ふしぎな寝言
『も~い~かい?』
ユメの中で声がする。それがユメだって分かるくらい、ボクは同じ夢ばかり見てるんだ。
何者ともつかぬ抑揚の無い声が、しかし耳許で囁くように生々しく、『も~い~かい?』と尋ねてくる。幼い頃は恐怖で、その度毎に飛び起きていたくらいだが、何年何十年と続けばさすがに慣れるもの、俺は返事をするまでになっていた。
「ま~だだよ」
すると声はパタッと止んで、また翌日までは熟睡出来る、といった繰り返し。もしも答えたら、そのまま夢から帰れなくなるんじゃないかと思うと恐くてね、そんな俺の言い訳を、唯一、面白がって聞いてくれた女性は、短い付き合いの内に男の子だけ残して、いつか夢のように消えてしまった。
それが心労になったという訳ではなかろうが、50も待たずに、俺は末期の癌に侵された。医者から、今夜が峠とでも連絡が行ったのだろう、何十年か振りで息子夫婦が訪ねて来た、まあ、先祖代々から受け継いだ家と土地を、私に汚されたくなかったのだろう。
全く、平凡な人生だった・・・唯一、あの夢だけを除いては。
だが、それも今日まで、死を前にして、やっと迷いも消え去った。
アナタ、お義父さんが何か話したそうだわ。
親父、遺産だろ? 財産がこの家だけなんて嘘だよな、通帳はどこにあるんだ!
ああ、息子はうるさいなあ、私は今、それどこじゃないと云うのに。
近頃では起きてても聞こえるようになったアノ声に、今日こそは返事を返さなくては、
『も~い~かい?』
そら来た!
「も~い~よ」
答えると同時に地面が裂け、徳川の埋蔵金が現れた。全部で400万両、円換算で20兆だ!
起きて触れる事も、ましてや使う事など出来ない私を置き去りに、息子夫婦たちは餓鬼のように騒ぎ出した。
最新のEV車が買えるぞ! アナタは自分のことばっか、家族で世界一周が先でしょ! 俺パス、留守番しててやるから、1億ぐらいチョーダイ。アタシもアタシも、ママたち、何年も帰って来ないんでしょ〜♪ 何云ってんの、子供たちだけ置いてける訳ないでしょ、それに1億って? 卒業するまでは、小遣いはそのままよ。ふざけんな、大人たちだけで独り占めする気だろッ! ヒィッ、な、ナニをするの、く、苦しい、止めてっ! おい、母さんの首から手を離せっ!・・・
庭で始まった骨肉の争いに、私は急いで縁を断ち切った、
「いらないよ!」