表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
30/114

第30話 ユーリの食レポ会


 七輪にかぶせられた焼き網を見て、ユーリは言う。


「焼いて食べるのね」


 少年はうなずいた。


「屋台で売るなら、複雑な料理はできないから。塩振って焼くだけだよ」


「なるほど」


 まずはホーンラビットの肉が焼き上がった。

 ユーリは肉をよく見てみる。脂肪分のほとんどない赤味の肉で、ほどよく焼けている。


「いただきます」


 そうしてユーリは、ホーンラビットの肉を口に入れた――。







「こ、これは、衝撃的な味だわ……。あつあつの焼き肉だけどジューシーさが全くなくて、まるで味のないゴムを噛んでいるみたい。淡白なのに妙なエグみと血生臭さがあって、わずかな塩味だけが唯一の心のオアシス。スジ張っていて固くて、歯ごたえどころの騒ぎじゃない。噛み切れなくて、飲み込めない。すごい。つらい」


「ユ、ユーリさん?」


 マイナス方向への食レポをつらつらと言い続けるユーリの背を、ナナが撫でた。

 少年でさえきまりの悪い顔をしている。


「姐さん、レッドボアはやめとくか?」


「いいえ。食べるわ。せっかく解体して焼いてくれたんだもの」


 ユーリは焼き肉の皿を持って、決意をみなぎらせた。

 みんなが見守る中、ひとくち。


「脂がすごい。大トロかベーコンみたい。そして、ロウソクを燃やしたときのあの獣臭い臭いが、口の中でする。お肉の味がとても濃いわ。ああ、このイノシシの魔物が北の森を走り回って、土を掘っている様子がよく想像できる。土臭くて泥臭くて、砂を噛むみたいにじゃりじゃりする。これぞ風味豊かな大自然の味……ッ!」


「ねえ、つまりマズイって言ってるのよね、あれ?」


「たぶん……」


 ユーリの豊かすぎる表現力に、ティララとナナがちょっと引いている。


「ね、姐さん……。無理しなくていいから!」


 少年はもう泣きそうだ。


「ほら、小僧、分かっただろう。食べ慣れた奴ならまだしも、初めて魔物肉を食ったらあんなもんだ。売るなんて絶対ムリだよ」


 コッタが呆れ半分、気の毒半分という顔で言った。


「ううぅ、そんなあ……」


 少年はうなだれた。その目には諦めの色が浮かんでいる。

 やがて少年がのろのろと七輪を片付け始めたとき。

 二種類の魔物肉を食べ切ったユーリが言った。


「待って。諦めるのはまだ早いわ。魔物肉を売る方法、一緒に考えましょう」







「魔物肉を売るなんて、本当にできるのか?」


 少年は複雑な表情をしている。ユーリがあれだけマズそうな様子をしていた以上、下手に希望を持てなくなっているのだろう。


「工夫次第ね。それより、あなたの名前を教えてくれる?」


「ファルト」


「そう、ファルト。私はユーリよ。よろしくね」


 握手をする。少年の手はガサガサで、炭に汚れて真っ黒だった。

 ユーリは次にコッタの方を向いた。


「コッタ、元冒険者として教えてほしいの。食用に向いている魔物肉は、どの種類かしら?」


「ユーリが今食った、ホーンラビットとレッドボアはマシな方だな。あとは鳥の魔物のアウィスバード。山鳥みたいなやつだ」


「なるほど」


 ユーリはアウレリウスから借りた魔物図鑑を思い浮かべた。コッタが挙げた魔物は比較的数の多い種類で、冒険者たちがよく狩ってくる。

 レッドボアはやや手強いが、他の二種類は初心者でも狩れる弱い魔物である。

 ホーンラビットは角が、レッドボアは牙と毛皮が、アウィスバードは爪と羽毛が主な素材だ。


「その三種類は、納品数も多いわよね。もしお肉を有効利用できれば、すごくいいと思う」


「まあな。肉は今まで、素材を剥ぎ取った後に捨てていた。町の外で焼くか埋めるかしてる」


「埋めるだけだと、腐って大変じゃない?」


「そうだが、焼くのも大変なんだ。薪だってタダじゃねえし、火力の高い魔法使いを雇うのはもっと高くつく」


「やっぱり有効利用が鍵ね」


 ユーリは腕を組む。


「ファルトの村では、魔物肉は塩を振って焼くだけで食べていたの?」


 ユーリの質問に、少年は首を振った。


「鍋にして煮るのも多かったよ。麦や野菜と一緒にごった煮にする」


「それなら焼くより食べやすそうね」


「そうでもねえぞ」


 コッタが言葉を挟んだ。


「煮汁全体が魔物臭くなるからな。エグさが鍋全部に移って、食うのに苦労した覚えがある」


「ああ、うん……」


 みんなが味を想像して、その場がちょっと静かになった。


「ともかく!」


 ユーリが空気を切り替えるように声を上げた。


「食べにくいお肉は、調理法を工夫すれば食べやすくなるわ。屋台で売るという制約があるから、まずは焼き肉の方向で試してみましょう」


「おー!」


 ファルトが拳を突き上げる。

 コッタやティララなどは苦笑い、ナナは少し引いた様子だったが、とにもかくにも魔物肉のお料理ミッションがスタートした。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

【アラサー女子の異世界就職記 ~雑学スキルで挑むお仕事改革!~】書籍第1巻、2025年7月11日発売!

書籍版は全体的に手直しして読みやすくなっています。さらに書き下ろしの短編付きです!


アラサー女子の異世界就職記

Amazonで購入
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ