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第42話 魔の森へ2


 ロビンの声にみんなが集まる。

 そこは森と外のちょうど境界線で、低木の茂みに隠れるように黄色マンドラゴラが生えていた。

 時刻は昼前。よく晴れた空の真上に太陽が輝いている。

 ユーリは地面に片膝をついて、黄色マンドラゴラを確かめた。

 何段も重なった花の一番上だけが白くなっており、花びらの先端がピンク色に染まっている。

 葉っぱはまっすぐな線形や楕円形で、丈は一メートル近くにもなっていた。

 ユーリはターメリックの知る限りを思い出して、目の前の植物と照らし合わせていく。結果、「間違いない」と確信ができた。


「この黄色マンドラゴラが、私の知るターメリックで間違いないです。それじゃあ早速、根っこを――」


 ユーリは古布で作った軍手を取り出した。張り切ってはめて黄色マンドラゴラに手を伸ばすが、ユリウスが後ろから両手で彼女の耳を覆った。


「え?」


 耳に彼の体温がかかり、ユーリはひどくドキドキしてしまう。彼女の背後でユリウスは微笑む気配がした。耳に添えた手を通して、声が伝わってくる。


「あわてんぼうさんだね、ユーリ。マンドラゴラは引き抜く際、魔力を乗せた叫び声を出すんだ。まともに聞いたら気絶してしまうよ。僕が耳を押さえてあげるから、さあどうぞ」


「……馬鹿者」


 アウレリウスがやって来て、ユリウスの手を引きはがした。


「ユーリよ、貸した魔物図鑑は役に立っていないようだな。基本を忘れるとは」


 真冬を思わせる口調と瞳に、ユーリは小さくなった。


「す、すみません。覚えていたのですが、実物を見てついはしゃいでしまいまして」


「叫び声対策には耳栓を使え。これも図鑑に書いてあったはずだ」


「そうでした。すみません」


 アウレリウスは小袋を投げてよこした。ユーリが手元で開けてみると、一対の耳栓である。コルクのような弾力のある素材だ。両耳に詰めれば、音が聞こえなくなった。

 身振り手振りで「これから抜きます」と知らせて、両手で黄色マンドラゴラの根本を掴む。

 ぐっと腰に力を入れて引き抜いた。ぶちぶちと繊毛が土から剥がれる感触。根茎が引き出されていく感触。

 普通の根菜であればこのまま引き抜いたり、周囲の土を掘って掘り出したりする。ところが黄色マンドラゴラは根茎の部分が空気に触れた途端、震えるように動き始めた。自ら土を飛び出してくる。そして……。


「――~~――~~――――ッッッ!!」


 耳栓越しにも不快な音波が感じられる。見れば、ロビンや護衛の兵士たちは耳を両手で塞いでいる。

 ところがユリウスとアウレリウスは特にそういうこともなく、ただ立っていた。

 どういうことだろう、と思う暇もなく、手の中のマンドラゴラが暴れ出した。茎の根元の球根がジタバタと動いて、必死に逃げようともがいている。その力は結構強くて、ユーリはひきずられそうになった。

 離さないよう腕に力を入れるも、引っ張られて膝をついてしまう。土に足(?)をつけたマンドラゴラはますます元気になり、ユーリを引きずったまま走っていき……


「はい、そこまで」


 ユリウスがひょいとマンドラゴラを取り上げた。茎と根本の境目をナイフで切り落とす。するとマンドラゴラは元気を失って、ぐったりとした。


「これでいいかな?」


 軽く土を払って、差し出された黄色マンドラゴラの根茎は、濃い黄色をしている。ユーリの知るターメリックそのものだった。


「これです!」


 ユーリは興奮して、ユリウスの手ごとマンドラゴラを握りしめた。


「この根を水洗いして、煮込んで、天日干しにすればカレー用のスパイスになります。今より一段、おいしくなりますよ!」


「それは楽しみだね」


 ユーリとユリウスが見つめ合って微笑んでいると、手の中のマンドラゴラが取り上げられた。アウレリウスである。彼はさっさと黄色の根茎を袋に放り込んだ。

 ユーリも我に返って立ち上がる。


「ユリウス、アウレリウス様、ありがとうございました。お恥ずかしいところを晒してしまって、すみません」


「平気、平気、初めて魔物を見た割に落ち着いていたよ」


 ユーリは愛想よく答えたが、アウレリウスは半眼でユーリを見ていた。


「もっと周囲をよく確認するように。我々が警戒をしているとはいえ、何があるか分からないのだから」


「はい、反省してます。……ところでアウレリウス様、さっきのマンドラゴラ、ロビンくんや兵士たちは耳を塞いでいたのに、お二人は平気そうでしたね。なぜですか?」


 あまり反省の様子が見えないユーリに、アウレリウスは一瞬だけ苦い表情になったが、すぐに首を振った。


「魔力強度の差だ。私やユリウスのように魔力強度が高ければ、マンドラゴラ程度の魔力干渉は特に対策を取らずとも無効化できる。もっとも、強力な魔力攻撃となれば話は別だがな」


「そういうこと。魔力強度はアウレリウスの方が強いよ。僕は魔法も扱える剣士で、彼は生粋の魔法使いだからね」


 ユリウスがにこやかに口を挟んだ。


「さて、ユーリ。黄色マンドラゴラは一つだけじゃ足りないだろう? もっと探そうじゃないか」


「はい!」


 弓使いのロビンと兵士たちがあちこちを見渡している。

 ロビンが森の少し奥の方を指さした。


「じゃあ俺、あっちを探してくるから。ユリウスはそのへんを頼んだよ!」


「オッケー」


 そうしてまた、黄色マンドラゴラ探しが始まった。


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