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【書籍化】アラサー女子の異世界就職記 ~雑学スキルで挑むお仕事改革!~  作者: 灰猫さんきち
第二章 魔物のお肉とカレー作り

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第45話 帰還


 ロビンが魔石を取り出す作業をしているのを横目に、ユリウスが言う。


「さて、そろそろこの蛇の後始末をしようか。ここはせっかく黄色マンドラゴラがたくさん生えているから、できれば荒らしたくないね」


「ここはまだ森の入口が近い。入口まで運んで、外で焼く。下手に放置すれば別の魔物が寄ってきてしまうからな」


 アウレリウスが言って、兵士たちがうなずく。手早くロープを大蛇の亡骸に結びつけて、森の入口まで引いて行くことになった。

 兵士とユリウス、ロビンは手でロープを引く。アウレリウスは魔法を使っているらしい。ロバは蛇の死骸に怯えて近づこうとしないので、黄色マンドラゴラの袋を背負わせるに留めた。

 ユーリも手伝おうとしたら、ユリウスに「レディの手はこんな力作業で使わなくていいからね」といい笑顔で言われてしまった。そこでユーリはロバの引綱を取ることにする。


 蛇の運搬作業はそこまでの時間を取らず、森の出口まで来た。

 大蛇の巨体を森の外に引きずり出す。全長が十メートル以上になる蛇の姿に、ユーリは改めて身震いをした。

 兵士たちが二人がかりで、蛇の体を軽く丸める。

 アウレリウスが大蛇に向かって手を向けた。


 ――ゴウッ。


 瞬間、音を立てて青い炎が吹き上がった。

 青の中で蛇は黒い影と化し、みるみるうちに燃え尽きていく。


「……ふむ。弱とはいえ火属性があるせいで、やや燃えにくいな」


 アウレリウスが呟いた。

 青い炎に照らされた彼の横顔は、彫像を思わせる美しさ。紫の瞳に炎が揺れて、そこだけが生気に満ちている。


「ユーリ、近づいてはだめだよ。青いけれどもあれは炎。触れれば火傷してしまうからね」


 ユリウスの言葉にユーリはうなずいた。


「はい、分かります。青は炎の中でも最も高い温度よね。私の故郷では、ガスを燃やしてあの色の炎を料理に使っていたわ」


「青の炎を料理に! そりゃあすごい。あなたの故郷は技術が進んでいるんだねえ」


 ユリウスが驚いている。ユーリは聞いてみた。


「それにしても、あれだけの炎なのに熱気を感じないわ。不思議」


「魔力障壁を巡らせている」


 アウレリウスが答えた。


「森に飛び火して火災になってもかなわんからな。まあ、魔の森は魔力の炎にかなりの耐性があるが」


「そうなんですか」


「魔の森は場所によって土地そのものが属性を持つ。炎そのものや、反属性の水であればまず燃えない」


「それは……魔法使いの人たちは、やりにくいでしょうね」


「ああ。その場の魔力を読んで臨機応変の動きが求められる。私の鑑定スキルは土地の属性をすぐに看破する、便利なスキルだよ」


 話している間にも燃焼は進み、やがて蛇は灰になった。風にさらさらと流れていく。

 ロビンが空を見上げた。蛇の戦闘と移動で時間が経過して、そろそろ夕焼けが始まる時刻になっている。


「暗くなるまでまだ時間があるけれど、どうする?」


 ユーリは黄色マンドラゴラを入れた袋を見た。ロバに背負わせた荷袋だ。フォレストスネークが出る前にみんなでそれなりの数を収穫したので、袋はふくれている。


「……帰りましょうか。本当は三日程度探すつもりが、最初の日からじゅうぶんな収穫がありましたから。早めに洗って天日干しにしたいですし」


「了解。リーダーの意見に賛成だ」


「フォレストスネークという思わぬ副産物も手に入って、今回はラッキーだった。ユーリは幸運の女神様だね」


 ユリウスがにっこりと笑う。ロビンが首をすくめた。


「フォレストスネークをラッキーって言う冒険者、俺たちくらいだからね。ユーリさん、もし他のパーティに護衛してもらっているときにあれが出たら、全力で逃げて」


「おや、ユーリは僕が専属で護衛するよ」


「は? なんでそうなる」


 口を出したのはアウレリウスである。眉間のしわが深くなっている。

 ユリウスはニコニコと答えた。


「だって今日はとても楽しかったから! 久しぶりにアウレリウスと一緒に狩りができたし、それに、ユーリの見識は素晴らしいよ。黄色マンドラゴラの他にも、シナモンだっけ? 変わったものをすぐに見つけたね。鑑定スキルを持っているわけでもないのにね。一緒にいたらまた楽しいことがありそうだ」


「……私は立場上、そうそう同行できんぞ」


 アウレリウスが言うが。


「構わないよ。森の浅いところを探索するくらいなら、僕とパーティのみんなで問題ない。アウレリウスは町で仕事を頑張って」


「そうですよ。アウレリウス様はカムロドゥヌムの要ですから。今回は付き合わせて申し訳なかったです」


 ユーリが言えば、アウレリウスは深くため息をついた。


「まあ、いい。ユリウスが最も信頼できる護衛であることは確かだ。また何か必要になったときは、彼に頼めばいい」


「はい、そうします」


 そんなことを話しながら、一行はウルピウスの防壁へと歩いて行く。壁にたどり着いた頃には、辺りは夜の帳が降り始めていた。

 アウレリウスが合図すると、門を守っていた兵士が扉を開けた。

 壁の向こう側は比較的安全である。やや暗くなっていたが、町の明かりは目視できる距離にある。そのまま移動して町まで戻ることにした。


 こうして、ユーリの魔の森の初探索は終わったのだった。




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