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3話 伝説の勇者レキト(後編)

「な、な……!何故……!?先祖代々から伝わる家宝が……大魔王殺しの剣と龍の鎧が何故、こんなところで壊れてしまったんだ……!?」


 レキトの見事な剣捌き……もとい棒捌きにより、ルーク騎士団長の武器と防具はものの見事に両断されてしまった。


「おい貴様!一体何をした!?」


「何って……さあ?」


「何でそこでとぼけんですか……レキトさんがその棒で綺麗に切り刻んだんでしょ……」


 魔女のミルは呆れながらも、勇者レキトの剣術について簡単に言及する。


「レキト・グロウブがその棒で私の装備を……?何を馬鹿なことを」


「ほーら、全然信用されてない」


「まあそりゃそうですけども……そもそも、レキトさんが棒切れで相手したからこうなってるんでしょ……」


「でも、この棒じゃないとアイツは今頃……まあ、とりあえず騎士団の連中を大人しくさせるとするか」


 レキトは気になる発言を残しつつ、クレーターの中に残っている大量の騎士団を前に棒切れを構えた。


「目覚めの騎士団達!俺と勝負しよう!」


「何だ……?」


「勝負だと……?」


 騎士団の連中がざわめく中、レキトは気にせず話を続ける。


「俺はお前達の武器と防具を斬って無力化する。お前達は俺の身体に少しでも触れれば、その時点でお前達の勝ちだ!」


「は……?」


「舐めてるのか?」


「「ドラゴン討伐」という偉業を成し遂げた我々を馬鹿にするのか……!?」


「そうか、それは凄いな。じゃ、とりあえず初めるぞ!騎士団達、全力で俺に突っかかってこい!」


 レキトは騎士団の言葉を軽く受け流し、笑顔で棒切れを構えた。


「貴様……!」


「馬鹿にするのもいい加減にしろっ!」


「その場で斬り飛ばしてやる!」


 騎士団達はレキトに対して怒りを露わにし、剣を構えながらものすごい形相で襲いかかってきた。


「うわーっ!?何で煽っちゃったんですか!?」


「来た来た!とりあえずミルはこの場から逃げとけ!俺が全部やっつけるから!よーし!久々の人間との手合わせだ!」


「何でそんな嬉しそうなんですか!?もう、構ってちゃんですか貴方は……!」


 ミルは大慌てしながらも急いでこの場から逃げる。一方レキトは大はしゃぎでその場から駆け出し、棒切れを手に騎士団の連中に飛びかかった。


「そらっ!」


「ああっ!?」


「剣が!?」


 レキトの見事な一振りで、目の前の騎士団連中が構えていた剣の刃が斬られて落とされた。


「遅いぞ!そこっ!」


「うおっ!?」


 レキトが騎士団の群れに飛び込んで行く。騎士団は素早いレキトに碌に反応できず、それどころか鎧をバラバラに斬られてしまっていた。


「そ、そんな……馬鹿な……!?」


「み、見えない……!武器がまるで見えなかった……!」


 竣敏なレキトに騎士団連中はまともに反応できていない様子だった。レキトが騎士の真横を横切ったかと思うと、騎士の鎧と剣がバラバラと崩れていく。


「あの騎士団が子どもみたいにあしらわれてる……」


 もはや技量に差があり過ぎた。子どもと名人の勝負を見ているかのようだった。


 そんな名人以上のレキトは、数分で目覚めの騎士団連中のほとんどを無力化してしまった。


「駄目だな。まるでなってない」


 騎士団との手合わせを終えたレキトはクレーターの外に戻り、つまらなそうな表情でクレーター内部に残る騎士団を見つめた。


「基礎は出来ているが抜きん出た才は見られない、努力も経験も足りない、チームワークもてんでバラバラ。完全に装備任せの動き、よくそんなんでドラゴンを討伐出来たな」


「くっ、くそぉ……!」


「お前達がドラゴンに勝てたのは、武器や防具、そして消費されていった人工勇者のお陰だな?」


「何だと!?」


「馬鹿にするな!」


「おい貴様!それ以上我々を愚弄すると痛い目を見るぞ!」


 レキトの推測に騎士団が怒号を飛ばす。口だけは達者な騎士団に、レキトは呆れた様子で口を開く。


「はっ、名誉中心で独りよがりな思考をするところは昔から変わってないみたいだな。目覚めの騎士団は特にそうだ」


「あ、あの……レキトさん……もう倒しちゃったんですか……?」


「半分くらいな。奴らはてんで相手にならなかった。下手すぎるな」


 レキトが相手に呆れる中、木陰に身を潜めていたミルが恐る恐る現れた。


「とんでもない技の数々、お見それしました……」


「おっ?ようやく俺を勇者扱いしてくれる感じか?」


「その態度でレキトさんへの尊敬度だいぶ下がりました」


「えっ」


「それよりも!えっと……その……レキトさん、どうしてそんなにお強いのですか……?」


「ああ、この強さか?そりゃずっと頑張ったからだな。大魔王を倒した後もずっと修行してた」


 レキトは騎士団から目を離し、ミルの顔を見つめながら話を始めた。


「俺は大魔王を倒したあの日から不老不死になった。最初は楽しかったさ、気になっていた趣味に手を伸ばしたり、旅行したり……」


「楽しそうですね」


「だが、数百年経過してから、俺にとある不安がよぎったんだ……「俺は本当に不老不死となったのだろうか」……と」


「そこですか?俺は永遠にひとりぼっちだとか、死ねないから辛いとか……そういう感じではないのですね」


「いや、不老不死は割と楽しいぞ?」


「人間が不老不死になるって聞くと、不幸な目に遭うイメージが真っ先に出てくるんですけど……」


「そんなことない。幾つになっても割とやることあるし……まあ、そんなこんなで不老不死に疑問を持った俺は、死なない為に様々な努力を始めた」


 レキトはミルから視線を逸らして自身の腕を見つめた。


「剣術や魔法の研究をして技に磨きをかけた。黒い石に記載されている読み物に出てくる「スキル」と呼ばれる能力も作ってみた。錬金術に手を出し、最強の防具を作成した……」


「どんだけ死にたくないんですか貴方……」


「その結果、俺は強くなった。今まで以上に技術が上がり、魔物に襲われる心配はなくなった。そして、不老不死の力の解明をして寿命をさらに伸ばした」


「不老不死の力を解明できたんですか!?」


「まあ、まだ不安は残るがな……とりあえず俺の寿命はその辺の星よりは伸びたはずだ」


「ちょっ!?あの!?レキトさん!?」


「まあ聞け」


「聞いてるからこうなってんですよ!」


「でも、万が一ということもある。俺は自身の身体が弱体化した時のことを考え、錬金術の技術を使ってこの世に強力な装備を生み出した。それが「勇者の証」と、騎士団が身につけている「龍の鎧」だ」


「えっ……!」


 レキトの口から飛び出した単語に、ミルは思わず目を見開いた。


「それって……あの目覚めの騎士団が使ってた装備ですよね!?あれって全部レキトさんの作品だったんですか!?確かに、勇者の証に妙に詳しいとは思いましたが……!」


「まあ、とりあえず強い装備を作った俺は、人の助けになるだろうからと、昔お世話になっていた国に技術を貸与たいよしたんだ。向こうは俺の技術を研究し、強い装備を量産させたが……それは失敗だったな」


「…………あっ!「模造品の粗悪な勇者の証」ってまさか……!レキトさんの作品の模造品だったんですか!?」


「そうだ。奴らはわざと力の出るような粗悪品を作り、他人を消費する道を選んだ。後悔した俺は、国に与えた技術を消し去り、もうこれ以降は人の歴史に関与しないと決めたんだが……だがまさか、こんな形で俺の元まで戻ってくるとはな……」


「消したはずの技術が復活させられて、しかも魔女狩りの道具に……って事ですよね。そんな酷いことって……」


 ミルが動揺する中、レキトは真面目な顔でミルの方に身体を向けた。


「……ミル、すまなかった」


 レキトは真剣な態度で頭を下げ、ミルに心からの謝罪をした。


「魔女狩りが敢行されたのは、完全の俺のせいだ。俺があんなものを作らなければ、村は破壊されずに済んだ」


「いや!そんなことないですって!人の善意を歪めた人間が完全に悪いですよ!レキトさんのせいでは……!」


「き、貴様ら……我々を愚弄するのもいい加減にしろ!」


 ミルは大慌てで訂正する。そんな中、無力化されたルーク騎士団長が唐突に大声を上げた。


「あっ、まだいたんですね……もう帰っていいですよ。帰れるもんなら」


「そうだな。もう魔女狩りをしないなら見逃してやるから」


「貴様ら……そう余裕こいていられるのも今のうちだぞ。おい、あれを出せ」


「はっ!」


 ルーク騎士団長が部下に命令すると、無事だった部下達は袋から何やら高価そうな魔導具を取り出し、地面に設置し始めた。


「何ですかあれ」


「あれは異次元門だな。遠くの土地に設置した異次元門と繋がり、簡単にここと遠くを行き来できるようにする魔導具だ」


「それってつまり、ここから別の場所に簡単に移動出来るって事ですか?……あっ!ま、まさか……あの人達、自国から援軍を呼ぶつもりじゃ……」


「いや、これは違うな」


 ミルとレキトが見守る中、異次元門が開いて向こう側の景色が映し出された。


「魔女よ!これを見ろ!」


「ああっ!?」


 門の先に現れたのは、堅牢な牢屋に閉じ込められた魔女の村の仲間達だった。


「みんな!?」


「ミル、すまないね……ミルと別れた後、私達は騎士団に捕まってしまって……」


「そういうことだ。レキト・グロウブ。もしそれ以上動いたら、この魔女達の仲間の命はないからな」


「人質なんて、騎士団が卑怯な真似を……」


 魔女の仲間を盾にされ、流石のレキトも立ち止まる。


「まさか魔女がここまで反撃しないとは……」


「魔女が反撃しない……?いや違うな、魔女は俺達に敵わないんだ。かつて大魔王を討ち滅ぼした英雄の子孫である俺にな」


「どこまで驕り高ぶれば気が済むんだ!目覚めの騎士団!お前達は何故、魔女に対してそんな仕打ちをするんだ!」


「市民へのガス抜きだよ」


「市民……ガス抜き?」


「小僧と小娘に言ったところで分からんか。説明しよう、最近は不作やら流行病やらで市民の怒りが国に向いている。爆発寸前だ。だから、この世で一番忌み嫌われている魔女を捕まえ、人々の前で処刑するんだ。不作や流行病の元と疑われていた魔女が処刑されれば、市民の怒りはだいぶ収まるだろうからな」


「はぁ!?まさか国のために魔女に罪を着せたの!?」


「これは名誉だ。市民は怒りから解放され、我々は世界を破滅に追い込もうとした魔女を滅ぼした英雄となり、永遠に語り継がれることとなるだろうな」


「お前達……!」


「おっと。それ以上動くな、魔女達が焼かれてもいいのか?処刑前にこの場で焼き払ってもいいのだぞ?」


「くっ……」


「レキトさん……!」


 レキトは苦々しい表情を浮かべ、ミルは人質にされた仲間を前に動揺する。


「……完全に、俺のせいだ」


「負けを認めるのか。なら、その場で跪き命乞いをしろ。さすれば命だけは助けてやろう」


 ここまで来て尚、傲慢な態度をとるルーク騎士団長に、ミルは表情を歪める。


「ルーク・ルドルフ」


「なんだ?お伽話の勇者よ」


「最後に、魔女達と会話をしてもいいか?」


「ああいいとも。最後の会話だ、楽しむといい」


「分かった」


 ルーク騎士団長は余裕の笑みでレキトの会話を許可する。


 レキトは異次元門の先にいる牢の中の魔女に向かって、重々しい口を開いた。



「……魔女の皆、今まで約束を守り続けてくれてありがとう。だが、今日をもってその約束の一部は破棄させてもらう。これからは、魔女狩りをする一部の人間はその約束に含まれないものとする!」


「何?」


 妙なことを口走るレキトに、ルーク騎士団長は顔をしかめる。


「この騎士団はもう、約束には含まれないそうだ。後は自由にしてくれ」


「自由って……こいつらを?」


「レキト様……本当にいいのかい?」


 レキトの言葉に、魔女達は顔を見合わせている。


「構わないさ、奴らはそう選択したんだ」


「おいレキト、何の話をしている」


 いぶかしみ疑問を投げかけるルーク騎士団長を無視し、レキトは話を続ける。


「魔女よ、この場では自由だ!奴らがどんな過ちを犯したのか、その身をもってして教えてやってくれ!」


 レキトは魔女の前で高らかに宣言した。すると、その話を聞いた魔女の様子がすぐさま変貌した。


 先程まで弱々しい態度だった彼女達が、まるで檻の中の獣のように目を爛々と光らせ始めた。


「久々の人間かい……これは楽しみだねぇ……!」


「こら!いくら約束は無効だからといって、絶対に食べるんじゃないよ!懲らしめるだけ!」


「ヒヒヒ……身体が鈍っちまって大変だったからねぇ……!いい運動になりそうだよ!」


「なっ、何だ……?魔女共が妙に騒がしいぞ……」


 笑い出す魔女を不気味がる騎士団達。その様子を見ていたレキトは、騎士団の連中に向けて最後の言葉を投げかける。


「お前達、今ここで謝るなら許してやる。謝った奴だけは魔女との約束を守る人間とする。どうする?」


「は?約束……?」


「謝る?何に?まさかこの魔女共にか?」


「そもそもこの牢屋は魔女対策をしてるんだ。もう魔女は何も出来はしないさ」


「僕らは悪魔に屈しない!」


 レキトの言葉をまともに聞かない騎士団達。勇者の証を持たされていた青年を含め、謝罪する者は誰一人としていない様子だ。


「…………残念だ」


「ほら、勇者レキト・グロウブよ、無駄口叩いてないで負けを認めて……」


「負けを認めるのはそっちの方だ」


「は?この期に及んで何を……」


 ルーク騎士団長が言葉を続けようとしたその瞬間。



 ミシミシ……バキッ!



 異次元門。つまり魔女のいる牢屋から、鉄が歪み壊れる音がした。


「な、何だ……?」


「ああっ!?」



 騎士団達は一斉に異次元門の先を見て……その先に見える光景に大口を開けて驚いた。



「ばっ!化け物!?」



 牢屋の向こうにいた魔女の群れは、獣の獰猛な力をたずさえた美女に変貌していた。


「ス、スフィンクス……!?」


 獅子の身体に美女の頭がついた大きな化け物は、金属制の檻をまるで針金のように簡単に捻じ曲げて檻から飛び出し、異次元門をゆっくり通り抜けた。


「ちっぽけな檻で、あたし達魔女を捕まえられたと思ったんだね……」


 異次元門からは次から次へと化け物が飛び出す。下半身が蜘蛛の女、頭に蛇を生やした女、竜の角や鱗、尻尾が生えた女……


「急いで門を閉じろ!」


「無理です!何故か閉じません!」


「何だと!?」


 騎士団の一部は急いで異次元門を閉じようとしているが、門は何故か閉じる気配はない。


 そうこうしているうちに、化け物の群れは全て檻から抜け出してしまっていた。


「な、何なんだコイツら……!」


 レキトと手合わせしていなかった無事な騎士団は剣を構え、無力化された騎士はナイフを手に、目の前にいる化け物を精一杯威嚇する。


「あらあら、可愛らしいねぇ」


「人間の方が上になったと勘違いしたのね……でも、それは大間違いだよっ!」


 スフィンクスは獣の唸り声混じりの叫びを上げると、瞳孔を全開にし、鋭い牙が並ぶ口を全開にしながら騎士団に襲いかかった。

 獅子の太い脚が振られ、鎧をまとった騎士団は容赦なく薙ぎ払われてしまった。


「うわあぁ!」


 装備を身につけていた騎士は遠くへ吹き飛ばされ、なす術なく呆気なくやられてしまった。鎧は引き裂かれて壊れ、もはや使い物にならなくなっている。


「こ、こんなのに敵うわけない……!」


「逃げろっ!」


 レキトとの手合わせで立ち向かえる術がなくなっていた騎士は、化け物を背に全速力で逃げ出した。装備が無事だった騎士も完全に怯え、剣を捨てて逃走を始める。


「逃がさないよ」


「ひいっ!?」


 騎士の一人が、下半身が蛇の魔女の尻尾に捕まってしまった。


「エキドナ!?お伽話の魔物が何故……!?」


「人間の間じゃ私達はお伽話なんだねぇ……そんなお伽話の存在にやられるなんて、アンタも可哀想だ……ねっ!」


「えっ!?うわーっ!?」


 蛇の魔女は捕まえた騎士をブンブンと振り回すと、その勢いのまま異次元門の牢屋へと放り込んでしまった。


「助けてくれーっ!」


「があっ!?」


 騎士の群れは魔女に薙ぎ払われ、遊ばれ、最終的に異次元門の先にある牢屋へと飛ばされていく。


「ひっ、ひぃい……!?ばっ、化け物……!」


 無防備なルーク騎士団長は腰を抜かし、地面を這って急いでこの場から逃げようとする。


「ルーク騎士団長、逃げるんですか」


「はっ……!?お、お前は……!」


 地面を這って逃げるルーク騎士団長の前に、怒りの形相のミルが姿を現した。ルーク騎士団長の目に、大きな翼、鋭い鉤爪、鮮やかな羽毛が映る。


「お、お前も化け物だったのか……!?」


 ミルはハーピーの姿に変わっていた。大きく膨らみルークより大きくなったミルは、大きな目でルークを睨みつける。


「おっ……俺は……大魔王を討ち滅ぼした英雄の子孫だぞ……!」


「嘘つき」


「嘘じゃない!俺が……俺がいなかったら……こ、この世界が滅ぶぞ!」


「お前は英雄じゃない!この嘘つき!」


 ミルは大きな脚でルーク騎士団長を全力で蹴り飛ばした。


「がっはぁ!?」


 蹴られた騎士団長はボールのように簡単に吹き飛び、大騒ぎしていた魔女の群れの中心に落下した。


「あっ、あああ……」


 魔女に囲まれたルーク騎士団長はすっかり怯え切っている。


「おっ、俺をどうする気だ!?真坂食うのか!?やめろ!我々がいなくなったら大変なことになるぞ!」


「大変なことって?」


「わっ、我々は……凶暴なドラゴン討伐を成し遂げた英雄なんだぞ……!他にも凶暴な魔物を討伐して回り……!」


「それが何だ」


 魔女の群れの外側から、レキトの冷め切った声が聞こえた。


「レキト・グロウブ!助けてくれ!英雄ならば、困った人間を助けるものだろう!?」


「とことん都合がいいなお前……だがもう遅い」


「おい!俺が消えたら誰が暴れ狂うドラゴンを討伐するんだ!?」


「心配ないさ。魔女はかつて、そんな凶暴なドラゴンを趣味で狩猟し、ご馳走として食べていた逞しい種族だったんだ」


「えっ!?そ、そんな……馬鹿な……!?」


「だからお前は安心して引退してくれ」


「えっ!?おいっ、待って……ギャアッ!?」


 レキトは短くそう伝え、魔女の群れから離れた。ルーク騎士団長は魔女に散々遊ばれた末に、異次元門の狭い牢屋へと放り込まれてしまったのだった。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


「勇者レキト様、本当にありがとうございました」


 騎士団は全員消え、屋敷の前に残ったのは魔女の群れとレキトのみになった。魔女の村の村長は人の姿に戻り、レキトに改めて礼を述べた。


 異次元門の先には綺麗な鉄格子をはめられた小さな牢屋があり、そこに目覚めの騎士団達がぎゅうぎゅう詰めになっている。

 彼らの瞳にはもはや戦意は見られない。完全に降参状態だ。


「あれでもう奴らは魔女狩りをする気にはならんだろ。もし次も同じことがあったら、ああやって脅してやってくれ」


「そうするよ。それにしても、今回は世話になったわね」


「いいさ。元はと言えば、俺が原因でこうなったんだ」


「そんな、レキト様は一切関係ありませんよ。約束を破り、横暴な真似をした人間こそがことの元凶ですから……貴方はただ、私達に約束事を取り付けただけでしょ?」


「約束事……取り付けた……?」


「あら、言ってなかったかしら」


 疑問符を浮かべるミルに対し、村長は笑顔で口を開く。


「大昔、人間を襲っていた魔女を懲らしめた剣士はレキト様なのよ」


「…………ええっ!?そうなんですか!?」


「昔の話さ」


 ミルは驚いてレキトの顔を見つめた。大魔王を倒した勇者と、魔女を懲らしめた剣士が同一人物だとはミルとしては想定外だったようだ。


「魔女狩りが起こったところで、魔女なら何とか出来るだろと思ってたんだがな……まさか俺の約束をずっと守って対抗すらしないとは……」


「だって、約束を破った方が悪いんですもの。それに、人間に捕まろうが焼かれようが別に平気だし……村を破壊されたのは悲しかったけど……」


「悪かった。お詫びとして、村の復興には俺も力を貸そう」


「大丈夫ですよレキト様、私達だけで十分復興できますから」


「いや、俺にも責任がある。ぜひ俺も参加させてくれ」


「いえいえ」


「まあまあ」


「いえいえ」


「まあまあ」


 雲行きが怪しくなってきた。


「……分かった、じゃあこうしよう。村が元通りにまでは俺の屋敷周辺に住むっていうのはどうだ。俺の屋敷周辺を囲うように小屋を建てて、そこに魔女が住むんだ」


「何でレキトさんの家を囲うように仮住まいを建てないといけないんですか!?中央に悪魔でも封じてんですか!?」


「どの家も不審者対策が施された超優良物件だ!」


「それただの爆弾小屋じゃないですか!危ない家に住まわせようとするのやめてくださいよ!」


 レキトの提案にミルが大声で喰らいつく。


「そうだったわ。この人、長生きする友達が欲しいんだったわね」


「どうにかして友達作ろうと必死になってる感じね。レキト様、悪気が無い分タチが悪いわ」


「寂しんぼじじい」


 必死に魔女を引き止めようとするレキトを、村の仲間達が冷めた目で見つめる。


「……まあ、確かにワガママなところはありますけど、話が全く通じないわけではないですよね。寂しがりお爺ちゃんで少ししつこいところはありますけど……」


「誰が寂しがりお爺ちゃんだ」


「実際そうでしょ!……でも、村長の警告した話とは違って、ちゃんと言葉は通じましたよ?こうして助けてくれましたし」


「そうね。でもあの警告はミルを止めるための方便で、私はレキト様の助けを求めるのを遠慮したかったのよ」


「遠慮ですか……交流したら、しつこいくらいに引き止められるからですか?」


「俺そんなしつこかったか?」


「それもあるけど……魔女狩りの話をしたら、レキト様はきっと気に病むだろうからって……」


「あっ……」


 村長の言葉にミルははっとする。


「私達はなんやかんやで大丈夫だし……でも、結果的にこうやって助かったから、ミルの判断は正しかったのかもしれないわね」


「そうだったんだ……それでも私、早とちりしてレキトさんに悪いことしちゃった……レキトさん、すいません」


「いいんだミル、むしろ助かった。アイツらが俺の道具を復活させてたことを知れたからな……また道具を消しに行かんとな」


 そんなやり取りをしている間に朝日が昇る。そしてついに、魔女とレキトのお別れの時間がやってきた。



「レキトさん、本当にありがとうございました」


「いいさ、短い間だったがミルと過ごした時間は楽しかった。またお土産持ってそっち行くから」


「……まあ、毎日のように来なければ、歓迎くらいはしますよ」


「ありがとう!」


「さて、改めまして……レキト様、私達を助けてくださりありがとうございました。私達はこれにて失礼します」


「ああ、またな」


「はい、さようなら……あ、そうだ」


 村長は何かを思い出したのか、ミルに肩を寄せてひそひそ話を始めた。


「ミル、折角だからレキト様の元で修行するのはどう?」


「ええっ!?アレのところに!?」


「ミル、今俺のことをアレって呼んだな?」


 レキトが大声を上げながら反応を見せる中、村長は構わずミルに話を続ける。


「レキト様は魔法の腕もすごいのよ。きっと、貴方の素敵なお師匠になってくれるわ」


「でっ、でも……!確かに凄いですけれども……!」


「大丈夫。それ以前に、あの人は紳士な人だから間違いは絶対に起こらないわよ。近くに住んでも安心安全、逆に変な人から守ってくれるし、しかも最先端の魔法も学べるのよ」


「最先端の魔法……!うーん、凄い魔法を学べるのは確かにいいかも……」


 魔法好きなミルは村長の話に心が揺れる。


「もし嫌なら、この話は聞かなかったことにして大丈夫よ。一緒に帰りましょ」


「あっ、えっと……」


 村長の提案を聞いたミルは、レキトの元で修行するか、村に帰るかで迷いだした。それを見て色々と察したレキトは、ミルに顔を向けて口を開く。


「もしかしてミル、俺の元で修行するか迷ってるのか?」


「あ、えっと……はい、そうですけど……」


「そうか!それなら俺は構わないぞ!近くにミルの家を建ててやろう!」


「いや、まだそうと決めたわけじゃ……」


 未だにどうするか決められないミルに対し、レキトは「よし、それならば……」と呟くと、ミルに対してトドメの一言を放った。


「俺の元で修行するなら、お腹いっぱいになるまでご飯食べ放題にしよう!しかも豪華なデザート付きだ!」


「今日から宜しくお願いします師匠!」


 こうしてミルは元勇者レキトの弟子となり、彼の元で魔法の修行をすることになったのだった。

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