裕はない!」


 荒々しい言葉を投げつけられ、レオは歯を食いしばった。

 これまで仲間とともに必死に魔物を討伐してきた。

 だが銃弾のコストが高く……

 パーティーの利益を食いつぶす結果になっていたのも事実だ。


「俺だって……好んで赤字を出してたわけじゃない」

「なら、さっさと出ていけ。〈ガンナー〉という職業自体が問題なんだよ! 支援を受ける資格はもうない」


 そう言われ、容赦なく突き付けられた追放通告。

 パーティーメンバーだった仲間たちも同意したらしい。

 彼は黙ってそこを去るしかなかった。


「ああ……これから、どうするかな」


 こうしてレオは冒険者ギルドから放逐され、

 持ち弾すら満足に買えないまま、

 王都を離れて荒野へと放り出された。



 ◆◇◆ 廃棄との出会い ◆◇◆


 ギルド追放から数日後――。

 レオは王都から遠く離れた荒野を一人さまよっていた。

 背中には銃こそあるが、ろくな弾薬を持っていない。

 銃の携行弾は限りある。

 下手に野盗に狙われでもしたら、すぐに袋のネズミになるだろう。


「ふう……。このままモンスターと遭遇したらヤバいぞ」


 かといって、魔物素材を狩らなければ生活費は稼げない。

 ギルドからの支援金どころか、仲間の助けもなくなってしまった。

 今、収入を得る手段は自力でのモンスター討伐ぐらい。

 だが弾が高いからこそ追放されたのに、狩り続けられるわけもない――。


 八方ふさがりとはこのことだ。


「……せめてどこかの村にたどり着ければな」


 そうぼやきながら進むレオ。

 彼の目に、遠くの地平に立ち上る煙が映った。

 小さな灯火――人がいる可能性がある。

 疲労と飢えで限界だったレオは、その火を目指して足を速める。


「誰かが、いるのか……?」


 近づいてみれば、それは焚き火だった。

 ちょうど廃坑へ続く道のそばに、ぽつんと設置されている。

 そこに、少女が一人、腰を下ろしていた。

 小柄で華奢な印象だが、その背中には奇妙な装置を背負っている。

 錬金術で使う魔導炉のようだが、かなり古い型らしい。

 側面には大きく『廃棄処分』と刻印されていた。


「……よいしょっと」


 少女は炉の調整をしているようで、背中のネジをきゅるきゅる回しては溜息をついている。


「こんなところで何を……?」


 レオが訝しんで声をかけると、少女はびくっと肩を揺らして振り向いた。


「わ、びっくりした! 人が来るなんて思わなかったよ」


 ややあどけない声。

 歳はレオより下……いや、同じくらいだろうか。

 髪は肩でゆるく跳ね、瞳は透き通るように明るい。

 頬には煤が付着しており、必死に何かをやっていたのがうかがえる。


「ああ、ごめん……。ちょっと旅の途中でね。ここで何してるの?」


 レオが警戒しないよう、できるだけ柔らかい声で尋ねると、少女は表情を緩めた。


「私はミリア。見ての通り錬金術師……いや〈アルケミスト〉かな? ちょっと実験の途中で、古い魔導炉を背負って移動してるんだ」

「それ……背中に『廃棄処分』って書いてあるけど、故障品?」

「そうみたい。ギルドの研究所が新型導入したせいで、これを捨てようとしてたの。もったいないから、こっそりもらってきたんだよね」


 けろりと笑うミリア。実験好きらしい。

 レオは同じ『追放』の身として、どこか共感するものを感じた。

 廃棄されそうなものを拾って、再利用しようとしている彼女。

 自分と同じような境遇じゃないか……と思わず苦笑する。


「そっか……何か手伝えることは?」

「うーん、特にないかな。でも良かったら、この焚き火で休憩していってよ。いまなら雑草スープが飲み放題だよ!」


 雑草スープ……正直に言えば、あまり食欲をそそらない。

 だが背に腹は代えられない。

 飢えと疲労でフラフラだったレオはありがたくその誘いに乗った。


「助かるよ……。ありがとう、ミリア」


 そこから二人は焚き火の前で並び、たどたどしく会話を始めた。

 お互い、まだ警戒心は拭えないが、行き場のない者同士、奇妙な親近感があった。



 ◆◇◆ 砕かれた常識 ◆◇◆


「錬金術師って言うけど、具体的にはどんなことができるんだ?」


 レオはスープをすすりながら尋ねる。


「うーん、錬金術って色々あるんだけど……。私はもっぱら“物質変換”を扱ってるかな。例えば、鉄屑を魔力で加工して、別の形状や属性を付与したり」


 ミリアは背中の魔導炉を軽く叩く。その行為だけでごとりと重そうな音がした。


「でも、その魔導炉……もう動かないんじゃ?」

「普通はね。でも、ちょっと特殊な改造をしてみたの。見てて」


 ミリアはポーチから錆びた釘のような金属片を取り出す。

 そして、それを魔導炉の投入口に入れた。

 そして炉の外側に取り付けた小さな筒に手をかざす。

 すると――。


 ぽんっ。


 可愛らしい音とともに、魔力の光が迸り、釘はほんの一瞬で消えてしまう。

 すると代わりに、同じ形をした銀色の弾丸が落ちてきた。


「え……弾!?」


 レオは思わず腰を浮かせる。

 弾丸なんて高価なものを、こんなに簡単に!?


「弾丸、というか『雷鎖弾』かな。この炉で金属片を『属性弾』に変換してるんだよ。私の得意属性は雷と歪曲。だから雷鎖弾とか歪曲弾は簡単に作れるんだ」


 まるで子供が自慢の工作を見せるように、ミリアは笑みを浮かべた。

 しかし、レオにとっては冗談では済まない重大ニュースだ。


「すごい……だって、俺、銃使いなんだよ。銃弾はいつもめちゃくちゃ高価で困ってたんだ」

「やっぱり? ……実は私も、錬金をやってると金属屑が大量に出ちゃって、それをどんどん弾に変えてたら、弾が溢れて困ってたところなの」


 弾が溢れて困る?

 こんなに嘆いていたレオとは真逆の悩みだ。

 彼は目を丸くする。


「もしよかったら、その弾……売ってくれないか? 多少なりともお金を払うから」

「お金なんていらないよ! だっていくらでも作れるんだもん。むしろ引き取ってもらえたら助かるくらい」

「タダ……?」


 魔弾がタダで手に入るだなんて、冗談のような夢のような話。

 レオはその価値に驚きを隠せない。

 銃弾一発数万ゴールドなんてザラ。

 それが無制限に入手できるとしたら……


「……ということは、〈ガンナー〉の最大の欠点だった弾代がゼロになる……?」

「え? ガンナーって弾を自分で作るわけじゃないの? 買うと高いの?」

「そりゃあもう、めちゃくちゃ高いさ。だから冒険者ギルドからは『浪費職』とか言われて……俺、追放されたんだ」


 レオが苦々しい顔で経緯を説明する。

 すると、ミリアは目を丸くし、それから憤った。


「追放なんて酷い! 武器の特性を理解できないほうがおかしいじゃない!」

「まあ、それが現実なんだ……。でも、もしミリアが本当に弾を無尽蔵に作ってくれるなら、俺はもう一度やり直せるかもしれない」


 ギルドからは追放された。

 しかし、〈ガンナー〉として生きる道がここにあった。

 レオは心の奥底からわき立つ感情を感じる。

 諦めていた道が、今ここで開けたのだ。


「やり直そう。俺と一緒に組んでくれないか?」

「うん! 私も捨てられた炉を背負ってるし、廃材みたいに扱われてきた。レオとなら気が合うかも」


 互いに手を取り合い、即席パーティーが結成された。

 運命的な出会いだった――弾丸不足と弾丸過多の利害がピタリと一致した瞬間である。



 ◆◇◆ 雷鎖弾の威力 ◆◇◆


 次の日、レオとミリアは荒野でのモンスター討伐に挑戦した。

 さっそくミリアが魔導炉で錆びた金属を投入し、「雷鎖弾」を量産する。

 見る見るうちに、銃弾の束が地面に積まれていく。


「すごい……こんなに弾を持てるの、初めてだよ」

「まあ、特に持ち歩く必要もないんだけどね。必要に応じてすぐ作れるし。でもせっかくだからバッグに入れておこうか」


 二人が笑っていると、獰猛な足音が聞こえた。

 見れば、大柄なオーガが四体、こちらを見ている。

 牙をむき、こん棒を構える。

 その後ろには小鬼のゴブリン軍勢がぞろぞろといる。


 普通なら危険な状況だが――


「じゃあさっそく試し撃ちといこうか!」


 レオは愛銃を構え、鏡のように光る雷鎖弾を装填した。

 指先が震える。

 ワクワクが止まらない。


 ――ドンッ!


 銃声とともに、弾丸が雷光をまとい、一直線にオーガの群れへと飛んでいく。

 着弾した瞬間、青白い稲妻が周囲の敵を巻き込んで連鎖的に爆ぜた。


 バリバリバリッ!


 閃光とともに複数のオーガが痺れ、ゴブリンたちは悲鳴を上げて吹き飛ばされる。


「す、すごい……! 一発であんなに」

「雷鎖弾は、当たった相手に雷属性の連鎖ダメージを与えるんだよ。集団戦に向いてるから、こういう場面にうってつけ」


 ミリアが得意げに胸を張る。

 レオはそれに応えるように、引き金を再び引いた。


 ――ドンッ! ドンッ!


 連続で放たれた弾丸が、オーガたちを次々と痺れさせ、そのまま倒していく。

 ごろり、と倒れた巨体を確認しつつ、レオは冷静に標的を探す。

 弾が尽きる不安もないなら、撃ちたい放題だ。

 従来のガンナーとは比べものにならないペースで弾丸を放ち、周囲の敵を一掃する。


「……よし、クリア……」


 しばらくして、雑魚たちは全滅した。

 オーガのドロップ品やゴブリンの素材を集めながら、二人は改めて顔を見合わせる。


「ちょっと待って、こんなに簡単に終わっちゃうの……?」

「うん。雷鎖弾が強いのもあるけど、レオの射撃センスがすごくいいよ。狙ったところに正確に撃ち込んでるんだもん」


 ミリアが素直な賛辞を投げる。

 彼女にとっても、こうして実戦で弾を使ってもらうのは初めてだ。

 その凄まじい相性の良さに、二人とも驚きを隠せない。


「い、いや、そんな……でも、弾が惜しくなくなったことで、やっと俺も本領を出せるってわけだ。撃てば撃つほど稼げるなんて、夢みたいだけど……」

「撃つほど黒字になる! すごいよね、それ」


 これまで『撃つほど赤字になる』と蔑まれたガンナーだ。

 それが、いまや『撃つほど黒字』を生み出す存在に。

 笑いが込み上げるほど痛快だった。


「ほんと、ミリアに感謝だよ。これから一緒に、もっと稼ごう!」

「うん! でもその前に、この魔導炉、もう少し改良の余地があるかも……。新しい属性弾を錬成できるかもしれないし」

「おお、それは楽しみだ!」


 こうして二人は、荒野での初陣を見事に勝ち取り、幸先のいいスタートを切ったのだった。



 ◆◇◆ 予想外の歪曲弾 ◆◇◆


 その後、順調にモンスターを狩り続け、かなりの素材と報酬を得ていた。

 とくに《オーガの腕輪》や《雷属性結晶》など、レア素材も手に入った。

 売れば相当な額になる。


 しかし、彼らの討伐効率をさらに加速させたのは、ミリアが新しく開発した『歪曲弾』の存在だった。


「歪曲弾……? どんな効果があるんだ?」

「うん、理屈は難しいんだけど、当たった場所だけを、部分的にねじ曲げる……って感じかな? 例えば城壁に撃ち込めば、壁を大きく破壊せずに内部だけをガコンとえぐり取れるはず」


 ミリアは興奮気味に説明する。

 そんな弾丸を実際に撃つ機会が来た。

 別の冒険者パーティーがオーガの砦を攻略している最中に遭遇したときだった。


「お、おい! 誰か助けてくれ! オーガの砦の城門が硬くて破れないんだ!」


 城壁の前で立ち往生している冒険者たちが、レオたちに向かって叫ぶ。


「ふむ……オーガの砦の城壁か……石と金属が混在してるから、かなり頑丈みたいだな」

「でも大丈夫! 歪曲弾を撃ち込めば、外側はそのままで、内部構造だけを破壊できるよ!」


 ミリアが作りたての弾丸をレオに手渡す。

 先端は妙に歪んでおり、光の屈折が不規則に見える。

 見た目からして不穏な弾だが、何やら強そうだ。


「よし、じゃあ試しに……」


 レオは愛銃に歪曲弾を装填し、城壁の中央に狙いを定めて引き金を引く。


 ――ドンッ!


 衝撃波が空気をかき乱し、弾丸は壁に命中した……が、外から見れば小さな穴が空いただけ。


「な、なんだ……全然壊れてないじゃないか!」


 周囲の冒険者は落胆の声を上げる。

 だが次の瞬間


 ――ごごごご……


 鈍い地響きが城壁を伝い、内部から崩れるように大穴が開いた。


「え……うおおっ!?」


 いきなり城壁の一部が崩壊し、中にいるオーガたちが悲鳴をあげる。

 どうやら壁の中身だけが大きくえぐられたらしい。

 一見すると外側の外壁はほぼ残っているのに、内部は空洞に近くなっている。


「なんだこれ……すげえ!」

「壁の内部だけを破壊したのか……!?」


 唖然とする冒険者たちをよそに、レオは唇を歪めて笑う。


「なるほど、歪曲弾……確かに効果抜群だ。このまま攻め込めば、中のオーガどもはたまったもんじゃないだろうな」


 実際、その後の攻略は極めてスムーズに進んだ。

 内部を半壊させた砦は防御機能を失い、オーガたちはパニック状態。

 そこへレオが銃弾を雨のように撃ち込み、まとめて討伐していく。

 やがて砦の主であるオーガキングも撃破。

 周囲の冒険者たちが胸を張ってその名を叫ぶ。


「〈ガンナー〉のレオさん、〈アルケミスト〉のミリアさん……あなたたち、一体何者なんだ!」


 彼らは驚嘆のまなざしで二人を見つめる。

 〈ガンナー〉がここまで圧倒的な戦果を上げるなど、普通ではあり得ない。

 だがその理由を聞いてさらに目を丸くする。


「弾代ゼロ……? そんなバカな……」

「僕たちは銃弾のコストが高すぎて、いつもゴールドが底をついてたのに……」


 世間の常識を覆すこの事実は、まさに衝撃だった。

 噂は瞬く間に広がった。

 レオとミリアの名は王都の冒険者たちにまで知られることとなる。



 ◆◇◆ ギルドに広がる噂 ◆◇◆


「最近、あの辺境で急激に討伐数を伸ばしてるガンナーがいるらしい」

「ガンナー……? まさか、そんな職業が討伐ランキングを塗り替えるなんてデマだろ?」


 王都の冒険者ギルドで、そんな会話がささやかれ始めた。

 だが、それはデマではなかった。

 ギルドの討伐記録を眺めれば、一位のパーティー名はレオ&ミリアという二人組。

 これまで絶対的だったトップ常連が大差をつけられている。


「何者なんだ……? 報酬額も尋常じゃない。いったいどうやって赤字職のガンナーであれだけ稼いでるんだ?」


 ギルド職員たちも頭を抱える中、一人の男が渋い顔で報告書を読んでいた。

 かつてレオを追放した張本人、ギルド幹部のラダックだ。


「……バカな。あいつは浪費職の烙印を押されて、追放したはず……いや、事実、あいつのパーティーは破産寸前だった」


 そのラダックの目に飛び込んでくる報告内容。

 そこには、雷鎖弾や歪曲弾などの特殊弾の名前があった。

 それらを駆使し、オーガ軍勢や砦を瞬く間に制圧したという目撃証言が記されていた。


「弾代……ゼロ……? そんなことがあり得るのか?」


 ラダックは報告書を読みながら、うめくように呟く。

 まさに自分が「価値がない」と判断して切り捨てたガンナーが、驚異的な活躍を見せている。

 心中、穏やかではない。


 一方のレオは――

 ミリアと共に荒野から近郊のダンジョンまで順調に討伐を繰り返し、莫大な報酬を得ていた。

 弾丸コストがゼロであれば、倒せば倒すほど利益が積み上がる。

 素材を売るだけでも充分に潤うのだ。


「よし、あっちの迷宮も制覇したし、しばらくは資金に困らないな」

「うん! これで私の新弾種の研究費もバッチリだね!」

「ははは、どんどん錬成してくれ!」


 弾のコストを考えずバンバン撃てる。

 ガンナーの弱点が完全に消え失せた結果。

 レオの射撃センスはますます磨きがかかり、敵無しの強さを誇っていた。


 しかし、そんなある日……王都から不穏な報せが届く。



 ◆◇◆ 魔王軍の復活 ◆◇◆


「――魔王軍が再び動き出した、ですって!?」


 王国全土に緊急通達が走る。

 かつて封印された魔王の眷属たちが、各地で暴れ始めているというのだ。

 そのなかでも特に危険とされるのは『鋼鉄竜』と呼ばれる巨竜。

 金属の鱗をまとい、並みの攻撃はまるで通用しない。


「各ギルドは討伐隊を編成せよ……ということらしい。どうやら騎士団も総動員だとか」

「鋼鉄竜か……厄介だな。あの鱗は、通常の矢や剣じゃ歯が立たない」


 それを受け、レオとミリアも作戦会議。

 鋼鉄竜を討つには徹甲弾などの特別な弾が必要。

 だが当然、高価になる……はずだった。


「ふっふっふ……でも、ミリア製の弾ならタダ同然!」

「うん、材料さえあれば徹甲弾なんてお手のものだよ。ただ……鋼鉄竜相手だと、もっと変わったものが必要かも」


 そう言ってミリアは、魔導炉にあれこれ細工を始めた。

 雷鎖弾や歪曲弾とは違う、新たな異能の弾丸――その名も『虚数弾』。

 概念上の質量を生み出し、相手の構造を内部から破壊するという、危険極まりない代物らしい。


「ほんと、毎度驚かされるな……。そんな弾、撃ったらどうなるのか想像もつかない」

「私も実験段階だから、正直ちょっと怖いけど……鋼鉄竜相手には、このくらいの力がないと勝てないと思うんだ」


 討伐隊への合流を決めた二人は、王都へと向かうことになった。

 そこには、かつてレオを追放したギルドの幹部や、旧パーティーの仲間たちが集められていた――



 ◆◇◆ 再召集と徹甲弾破産 ◆◇◆


 王都の中央広場では、大規模な討伐隊の編成が進められていた。

 魔王軍の脅威を前に、あらゆる職種の冒険者が集まる。

 〈ガンナー〉たちも呼び出されていたが、その表情は暗い。


「鋼鉄竜を倒すには、徹甲弾が必須だ……。けど、あれは一発数十万ゴールドかかるからな。連射なんてできるわけがない」

「俺たち、数発撃てば破産だ……いったいどうしろってんだよ」


 頭を抱えるガンナーたち。

 そのなかには、かつてレオの存在を鼻で笑っていた連中もいる。

 そんな彼らの前に、旧ギルドの幹部ラダックが現れ、苦い顔で告げる。


「まあ、なんとかしろ。魔王軍相手にグチグチ言ってる場合じゃない……! 王国も一定の補助金は出すが、それでも足りない。なんとか工夫して撃ち勝たなければ」


 しかし、みな浮かない顔だ。

 ガンナーだけでなく、他の職業の冒険者も同様。

 鋼鉄竜には剣や魔法が通じにくい。

 防御無視できる徹甲弾が頼みの綱だが、コストが天井知らず。

 それが現実だった。


 そんな張り詰めた空気のなか、突如として姿を現す二人組――レオとミリアだ。

 レオの背中には相変わらず銃が一丁。

 ミリアは古びた魔導炉を背負っている。

 すると、かつてレオを追放した旧パーティーのメンバーが驚いた声を上げる。


「レオ……お前、まだガンナー続けてたのか? どうやって弾を……」

「浪費職がのこのこ戻ってきたって、俺たちの負担が増えるだけじゃないか……」


 冷ややかな視線。

 しかし、レオは鼻で笑った。

 すでに自分が弱くて追放されたのではないと、知らしめるだけの成果を積んでいるからだ。


「心配しなくても、あんたらの弾代を負担するつもりはない。俺は俺で、自分のやり方で鋼鉄竜を倒す……ミリアの『虚数弾』でな」


 その一言に、辺りがざわめく。


「虚数弾……? そんなの聞いたことがない。どうせ高価な弾なんだろう?」

「いいや、タダ同然さ。俺にとっては弾代ゼロ」


 ルール無用すぎる回答に、周囲は唖然。

 ラダックが声を荒らげる。


「馬鹿を言うな! そんな破格の弾があるわけない! ガンナーなら高い弾を買ってこそ――」

「高いのは弾じゃない。価値を見抜けない頭のほうだ」


 そう言い放つレオの瞳には、自信に満ちた光が宿る。

 かつては弱音を吐かざるを得なかったが、いまは違う。

 最強の相棒・ミリアがいるからだ。


「ふふん……! さあ、鋼鉄竜を迎え撃とう!」


 ラダックや旧パーティーが呆気に取られる中、レオとミリアは堂々と討伐隊の先陣を切るのだった。



 ◆◇◆ 鋼鉄竜討伐戦 ◆◇◆


 翌日、鋼鉄竜が目撃された地方都市の近郊――

 そこには戦の準備を整えた冒険者たちがずらりと並ぶ。

 荒野の先に見える黒い点。


 あれが鋼鉄竜だ。


 やがて地鳴りのような振動とともに、重々しい姿が近づいてくる。

 全身を金属の鱗で覆い、その頭部には無数の角。

 見上げるほどの巨体が、冒険者たちに威圧感を与える。


「う、うわぁ……こりゃあヤバい……」

「剣も魔法も効かないって話だし、どうやって倒せば……」


 萎縮して後退りする者もいる。

 その気持ちは痛いほど分かるが、レオとミリアには迷いがなかった。


「――ミリア、弾の準備はいいか?」

「うん、『虚数弾』はここに」


 ミリアが投入口に金属片を放り込み、魔導炉から怪しげな弾丸を取り出す。

 それは、どこか空間が歪んでいるようにも見える不思議な光を帯びていた。


「これを撃てば……鋼鉄竜の内部構造を崩壊させられるはず。でも、ちゃんと当てなきゃ意味がないよ」

「任せろ。俺は絶対に外さない」


 レオが銃を構える。

 鋼鉄竜は巨大だが、鱗の隙間を狙ったほうが効果は高いかもしれない。

 わずかな弱点を見極め、呼吸を整える。


 そして――。


「撃つ!」


 ――ドンッ!


 轟音が辺りを震わす。

 放たれた虚数弾は宙を歪ませながら鋼鉄竜に到達。

 金属鱗に当たった瞬間は、一見何も起こらなかった。

 が、直後、鋼鉄竜が苦悶の咆哮を上げる。


 ごごごごごっ……


 体内から崩壊が起こっているのだ。

 外見の鱗に傷はない。

 だが、その下の骨や臓器がどんどん破壊されているかのような振動を感じる。


「グギャアアアッ……!」


 凄まじい悲鳴とともに、巨体が地面に崩れ落ちる。

 まだ完全に動きを止めたわけではないが、致命傷を負ったのは明らかだ。

 冒険者たちは唖然とするしかない。


「あ、あんな巨大な竜が、一発で……」

「まさか……嘘だろ!?」


 徹甲弾を大量に買い込み、何とか倒そうとしていた他のガンナーたち。

 金の無駄遣いどころか撃つ前に決着がついたようなものだ。

 膝をついて呆然とする者もいる。


 それでも鋼鉄竜は断末魔の抵抗を見せる。

 体を震わせ、金属の尻尾で鞭のように地面を叩き、周囲の冒険者を吹き飛ばそうとする。

 だがレオはさらに引き金を引いた。

 二発、三発――虚数弾を連射。

 コストを気にせず放てる強みがここに生きる。


「ゴゴゴゴ……!」


 内部から崩壊が加速し、鋼鉄竜は完全に動きを失った。

 数秒の静寂の後、でかい図体がどさりと倒れ込み、ようやく息絶える。


「終わった……」


 一瞬にして決着をつけたレオは、銃を下ろして息を吐く。

 やがて、冒険者たちが大歓声をあげた。


「やった……! 嘘みたいな速さで鋼鉄竜が倒れた!」

「え、えげつない……。あれが『弾代ゼロ』のガンナー……」


 旧パーティーの仲間や、ギルド幹部のラダックも茫然自失。

 まったく新しい弾丸であっさり決着をつける姿を目の当たりにして、言葉が出ない。

 そんな彼らを横目に、レオは宣言する。


「結局、弾が高いんじゃなくて、価値を理解する頭が安かっただけだな」


 その痛烈な発言に、周囲は一層騒然となった。



 ◆◇◆ 無限コンビの快進撃 ◆◇◆


 鋼鉄竜を撃破したレオとミリアは、王国から莫大な討伐報酬を得た。

 その額をミリアの研究費に全額投資する。

 太っ腹なことをしてのけたのだが、当の本人はまったく惜しむ素振りを見せない。


「だって、もっと強力な弾や、もっと有用な弾を開発できたら、またそれだけ稼げるし。投資する価値は充分にある」

「ありがとう、レオ……。本当に、こんなに資金をもらっちゃっていいの? 私ばかり得してる気がするけど……」

「おいおい、どっちが得とかじゃないだろ。弾があれば俺も稼げるんだし、持ちつ持たれつさ」


 そう言いながら、レオはミリアの頭をくしゃっと撫でる。

 ミリアは照れつつも頬を染め、笑顔を返した。


 こうして無限コンビは、王都を中心にさらに活動範囲を広げていった。

 魔王軍が差し向ける新種のモンスターや、凶悪なダンジョンの深部に挑み、次々と撃破。

 撃てば撃つほど黒字が増える。

 ガンナーを取り巻いていた『赤字』のイメージは一変した。

 今では「〈ガンナー〉は最強では?」という噂すら広まっていた。


「実際、他の〈ガンナー〉が同じ弾を使えれば世界は変わる……でも、ミリアの錬成術があってこそ、かな」


 ミリアは研究の傍ら、以前より性能のいい魔導炉を自作しようと計画している。

 その技術が確立すれば、世界中の〈ガンナー〉が弾代ゼロで戦える日が来るかもしれない……。


「そうなったら、世界の経済も大きく動きそうだな。これまで魔弾の値段を釣り上げてた商人たちも困るだろう」

「でも、安くて強い弾がみんなに行き渡れば、誰も困らないはずだよ。魔物を倒せる人が増えれば安全になるし、ドロップ素材も増えるしね」


 錬弾少女とガンナーの発想は、もはや従来の常識から大きく外れている。

 それは同時に、世界を大きく変える可能性を秘めていた。



 ◆◇◆ 弾が尽きるその日まで ◆◇◆


 魔王軍との戦いはまだ終わっていない。

 各地で邪悪な司令官や強力なボスモンスターが暗躍している。

 しかしレオとミリアは、何物をも恐れてはいなかった。


 ――どんなに固い敵でも

 ――どんなに数が多くても

 弾を撃てば撃つほど自分たちの懐が潤うのだから。

 逆に、撃つ理由を探してしまうほどだ。


「やっぱりガンナーとアルケミストって最高の組み合わせだな。切っても切れない関係だよ、うん」

「ふふふっ、これから先もどんどん新しい弾を開発するから、レオも腕を磨いてよね!」


 たとえこの先、どんな強敵が現れようとも。

 撃てば撃つほど黒字が増え、さらに研究が進み、新たな弾種が生まれていく。

 いわば、無限ループの完成だ。


 その終わりは、弾が尽きるその日まで、いや、錬弾少女の笑顔がある限り訪れないだろう。


「弾は無限。俺たちの可能性も、無限だ!」


 今日もまた、レオの銃声が響きわたる。

 爽快な反動とともに放たれた新たな弾丸が、魔王軍のモンスターを貫き通す。

 それはまさに、世界の常識を塗り替える新時代の幕開けだった――



 ◆◇◆ エピローグ ◆◇◆


「さてと、次はどのダンジョンに挑む?」

「うーん。最近、東の海沿いに『深海竜』が現れたって噂を聞いたよ? あれも鋼鉄竜と同じくらいヤバいらしい」

「深海竜か……また厄介な属性っぽいな。でもミリアが作る氷属性の弾とか、もしくは『水圧弾』なんてのも面白そうじゃないか?」

「あ、いいね! じゃあ早速、素材集めから始めようか!」


 どこまでも続く、錬成と射撃のイタズラ心。

 互いの発想がぶつかり合い、次々と新しいアイデアが生まれる。

 『撃てば撃つほど黒字』という構図は、彼らを止める要素にはならない。

 むしろ背中を押してくれる最大の推進力だ。


「行こう、世界を変えに――!」


 かつては『浪費職』と蔑まれたガンナー。

 しかしいまや無限に稼ぐ最強職として、同業者も含め、多くの人々の羨望の的となった。

 その影には、一人の錬弾少女のチート級の才能があるのは言うまでもない。


 だが、まだ彼らは道半ば。

 魔王軍との全面決戦はこれからだ。

 新種のモンスターたちが続々と現れ、経済もまた混乱をきたすかもしれない。

 そんな大きな時代の流れの中で、レオとミリアは今日も息ぴったりに走り続ける。


 ――弾代ゼロという破天荒な才能を武器に、世界を相手にその存在感を示すために。

 彼ら『無限コンビ』が限界を迎える日は、まだ遥か先の物語となるだろう。

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