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茶走とマカロニ

私の子供時代の週末は、かなり同じことの繰り返しだった。


他の子供たちは習い事に行ったり、ボーイスカウトに参加したり、友達の家で遊んだりしていたが、私の家族にはそんな活動にお金をかける余裕がなかったし、友達もあまりいなかった。両親は週末も仕事をしていることが多く、私や姉をどこかに連れて行くことはほとんどなかった。週末のほとんどは家で過ごし、学校の教科書をパラパラとめくったり、同じおもちゃで繰り返し遊んだりして過ごしていた。


でも、毎週土曜日の朝、母は親友と朝食を共にする習慣があった。彼女たちはいつも同じ小さくて古びた茶餐廳(チャーチャンテン)(香港式の小さなレストラン)に行った。それは私の家から歩いて20分の場所にあった。外の世界を少しでも感じられる数少ないチャンスだったので、私は毎回母に「一緒に連れて行って」とお願いしていた。


そのレストランは地元の商店街の中にあった。日本の商店街とは違って、香港の商店街は道路を挟んで両側に店舗が並んでいる。道の端には一時的な屋台が並び、道路は車の交通がまだ走っていた。商店街には二層の店舗があり、道路沿いの屋台では軽食や安価な衣料品が売られており、朝から昼過ぎまでしか営業していなかった。舗道にある建物内の店舗は、レストランやプラスチック製の器や工具などを販売する店がほとんどだった。


母は特に、道路沿いの屋台で安い洋服を探すのが好きだった。洋服はハンガーに整然と掛けられているわけではなく、大きなテーブルサイズのカゴに無造作に積まれていて、主婦たちはその中から自分のお気に入りの一品を「掘り出す」のだった。1着20~40香港ドル(約500円)といった価格帯だったが、母が実際に何かを買うことはあまりなく、見ること自体を楽しんでいるようだった。


茶餐廳の中には、常餐(レギュラーメニュー)と早餐(朝食メニュー)という固定メニューがあったが、実際にはどちらもほとんど同じものだった。選択肢が多いように見えるものの、結局、沙嗲牛肉、ベーコン、卵サンド、マカロニスープ、スクランブルエッグ、波蘿包(ポーローパウ)(パイナップルパン)の組み合わせだった。常餐と早餐のメニューは壁のプラスチックボードに書かれていて、他のメニューはテーブルのガラスの下に挟まれた紙に書かれていた。母はいつも卵サンドと茶走(チャージャウ)(コンデンスミルク入りの熱いミルクティー)を注文し、私はベーコン入りのマカロニスープとレモンティーが好きだった。お金が厳しいときは、母が大きなセットを頼んで私とシェアすることもあった。


朝の茶餐廳の雰囲気を言葉で表現するのは少し難しい。店内はいつも薄暗く、朝の陽光がガラスの扉から差し込み、黄色がかった花柄のタイルの床に強い光の線を描いていた。茶餐廳の料理はほとんどガスコンロで炒められるため、ガスの強火の音と、鉄のヘラが中華鍋に当たるカンカンという音が絶え間なく聞こえていた。日本の昭和風のカフェのようにクラシック音楽が優雅に流れているわけではなく、香港の茶餐廳ではほとんどの場合、店主の好みで選ばれたラジオ番組が大音量で流されていた。お客の好みなんてお構いなしで、とにかく店主が店内のどこにいてもラジオが聞こえるようにしていた。


ガスコンロと中華鍋の金属音、そして朝のラジオドラマの音に対抗するために、茶餐廳での会話は自然と声が大きくなった。それが香港人が公共の場で大声で話す習慣の一因になっているのかもしれない。騒がしい環境に慣れているからだ。母の友人はいつも息子の学校での悪い行動や、夫が浮気しているかもしれないこと、時には彼女に手を挙げることについて話していたことをぼんやりと覚えている。母はそのような話題にはあまり得意ではなく、いつも黙って聞いているだけだった。私は天井の回転するファンをただ見つめていた。


私が一番好きではなかった部分は、多分話を聞くことだったと思う。

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