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1話 伝説の勇者レキト(前編)

 人も旅人も、名うての冒険者すらも寄りつかない未到の地。


 鬱蒼うっそうと茂った森の奥深くに、魔女がんでいる「魔女の村」が存在した。


 大自然と共に生きる魔女は、この大陸に降りかかる大災害を鎮め、魔物の異常な行動による被害を未然に防ぐなど、様々な災厄を大陸から遠ざけることを主な生業としていた。


 ある日のこと。人が足を踏み入れたことのない魔女の村に突如として、大軍を引き連れた王国の騎士が姿を現した。


「疫病を撒き散らす魔女め!天の裁きを受けるがいい!」


 魔女の村に入るなり無礼な口上を垂れた騎士は、隣に侍らせていた青年に「やれ」と一言だけ告げてその場から離れる。


 魔女が突然の来訪者に困惑する中、謎の青年は「ごめんね」と呟きながら魔女の村にてのひらを向けた。


 青年の掌が輝いたかと思うと、掌から白く輝く光線が無数放たれ、魔女と魔女の村を鋭い光で覆い尽くした。


 長年生きた魔女達は、この世の終わりを彷彿ほうふつとさせるすさまじい光を浴び、村ごと消されてしまったのだった。










「ぎゃーっ!気色悪い!」


「ぬるいし弱い!」


「なんかあの魔法キモいんだけど!マジ最悪!」


 魔女は無傷だった。魔女は文句を垂れながらホウキに乗って空を飛び、光の雨に貫かれて壊れていく村から逃れていた。


「使い魔や道具は無事だけど、村は駄目になっちゃったね……」


「ついにこの村にも魔女狩りが……くっ、反撃しようにも相手は人間。人間を傷付けたら人間との約束が……」


「人間の間で魔女に関する変な噂が流れている時点でもう手遅れじゃない?」


「どちらにせよ、あの場で反撃はできなかったさ。噂が本当なら、あの青年は我々でも敵わない手強い相手らしいからね」


「もうこの土地……いや、この世界にはいられないねぇ……」


「皆んなで異界に移り住むしかないかな……」


 村からある程度離れた魔女はその場で停止し、今後のことを話し合う。


「そうね、異界なら流石の人間も来られないだろうし……皆んなで移住しましょうか」


「分かりました村長。えーっと、此処から異界に近い場所は……おや?」


 異界へ渡ろうと考える魔女の群れから離れ、何処かへ飛び去ろうとする魔女が一人。


「ちょっとミル、どこ行くの?」

 

 ミルと呼ばれた若い魔女は、ホウキに乗ったまま魔女達のいる方を振り向いた。


「村長。私は……『永遠の勇者レキト』に助けを求めに行こうと思います」


「永遠の勇者ですって!?」


 ミルの発言に魔女達は一斉にどよめく。


「ミル、まさかあの不老不死のレキト・グロウブに助けを求めに行くの!?やめた方がいいわ!」


「ですが、このままでは魔女に未来はありません!異界に逃げたって、そこもいつまで持つか……!」


「それでもレキト・グロウブに会うのはあまりお勧めしないわ」


 一番お年を召した魔女の村長は、レキト・グロウブについて静かに語り出した。


「彼には数百年前に会ったことがあるけれど……あの人はもう正気じゃないわ。彼は、長い月日のせいでおかしくなってしまったの。話が通じるかも分からないのよ?」


「それでも私は行きます!このまま村がやられっぱなしなのは許せませんから……!」


「ミル!」


 ミルはホウキを全力で飛ばす。村長の静止の声を置いてけぼりにし、ミルはその場から飛び去ってしまった。




「ここが永遠の勇者の家……」


 真夜中。手入れされた木々が立ち並ぶ森の奥の開けた場所に、荘厳そうごんな造りの屋敷が待ち構えていた。


「…………」


 勇者に助けを求めると宣言したものの、やはり気後れするのか、ミルは頑丈で重々しい門の前で足を止めてしまった。

 この門の向こう側に、お目当ての勇者がいる。


(勇者レキト。大魔王を倒し、世界を救った大英雄……)


 この世の生物を全て滅ぼし、魔物の世界を作ろうと目論んでいた大魔王。そんな大魔王を止めるべく、四人の冒険者が集まった。


 四人の冒険者は大魔王と熾烈な戦いを繰り広げた。仲間が力尽き倒れていく中、ついに最後の一人となったレキトは、力を振り絞ってついに大魔王を討ち滅ぼした。


 これでようやく世界に平和が訪れる……かと思いきや、大魔王は最後の力を振り絞り、一人生き残った冒険者レキト・グロウブに呪いを放った。


 レキト・グロウブは大魔王のかけた呪いにより不老不死となり、永遠にこの世を生きることとなってしまった。


(きっと、とんでもなく強くて堅物な人なんだろうな……)


 大柄で髭が生えた気難しそうな老人を想像したミルは、一人でため息をついた。


(……いや、ここで止まっている時間も惜しい!どうにかしてでも勇者を引っ張り出すしかない!)


 意を決したミルは、目の前の大きな門を両手で掴むと、思い切り前へと押して敷地内へと入り込んだ。


「失礼します……」


 ミルは恐る恐る声を出す。目の前の屋敷に灯りは点いていない、不在なのだろうか。


「…………ん?」


 敷地内を見回していたミルは、芝生の上に転がる謎の人物を発見した。



 黒いレンズの眼鏡、派手な花柄模様の上着、白いシャツに短パン姿の、妙な格好をした若い男。



「……んー?」


 ミルが神妙な面持ちで見守る中、若い男は目を覚まし、ボリュームのある赤い髪を揺らしながら上半身を起こした。


「ん〜…………あれ……?あれ?まじ?いつの間に寝落ちした!?うわっ!?何日!?今何年!?」


 男は唐突に騒ぎ出し、その辺を手探りして何かを探している。彼は近くに置かれていた壁掛け時計を手に取り、まじまじと見つめた。


「……あー良かった!まだ数時程度か…………そらっ!」


 男は急に全身に力を込め、時計をアンダースローで投げ飛ばしてしまった。時計は屋敷の窓の隙間を通り抜けて室内に侵入した。


「さーて、晩御飯は何にしよっかな〜」


 男は何食わぬ顔で両手を後ろに組み、鼻歌混じりに屋敷へと歩いていく。


(な、なにあれ……)


 明らかに変人の彼を、ミルは呆気に取られながらじっと見つめる。


「家に帰って風呂でも…………なーんてな!そんな易々と家に帰ってたまるか!」


 ミルが見つめる中、変人は唐突に振り向いた。変人の視界に、敷地内で呆然とするミルが映る。


 変人と目が合ったミルは思わず「うわっ」と、変な虫を発見してしまった時のような声を上げてしまった。


「……今うわって言ったか?」


「あ、いや、その……」


「そもそもお前は誰だ?」


「あ……私は……私は魔女のミル・ルーフです」


 ミルは気を取り直すと、謎の変人を相手に自己紹介と要件を話し始めた。


「我々ではとても解決できない困ったことが発生しました。それを何とかしてもらうべく、永遠の勇者レキト・グロウブ様を訪ねてここまで参りました」


 ミルは緊張しながらも簡単に説明をし、同時に心から願った。この人が勇者レキト・グロウブでありませんように……と。


「ほぉ〜、勇者レキトにご用件か。まさか魔女がわざわざ助けを求めて俺を訪ねて来るとはな……」


「えっ」


 変人は黒いレンズの眼鏡を外し、ミルの顔を真っ直ぐ見つめた。



「いかにも。俺が伝説の勇者、レキト・グロウブだ!」



「あ、貴方が……勇者レキトさん……!?」


(この変なのが勇者レキト……!?)


 ミルは戦慄した。まさか、助けを求めようとした人物がこんな奴だったとは、夢にも思っていなかった。


「それにしても、わざわざこの俺のことを訪ねて来るとはな……」


「えっと……勇者様なら、何とか出来るのではと思いまして……」


「お前正気か?」


「なんでそっちがそんな反応してるんですか……」


 ここまで言葉をやり取りして、ミルは村長の言葉を思い出した。


『彼は、長い月日のせいでおかしくなってしまったの。話が通じるかも分からないのよ?』


(おかしくなったって聞いてはいたけど、なんか想像してたのと違う……)


 ミルが先程まで想像していた、頑固そうで気難しそうな老人像がガラガラと音を立てて崩れ落ちる。


「で、俺に何の要件だ?とりあえず言ってみろ」


「あの……やっぱ大丈夫です」


「えっ?でも、魔女でも解決できない困ったことがあったんだろ?」


「いえ、今大丈夫になりました」


「んなわけあるか!お前、どう考えても俺のさっきの様子を見て「あ、コイツ駄目そうだな」って思ったんだろ!」


「そんなことはありませんがこれにて失礼します。お時間取らせて申し訳ございませんでした」


「ほんの数分しか経過してない!あと20時間くらい時間取っても構わないから!」


「長すぎますよ!それもはや寝泊まりすること前提の時間ですよね!?」


「ミルが望むならもっと時間伸ばすから!……あっ、でも見ず知らずの相手の屋敷には入りたくないよな……寝泊まりなんてもってのほかだ」


「いや、そういうことじゃなくて……」


「分かった!屋敷から離れた土地にミルの家を建てよう!それなら長期滞在も安心だろ!もしミルが望むなら引越ししていい!」


「悪化してる!わざわざ家を建てられたって引越しなんかしませんって!」


「頼む!俺には長生きする友人が一人もいないから、誰も屋敷に遊びに来てくれないんだ……!」


「寂しがり屋のお爺ちゃんじゃないですか……友達欲しいからって、勝手に他人の家を建てようとしないでくださいよ……」


「ミルの家は特別な奴にするから!オートロック式で、近付いた不審者は爆破して撃退する優良物件だ!」


「欠陥住宅ですよ!それ下手したら私も爆破に巻き込まれるじゃないですか!もう、こんなくだらないことに付き合い切れま……じゃなくて、こっちは時間が無いのでもう帰らせていたきます!」


 ミルはレキトに背を向け全速力で屋敷の敷地から抜け出した。


「待てミル!」


 レキトは爆速で逃げるミルを追いかけはせず、その場から大声を上げてミルを呼び止めようとする。



「ミル!お前の要件は「魔女の村を取り戻し、村を破壊した人間に復讐したい」だろ!?その為に俺の元まで来たんだろ!?」



「えっ?」


 レキトに要件を指摘されたミルは、驚いてその場で立ち止まる。魔女の脚力で急ブレーキがかけられ、地面がえげつないほどえぐれた。


「あの……私、詳しい要件まで話してませんよね……?」


「何となく分かるさ。ミルの服に、年季の入ったツリーハウスの破片や木屑が散らばってた」


「木屑……あっ!本当だ!」


 レキトに指摘されたミルは、自分の服を改めて見つめ、服のあちこちに散らばる木の屑を発見した。


「数百年以上のツリーハウスを維持してまで住むのは魔女くらいだ。そんなツリーハウスの細かい木屑があるということは、最近流行りの魔女狩りによって家を村ごと壊されたんだと察したんだ」


「な、なるほど……でも、その情報だけで「復讐したい」とは結びつかないのでは……」


「ミル、お前はこだわりが強いタイプだろ。真新しい手袋に魔法を酷使した跡がある」


 ミルの頑丈そうな手袋には、魔法で出来たであろう傷が複数あった。


「杖を使わずに魔法の練習をするのは、とにかく魔法を上達させたい奴か無類の魔法好き……いや、きっと魔法好きなんだろうな。魔法に強い執着心を感じる」


 レキトは解説をしながら、立ち止まっているミルに歩み寄っていく。


「その三角帽子や飾りは魔女からの贈り物、村の魔女とはだいぶ仲がいいみたいだ」


「まあ、悪くはないですね……」


「そして伝統的な魔女の衣装をふんだんに取り込んだファッション、ミルも魔女をしたうやまっていたんだろうな」


「服一つでそこまで……」


「そんな心の底から愛していた魔女の村を木っ端微塵に破壊されたミルは、さぞ魔女狩りに対して恨みを持っただろう」


 レキトは話を続けながら歩き、やがてミルの前で停止した。


「怒ったミルは、仲間の忠告を無視して飛び出し、急いで俺の元まで来た。木屑を魔法で払い忘れるほど大急ぎでな」


 村を破壊された事と、こだわりが強くて魔法好き、果てには魔女との仲まで言い当てられた。


「レキトさん……はい、それで間違ってはないです……」


 ミルはレキトへの態度を改め、真面目な顔で頷いた。


「…………レキトさん。改めて、村について相談しても宜しいでしょうか」


「分かった。ミル、とりあえず俺の屋敷に入ってくれ。そこで詳しく話をしよう」


 とりあえずレキトを認めたミルは、破壊された村について改めて相談することにしたようだ。


「そうだミル、サングラスいるか?」


「何ですかその眼鏡……レンズが真っ黒で見辛いじゃないですか」


「いや、日中だと結構便利なんだって」


 ミルは妙なアイテムを勧めるレキトに案内され、大きな屋敷の中へと入ったのだった。




「さあ!好きなだけ飲み食いしてくれ!」


 レキトの屋敷に招かれ案内された先は大広間。席についたミルの前に大量のご馳走を出され、ミルは妙な顔でレキトを見つめる。


「あの……レキトさん、話は……」

 

「飯が先だ!だってミルは、飯も碌に食わずにここまで来たんだろ?腹の一つや二つ、三つや四つは空いてるんだろ?」


「そんなにお腹は空いてませんよ。牛じゃあるまいし……」


 ミルは一刻も早く人間を成敗し、村を元通りにしたい。それでもミルはレキトの指摘通り空腹で、少しでも食事を口にしたい気持ちもあった。

 目の前に並ぶ豪華な食事を前に、ミルは思わず生唾を呑み込む。


「まあ遠慮するなって!」


 目の前のレキトはミルを真っ直ぐ見つめ、意気揚々とご馳走を勧めてくる。


(今すぐ話をしたい……でも、ここでご機嫌取りの一つや二つでも取らないと、村奪還に力を貸してもらえないだろうし……)


 ミルは勢いのまま此処まで来てしまったので、村を救ってもらう対価を碌に用意していなかった。


(何も持たずに来たのは失敗だった……仕方ない、とりあえずこの人に素直に従おう……)


「い、いただきます……」


「遠慮せずたらふく食えよ〜!」


 とりあえずここは相手に合わせるしかない。そう思い至ったミルは、目の前のご馳走に手を伸ばしたのだった。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


「ご馳走様でした!」


 ご馳走を全て食べ終え、満腹になったミルは笑顔でレキトに礼を述べた。


「いや〜本当に最高でした!レキトさんの用意した食事はどれも美味しかったです!強いて言えば、ハンバーグが最高でしたね!」


「おっ、お前……!遠慮するなとは言ったが、屋敷の食糧をほぼ全部食いつくすのは流石に違うだろ……!」


「あっ、遠慮せず食えって言われたので遠慮しませんでしたが……迷惑でしたか?」


「そうだな!俺が遠慮せずたらふく食えと言ったんだ!ミルは一切悪くないな!おかわりを求められて素直に出した俺も悪い!違うとか言って悪かった!」


「良かった……そうだレキトさん、デザートはありますか?」


「まだ食うのか!?っていうかお前!さっきから俺への敬意がほとんど感じられないな!?」


「まあ、あんな姿を見……いえいえ、そんなことはありませんよ。歳上の方にはちゃんと敬意の一つは払いますって」


「俺勇者なんだけど!?歳上だからとかじゃなくて、伝説的な存在としてもう少し敬ってくれてもよくないか!?」


「すごいとは思いますよ。それで勇者さん、デザートはあるんですか?」


「敬意が一切感じられない!残念だがデザートはもう無い!」


「残念です……では、私はこれで失礼します」


「おいこらミル!要件はどうした!?」


「あっ!そうだった……!」


 席から立ち上がったミルは、レキトの指摘に本来の目的を思い出したらしい。ミルは改めて真面目な顔に戻り、再び席についた。



「……私が相談したいのは、ほぼレキトさんが言い当てた通りです」


「切り替え早いな……まあ助かるけども」


「私達の村を取り戻し、村を破壊した奴らをなんとかしてほしいんです。出来れば魔女狩りもやめさせてもらいたいのですが……」


「太陽と共に目覚める国に所属する「目覚めの騎士団」がこぞって行っているあの魔女狩りを、か……一つ聞くが、村を襲われた際に魔女達は騎士団に反撃しなかったのか?」


 レキトは真面目な態度でミルの話に言及する。


「反撃はしませんでした。謎の青年の実力が高いと事前に聞いていたので下手に手を出さないようにしていました。それ以前に人間との「約束」もありましたから……」


「約束……大昔に魔女と人間との間で交わされたあの約束か」


「レキトさんはご存知でしたか。そうです、魔女の皆さんは、はるか昔に人間と交わした約束をずっと守って生きてきたんです」


 はるか昔。魔女が人間を食糧や素材にしていた時代。人間にとって非常に恐ろしい魔女を、一人の剣士が成敗して回った。


 魔女は対抗するものの、剣士には全く敵わない。


 このままでは一族は絶滅する。それは流石にまずいと思った魔女は、降参して剣士に許しを乞い、話し合いの場を設けてもらった。

 人間と魔女が話し合った結果、一つの約束事を取り付けた。


 人間は二度と魔女を傷つけない、そのかわり、魔女も二度と人間を襲わない。


 こうして魔女達は大人しくなり、しばらくして人間との交流が始まった。


「人間側は困りごとがあるたびに魔女に対して作物を収め、魔女は見返りに人間の困りごとを解決していたそうです。マナによって呼び起こされる天変地異も鎮めてきました。ですが……」


「時が流れ、様々な要因により魔女に関する資料がほぼ全て失われ……人間側はもう、この大昔の約束を忘れてしまった」


「その通りです。それどころか、人間側は流行り病の原因を魔女の仕業にして、こぞって魔女狩りを始める始末……他にも、作物の不作や家畜の不審死も魔女の仕業にされているようです」


「それは酷いな……」


 ミルは悔しそうに顔を歪める。話を聞いているレキトは腕を組み、眉間にシワを寄せる。


「人間は約束を反故ほごしたのに、それでも魔女の皆んなは約束を守り続けて……このままでは魔女は全滅してしまいます」


「それは良くないな。マナにより呼び起こされる天変地異を鎮めてくれていた魔女に、そんな仕打ちをするとは……」


「レキトさん……せめて、魔女狩りを続ける人間をどうにかして止めてくれませんか」


「……分かった。今まで大陸を平和に保ってくれていた魔女の為だ、俺の出来る範囲で動くとしよう」


 レキトはいつになく真面目な顔でそう答えると、静かに席を立った。


「あっ、ありがとうございます……!あの、本当に良いんですか?」


「俺もこればかりは流石に見過ごせないからな。それに……」


「それに?」


「連中はもうここまで来てる」


「……えっ?」


 そこまでやり取りをしたところで、ミルは唐突に、屋敷に迫る強大な魔力の接近を察知した。


「来やがったな、アイツら……」


「こっ、この魔力……!魔女狩りの「目覚めの騎士団」が村に来た時と同じ魔力です!何故此処に……!?」


「ミルが大急ぎで飛んだのを見られたんだろう。恐らく、ミルが魔女の大御所に助けを求めに行ったと思ったんだろうな」


「そんな……!私、アイツらに後をつけられてたんですか!?もっ、申し訳ございません!まさかそんな……!」


「いや、俺にとってはむしろ都合がいい。とりあえず奴らに、挨拶の一つでもくれてやるか」


 レキトは魔力反応のある方角に向かって右手を振りかぶる。


「それっ!」


 レキトが右手を振り下ろしたその瞬間。外からすさまじい轟音が響いた。


「うわっ!?何!?」


 屋敷は揺れなかったものの、外でとんでもないことが起こったのは明らかだった。

 先程まで感じられた魔力は可哀想なほどにしぼみ、気配がほとんど感じられない。


「よーし、とりあえずこれで安全に外に出られるな」


「レキトさん!?今のって一体……!?」


「今はそんなことどうでもいいだろ。ほら、外出るぞ!」


(絶対どうでもいいことじゃない……!)


 色々と気にはなったものの、とりあえずミルはレキトと共に、騎士団がいると思われる屋敷の外へと移動したのだった。

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