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第25話 積み重ね


「この話が明るみになれば、俺は間違いなくクビ。倉庫も取り潰し。素材の買い取りは中止で、最悪、冒険者ギルドそのものが解体になる……」


 ガルスはユーリから渡された資料を食い入るように見つめながら言った。


「…………」


 それからしばらく、彼は黙ったままでいた。途中で目を閉じて考え込む。

 ユーリとナナが様子を見守っていると、やがてガルスは言った。


「俺の責任だ。倉庫は素材をぶち込んでおけばなんとかなると思って、長年放置しちまった。途中でやばいと気付いたときもあったが、見ぬふりをした。ツケを払うときがきたようだ」


 そう言って立ち上がる。


「アウレリウス様に全部話してくる。軍団の協力があれば、倉庫の整理と赤字はなんとかなるだろう。俺のクビはどうにもならんが、冒険者ギルドがなくなって、冒険者どもが食い詰めるよりはマシだ。先代のギルド長も、その先代も、みんな貧民上がりの冒険者を食わせるのに必死だった。他でもない俺だって、冒険者になって食いつないだんだ。だからせめて、そのくらいの責任は取らねえとな……」


 噛みしめるような口調だった。


「それは、もう少し待ってください」


 そんなガルスにユーリは言う。


「その数字はここ数年のもので、細かいところはまだ出していません。それに赤字補てんの融資を頼むなら、ドリファ軍団よりも魔道具協会や鍛冶ギルドなどの大口顧客のほうがいいのでは? 彼らだって、冒険者ギルドの素材がなくなれば困りますよね?」


「そりゃ、そうだが……」


「システム改革案と再建案をしっかり出してから、アウレリウス様と話し合いましょう。そのほうがいろんな交渉ができますから」


 ガルスはまたしばらく考えてから言った。


「それじゃあ俺の役割は、大口顧客に融資を頼みに行く、でいいか?」


「はい。私とナナさんで、冒険者ギルドの現状をまとめた資料を作ります。ガルスさんはそれを見て、どこに何がどのくらい足りないのか確認してください。その上で顧客と交渉を」


「分かった。すまん、何から何まで頼りっぱなしで……」


 ガルスは大きな体を縮めるようにしている。


「これからは、みんなでできることをしていきましょう。まだ間に合います。だから、みんなで頑張りましょう!」


 ユーリが言うと、ガルスとナナは力強くうなずいた。







 ユーリとナナは宣言どおり、冒険者ギルドの資料をまとめていった。倉庫だけではない。素材買い取りの価格や売却費、回転率なども可能な限り調べた。大口顧客や個人の依頼主の依頼頻度なども、ティララたちに頼んでまとめてもらった。


 同時に倉庫整理も続けた。

 冒険者ギルドの再建案を提示する以上、倉庫の整理は避けて通れない。今後は二度と現状に戻らないと、しっかりと目に見える形で示さなければならない。

 荷運び人たちに、冒険者ギルドの状況が思った以上に悪い事を伝える。このままでは最悪、仕事を失ってしまうと。

 しかし彼らは戸惑った顔をするばかりで、ユーリの呼びかけに応えようとはしなかった。


「んなこと言ったって、どうすりゃいいんだよ」


 吐き捨てるように言われたコッタのセリフが、彼らの心を表しているようだった。


「ユーリさん、いいんですか。荷運び人の人たち、ちゃんと分かっているのかしら」


 ナナが不満そうに言う。ユーリは首を振った。


「私たちはできることをやりましょう。今は信じて待つだけよ」


 倉庫整理はナナが一緒にやってくれるので、いくらか進むようになった。

 掃除はユーリが一人でほとんど終えている。残りは棚の移動や素材の整理である。

 二人になったとはいえ、女性の力だ。重い棚や素材を移動させようとして、手を怪我してしまったこともあった。

 積んでおいた素材の箱が崩れて顔にぶつかり、擦り傷を作ったこともあった。

 毎日真っ黒に汚れるのは当たり前。ひどい筋肉痛も当たり前。

 彼女らはそれでも挫けずに働き続けた。

 ユーリはナナに何度かこう言った。


「あまり無理しないで。本当に体を壊してしまったら大変だよ」


 けれど答えはいつも同じ。


「大丈夫です。ユーリさんは最初、たった一人で頑張ってましたよね。今は二人だもの。平気ですよ」


 ナナはそう言って笑って見せるのだった。







 ――そしてナナが加わって七日目の朝に、それは起こったのである。




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