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7話 消えた助手

「ピ……ピ……!ピンキくんがいない!」


「ピンキくん?」


「何だそれ?」


「私の助手だ!そうだ思い出したぞ!確か乗り物に乗ってる最中に事故が起こって……途中ではぐれてしまったんだ!」


 マジ博士はその場で頭を抱えて狼狽うろたえる。どうやら相当焦っているようだ。


「何?つまりマジ博士は仲間とはぐれてしまったのか?」


「そうだ!確か、宇宙を彷徨っている途中で突然消えたような……あれ、どこで消えたんだ……!?」


 マジ博士は記憶が曖昧なのか、必死に頭を捻って助手のことを思い出そうとしている様子だ。


「マジ博士落ち着いてください!あの、ピンキくんってどんな子なんですか?」


「ウサギ型のロボットだ!君達、私が乗っていた乗り物の周辺にウサギ型の人を見かけなかったか!?」


「えっ?いや、あの場にはマジ博士以外には誰も居なかったような……レキトさんは誰か見かけましたか?」


「誰も居なかったぞ」


「そうか……えっと、他に手掛かりは……そうだ!ピンキくんの居場所はスマホで分かるんだった!何となくだが、少しずつ思い出してきたぞ……!」


 マジ博士は自身のポケットを探って何かを探す。


「マジ博士、探してるのはこれか?」


「ああ!私のスマホ!レキトくんありがとう!」


 マジ博士はレキトから黒い板を受け取ると、板を起動してスイスイと操作を始めた。


「確かあの時、スマホで事前に何が起こったのか調べようとしていたんだ……!」


「スマホ?その板ってスマホって言うんですか?」


「そうだよ。このスマホに、私が乗っていた宇宙船内部の映像をダウンロードしていて……あった!これだ!助手が消える寸前の映像!」


 ミルとレキトが見守る中、マジ博士はスマホを操作して目当ての映像の再生を始めた。


 マジ博士の持つスマホの画面がすぐに変わり、映像が流れ始めた……



『mあ3kk0ん75t0n1nあ』


「ちょ、ちょっと待ってください!」


「ん?ミルくん、どうしたのかね?」


 ミルが待ったをかけ、動画は途中で中断された。


「言葉が分からないんです!その板の向こうの人が何を喋っているのか全然分からなくて……!」


「あれ?でも今、我々は話が通じるよね?映像と直接話すのとでは訳が違うのかな?」


「そんな感じだ。マジ博士、俺も異世界の言葉は完全に理解できないから、翻訳と解説をしてくれると助かる」


「そうか……分かった。私が解説を挟みながら翻訳しよう」


 マジ博士はスマホに視線を戻すと、改めて動画を再生した。




 様々な生命が暮らす青い惑星、地球。


 人工衛星がグルグルと旋回する地球から、明らかにオーバーテクノロジー甚だしい派手な見た目の宇宙船が一機だけポンと飛び出した。


 この宇宙船の名は「スイスイスペース4号」。


 船内には、この宇宙船の作者である天才発明家『真時信太まじしんた』こと真時博士まじはかせ搭乗とうじょうしていた。


「まさかこんなことになるとは……!」


 黒髪のオールバックに、整えられた付け髭がチャームポイント。

 オシャレ紳士でマジシャンのような外見をした男、真時博士は操縦席に座りながらブツクサと文句を垂れていた。


 それもそのはず。何故なら彼はつい先程、長年ずっと暮らし続けていた地球から文字通り「追い出されてしまった」からだ。


「宿敵のメタルメダルマンにやられ続けて早8年……!まさか最後は生まれ故郷どころか、母星そのものから追い出されるとは!何故こんなことに……」


『えー、どう考えてもマジ博士の自業自得でしょ』


 真時博士の隣の助手席に座る、性別不明の可愛らしいウサギ型アンドロイド、有能助手『ピンキ』が独り言に横槍を入れてきた。


「何だと!?私は別に何も悪いことしてないのだが!?」


『だって博士ってば、新しいメカが完成する度に、そのメカを連れてすぐさま街に繰り出すじゃん』


「何をおっしゃるウサギさん……完成した素晴らしい発明品を世間にお披露目したくなるのは当然ではないか」


『街に奇妙なメカが現れたら一般市民はビックリするもんなの』


 ピンキは困り顔で反論を続ける。


『しかもそのメカを使って市民に迷惑かけまくるし……前にカニ型ロボットで街中をシャボン玉だらけにして、大人からめちゃくちゃ怒られたのを忘れたの?』


「子どもは大喜びしてたぞ?新鮮な驚き、そしてとびきりの笑顔こそが私の求めるリアクションなのだよ」


 真時博士は三度の飯よりも人々の驚き喜ぶ姿が大好物。毎回、妙なメカを作成しては街中で妙な騒ぎを起こすのが彼の日課だった。


「あの時の笑顔はまさに最高傑作だった!やはりサプライズは最高だね!」


『そのサプライズのせいで大人にはほぼ毎回怒られてるんだけどね……小さなメカならまだしも、挙げ句の果てには巨大メカで街に乗り込んだりするし……』


「人に危害は与えず、街の建物を破壊せず安全にお見せしてるというのに?」


『それでも駄目なモンは駄目だって!』


 危害こそ加えないものの、毎回迷惑をかけてしまうのか、街中の大人に怒られるのが彼のお約束。

 ペンキロボで建物をカラフルに染めたり、真夏に雪だるまロボを作って街中に雪を降らせたりと、大変愉快な事件をしょっちゅう起こしている。


『あーんなことをしておきながらも、博士に悪意は一切無いんだもんね。それが余計にタチが悪いよ』


「安全に考慮し、楽しい実験を披露したというのに……」


『もう、そんなデタラメなことばかりしたから「メタルメダルマン」とかいう正義のヒーロー気取りの奴らに目をつけられて、最後にはこうしてやっつけられちゃったんでしょ?』


「むぅ……」


 メタルメダルマンとは、主に真時博士の退治と人助けを中心に活躍している、正義の味方を自称するヒーローである。


 真時博士が騒ぎを起こしてはメタルメダルマンが出動し、彼らの必殺技「メダルラッシュ」にやられるのがオチとなっている。


 だが今回は、メタルメダルマンの総力をかけて放たれた最終奥義「ゴールドラッシュ」を喰らい大敗を喫したのである。

 しかもオマケに、真時博士がこの世で最も嫌っている「とあるもの」を出されてしまった。


 結果、真時博士は大嫌いなモノから離れる為に地球から脱出。そして現在に至るのである。


「まさか、あんな形で星から追い出されるとは……」


『まあまあ。地球には居られなくなったけどさ、こうなる前に遠い宇宙で人間が住める惑星を見つけといて本当に良かったよね』


 3000億光年先の宇宙に浮かぶ、水と緑が豊かな惑星。

 真時博士はこの惑星に『マジプラネット』と名付け、もしもの際にすぐ引越しできるよう、事前に様々な物を運び込んだり環境を整えたりしていた。


 真時博士の努力の甲斐もあり、マジプラネットは地上の楽園に生まれ変わった。

 仕事は全てロボがこなしてくれるので、人間は一生楽しく暮らせること間違いなしだ。


「地上の楽園……だが、私の一番の生きがいは驚きと喜びに満ちた他人の表情を見ること……サプライズができない世界なんて「福神漬けの無いカレー」と一緒だ……」


『マジプラネットに住人として住まわせているアンドロイドやメカ達にサプライズすればいいじゃん』


「マジプラネットの住民は全員私が作った、いわば身内じゃないか……身内にサプライズしたところで……」


『まあそうだよね……あ、博士。これからワープするからちゃんと席についててね』


「ああ、分かった」


 真時博士がしっかり席に座ったところで、ピンキは手慣れた動作で機材を動かしてワープ装置を起動させた。


 周囲の星々が一瞬歪んだかと思うと、前方の景色が真っ白に輝きだした。


「うおっ!?」


『わわっ!?何!?いつもはパッと景色が変わるだけなのに!』


「ピンキくん!慌てず騒がず!どうやらこれはワープに失敗しただけのようだ!」


『そんなこと言ったって……!ワープ失敗にしては奇妙だよ!』


 ピンキは慌てながらも機材を操作する。一方、真時博士は冷静かつ大急ぎで操縦席に備え付けられている機材を操作してトラブルの処理にあたる。


『うわっ!?宇宙船が操縦できない!』


「くっ……!宇宙船に一体何が……っ!?」




 二人の健闘むなしく、宇宙船は謎の不具合により制御が一切効かなくなってしまった。


「ぎゃーーーっ!?」


『うわーーーっ!?』


 船内は真っ白に染まり、二人の意識は遠のいていったのだった……




 ここで映像が終了し、スマホの画面が元に戻る。


「……この後、宇宙船が半壊してピンキくんが姿を消してね……しかも宇宙船は半壊のままワープを再開し、この星に辿り着いたというわけなのだよ……」


「そんな事があったのか……えーっと、つまり……地球周辺で乗り物が壊れ、ピンキって奴とはぐれたってことか?」


「そのようだね……」


 二人が真剣に議論する中、ミルはものすごく微妙な顔で押し黙っている。


「なんだミル、そんな変な顔をして……」


「ミルくん、動画で分からない所でもあったのかね?何でも言ってみなさい」


「…………マジ博士って危険人物だったんですね」


「動画の内容を一通り聞いた感想がそれなのかね!?」

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