表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
探偵狂想曲―縺れたヘルメスの杖―  作者: 東堂柳
双子塔の殺人 第三章 獄門のオードブル
17/18

反証的推理と機械的推理

 一竜くんを文字通り引き摺りながら手術室の外に出た美神さんを追いかけ、ぼくたちはエレベーターから食堂に戻った。

 まだ中央の大テーブルには、例の悍ましい朝食が残されたままになっている。ぼくはできるだけそれを視界に入れないように、美神さんたちの跡を辿って、隣の準備室に入り込んだ。


「さて、それでは御覧に入れて差し上げますわ」


 美神さんはぼくたち全員が準備室に入るのを待たずに、一竜くんのコートを剥いで料理用エレベーターの中に放り込んだ。彼女の推理通り、身体を折りたためば余裕で一竜くんは箱の中に収まった。体育座りで小さなスペースに押し込まれた一竜くんの姿は、ただの折檻された哀れな悪戯坊主でしかない。

 問題はここからだ。

 啜り泣く一竜くんに構わず、美神さんは脇のボタンを押すと、エレベーターの扉を閉めた。

 そして無情にも、エレベーターは苦情を立てず、代わりにモーター音を立てて稼働を始めた。


「……ってことは、やっぱり一竜くんが犯人!?」


 年端も行かない小学生が、体格の良い大人を殺してその首を切り落とすだなんて。平生であれば、とても信じられない。世も末の末、端の端も良いところだ。だが、この現実世界から切り離された異様な空間においては、あながちあり得ない話とも思えなくなるから、空恐ろしい。異常な環境が世界の理を歪ませている。

 だが――、そんなぼくとは裏腹に、日出さんが異議を申し立てる。


「いえ、今の検証では不十分よ」


 彼女は環境に流されて自分の思考回路を組み替えたりはしない。


「美神さん、貴女の推理だと、彼は厨房から食堂に戻る際、自分の分の朝食と一緒にこのエレベーターに乗ったことになります」

「え、ええ、ちょ、朝食分の重さを、か、加味しなければ、意味ないですね」


 雨分形さんも彼女の肩を持つ。

 そうだった。美神さんは自分の推理通り、人形に使用したコートは一竜くんから剥ぎ取ったのに、朝食の分を考慮していなかったのだ。そう言われると、今の検証がどことなく恣意的なものに感じられる。


「では、もう一度試してみましょうか」


 槍玉にあげられた美神さんは、それでも堂々としたものだ。今の指摘は予想の範囲内だったとでもいうのだろうか。

 美神さんはエレベーターの箱を戻して、食堂から持ってきた朝食の皿を一竜くんと一緒に箱の中に載せた。

 そして再度、ボタンを押す――。


 ――が、ビーッと不快な電子音をがなり立たせて、エレベーターはボタンを押してもうんともすんとも言わなくなった。もちろん、箱は微動だにしない。

 つまり美神さんの推理は外れ。一竜くんも犯人ではなかったということになる。

 ――なのに、それにもかかわらず、美神さんは相も変わらず落ち着き払った調子で、


「やはりね」


 とだけ口にする。


「やはりって、どういうことだい?」


 ぼくと同じで彼女の真意が見えない三千目さんが、怪訝な表情で尋ねる。

 美神さんはぼくたちに振り返り、満面の白い笑みを浮かべながら、スカートをつまみ上げた。


「御免あそばせ。ただいまの推理はほんの冗談。このクソガ――」


 美神さんはコホンと小さく咳ばらいをする。


「失礼、こちらの探偵気取りの少年に、少々大人の世界の厳しさというものを教えて差し上げていたのですわ」


 多分に私怨が混じっていたようにも思えるが。とは言え、ぼくでさえ一竜くんの身勝手で横柄な態度にも辟易していたから、わからなくもない。


「つ、つまり、う、嘘って、ことですか?」

「勿論、最初から間違いだと思っておりましたわ。御覧なさい」


 そう言って、美神さんはどこから取り出したのか、料理運搬用エレベーターの取扱説明書をみんなの面前で広げた。


「昨日、お夕食の時にこちらの作業台の抽斗から見つけたものです。こちらにある通り、このエレベーターの最大積載量は四十キロ。小学校高学年男子の平均体重とほぼ同じくらいです」


 確かに間違いなくそう記載されている。


「故に、彼がエレベーターに乗って移動できるかどうかは、ほぼぎりぎり。服装の重さや自分の食事の分を考慮すれば、間違いなくオーバーすることは目に見えておりましたわ」


 今わかった。彼女が手術室で豪語していた、見るまでもなく、結果はわかりきっている、とはこの説が間違いであることを示唆していたのだ。

 犯人の疑いが晴れたことで、一竜くんの涙はようやく止まったらしい。いつの間にかエレベーターから這い出てきて、服についた埃を払うと、赤くなった目で僕らを睨み付けながら、ぐずぐずの鼻声で、


「この僕が犯人なわけねーだろ。どいつもこいつも汚い大人ばっかりだ。バーカバーカ」


 と論理や知性の欠片も感じられない、小学生らしい辺り散らし方を繰り広げながら、ぼくらを押しのけて準備室から出て行ってしまった。


「あら、やりすぎましたかしら?」

「まァ、間違いなく、そうかと」


 澄ました笑顔で惚けたことを言う美神さんに、これまで一竜くんに良いようにコケにされていた三千目さんでさえ、へらへらしながら引いていた。


「それはともかくとして、重量制限の件がなくとも、今の私の推理にはいくつも問題点があることには、聡明な名探偵であられる皆様には気付くことが出来たんじゃなくて?」


 まるで試すように一人一人と視線を交わしていく美神さん。最初に声を上げたのは、彼女の推理中、ほぼ口を挟むことのなかった日出さんだった。日出さんは人差し指を立てる。


「先程の偽装工作の件。美神さんの話では、一竜くんは偽のお料理をテーブルに置いてからエレベーターで移動したことになるけれど、そうだとすると、私たちが配膳する前から料理がテーブルに置かれていることになる。銀製のクロッシュは蝋燭の灯を反射するから、遠くからでも目立ってしまうわ。周りの誰かがそれに気付いたら、このトリックは瓦解してしまう」


 中指が立つ。


「彼は朝食の配膳時に、準備室の扉が何度も開閉されたことを知っていました。貴女の言うトリックを実行していたのなら、彼はその時間厨房にいたはずですから、そのことに気付くはずがありません。昨日の夕食の時も、彼は配膳が全て終わってからやってきたので、出入りの度に扉を開閉していることは事前に知り得ないはずです」


 そして薬指。


「最後に、クロッシュです。これまで提供された料理のすべてには、クロッシュが被せられていましたが、その理由がなんだかわかりますか?」

「そんなの、料理が冷めないようにとか、開けたときにびっくりさせるためとかじゃ……?」

「通常であれば片藁くんの言う通りですが、それでもやはりすべての料理に被せる必要はありません。特に今朝のフルーツや、昨晩のサラダなどは、メインのお皿とは別のお皿で提供されていましたが、これらに今の片藁君の理由は適用できないでしょう。保温する必要も奇抜な見た目もない、いたって普通のフルーツとサラダの盛り合わせです。なのにどうしてクロッシュが被せられていたのか」

「大仰な口ぶりだけど、それってそんな重要なことなのかねェ」


 そう言う三千目さんも、相も変わらず未だに日出さんを試すような口ぶりである。もはやただ意地を張っているだけなのではなかろうか。


「ええ。一見くだらないことにも、重要な証拠が残っていたりするものですから」


 簡単にいなした日出さんは、どこからともなくクロッシュを手にして、ぼくらに差し出した。


「さて、こちらが朝食に使われたクロッシュですが、よくご覧になってください」


 何の変哲もない。ボウルに把手が付いただけの、銀製のクロッシュだ。質素な意匠。強いていうなら、銀の割には冴えない色合いということくらいだが――。と、ぼくはそこでようやく気付いた。これまで薄暗かったし、そんなに注意して観察していなかったから判らなかったのだが、表面にざらざらしたものが付着している。

 クロッシュをなぞると、その部分だけ光沢が一層鮮明になる。代わりに指に灰褐色めいた粉末がこびりついた。

 周りの探偵たちも覗き込む。


「これは――」

「コンクリートの粉塵です。こちらをご覧ください」


 と今度は日出さん、エレベータの扉を開けて中を指し示す。


「この料理運搬用のエレベータは、通常のエレベータと違って、箱自体に扉がついていないので、箱が移動するときに建物の壁面と接触して表面の粉塵が箱の中を舞ってしまうんです。それが料理にかからないよう、すべてのお皿にクロッシュが被せられていたのです」

「しかしね、それとこれと一体何の関係が……」


 困惑する三千目さんなど気にもかけず、番田さんが脂ぎった眼で箱の中を覗き込みながら唸った。


「なるほどな。さっきガキをこン中に放り込んだ時、床面にはその粉塵が残っていたな。仮に例の大皿料理が届いた後で、ヤツがこのエレベータを使って戻ってきたんなら、這い出るときにさっきみたく、殆どの粉塵を服にこびりつけることになる」

「そうです。その場合、さっき開けたエレベータの床には粉塵は残っていなかったはずなのです。ところが実際には、大皿が載っていたであろう箇所の周囲にだけ、粉塵が残っていました。つまり、例の料理が届いて以降、このエレベータは動かされていないことになるのです」

「やるわね、日出最子」


 自分で挑発しておきながら、その声音がどことなく悔しさを孕んでいるように聞こえるのは、日出さんが完璧な解答をしたからだろうか。


「フム、実にくだらん余興だ。小さき命を自らの愉悦のために害するとは。三流のすることだな」

「ま、まま、全くですね。流石、極さん」


 侮蔑する極彩さんと追従する雨分形さん。彼らもまた呆れて準備室から出ていこうとした――その時。


「あァ、ったく、くだらねえ。頓珍漢な推理を聞かされるこっちの身にもなってみろってんだ。時間の無駄もいいとこだ」


 スキットルを呷る番田さんが、吐き捨てるようにそう言うと、さらに続けて、


「この事件の真相なんてのはな、大方察しがついてんだよ」


 とろんとした目つきで縋りついている倉々さんの隣で、今度は彼の推理が始まった。

 番田さんは六階の厨房に向かうように言い、みんなを引き連れてエレベーターへ歩を進めた。

 皆でエレベーターを待っている間、階段から一竜くんが姿を現した。涙こそもう流れていないし、充血も収まっているが、まだ目が腫れている。髪の毛が濡れていた。自分の部屋で顔でも洗ってきたのだろう。

 彼はぼくらを無視して食堂の中に入っていった。ぼくは彼を横目に見ながら呟いた。


「美神さんもやりすぎだよね。食事の配膳を手伝ってくれた時は、優しい所もあるんだと思ってたんだけど……」

「とはいえ、一竜くんも誰彼構わず攻撃的で、身から出た錆のようなところもあったから、一概にどっちが悪いとも言い切れないね。ともかく、これ以上揉め事が起こらなければ良いのだけれど」


 溜息を吐く日出さん。


「ただでさえ難しい依頼を任されているのに、おまけに殺人事件まで起こって……。どれだけ大変なことなのか、みんなわかっているのかしら?」


 難渋な面持ちの日出さん。

 事件が起これば面白いのにと思っていたぼくは、何も言い返すことができなかった。それを誤魔化すように、手持ち無沙汰の両手をズボンのポケットの中に入れたところで、部屋の鍵がそこにないことに気付いた。慌てて上着やシャツのポケットもまさぐるが、手応えがない。食堂に置き忘れたのだろうか。


「ごめん、ちょっと先に行ってて」


 エレベーターが来て、乗り込もうとした日出さんに向かってそれだけ言うと、ぼくは足早に食堂に振り返った。その時、丁度ノートパソコンを手に一竜くんが扉から出てきた。彼もまた忘れ物を取りに戻ってきたというわけだ。

 相変わらず意気消沈しながら擦れ違う彼に、ぼくはとりあえず報せておくことにした。


「あ、そうだ、一竜くん。今から番田さんが厨房の方で推理を披露するみたいなんだ。もしよかったら、君も一緒にどう?」

「……気が向いたら行ってやる」


 触れば崩壊しそうなジェンガのごとく、弱々しく張りのない声。口では強がっているが、まだ立ち直れていないようだ。

 ぼくは肩を竦めて誰もいない食堂の中に入った。

 自然とその視線は中央のテーブルに吸い寄せられる。蝋燭の灯で照らし出され、禍々しい料理の供えられた邪教の祭壇に。京堂さんの生首の載った祭壇。ぐちゃぐちゃの切断面をこちらに向けている生首。

 そしてその光景が視界に入った瞬間、ぼくは思わずぎょっとしてしまった。身体のうちから込み上げてくるものを何とか押し止めるように、手で口を押える。我慢が出来ずよろめいたぼくは、近くのテーブルにもう一方の手をついた。見てはいけないと視線を逸らそうとするが、ぼくの両の眼は魅入られたかのように脳の命令を聞かない。中央のテーブルから襲来した生ぬるい空気がぼくの傍を通り過ぎていく。

 今しがた食堂を後にした彼が、まだ愕然としているぼくに向かって、少し話したいことがあるから後で部屋で会おうというような旨のことを言ってきた気がするが、ほぼほぼ頭に入らないほどに、ぼくは錯乱状態に陥っていた。

 時間を空けてようやく脚の力を取り戻した僕は、呼吸を整えながら自分の座っていたテーブルに向かった。置いてあった鍵を手に取り、そそくさと食堂から退散する。

 頭を冷やして気分を恢復させるために、ぼくは階段で六階まで向かった。


 *


 ようやく自分を取り戻したぼくが厨房にやってくると、既に番田さんが料理用エレベーターの前でなにやら手を動かしているところだった。抱きついている倉々さんのことは意に介さず、テキパキとした所作だ。


「こんなアリバイトリックなんてのはな、大抵自動でなんやかんやする装置を使ってるって相場が決まってンだ」

「可能性は高いだろうが、吾輩と三千目がこの部屋を来訪したときには、装置の存在など影も見受けられなかったと記憶しているが。貴様の肉体にそぐわぬ矮小な頭脳も、同じ認識ではないのか?」

「そうだねェ。今の厨房の状態は、料理が運ばれてから急いでここまで来たときの現場の状況と、さしたる違いはない。大掛かりな自動装置なんて、あるようには見えないけどねェ。そんなのを隠す時間があったとも思えないし」

「阿呆か、てめェら。目立つ自動装置なんか作ってどうすンだ。こういうのはその辺にあるもんで動くようにするのが鉄板だろうが。そうすりゃあ、その辺に放り出されてる食器やら調理器具やらに証拠を紛れ込ませることができるってもんだ」


 最近の若いもんはチェスタトンも知らねぇのかと番田さんは嘆いた。ぼくは知っているぞと言いたかったが、今更言っても負け惜しみにしか聞こえない。


「うっざ、知ってるっつの」


 誰にも聞こえないように小声で文句を漏らしたのは、誰あろう一竜くんだった。ノートパソコンを大事そうに抱きかかえながらも、彼は人混みの隙間から、番田さんが手を動かして装置を作る様子を興味深そうに眺めている。


「やっぱ来てたんだ」


 と声をかけてみたが、彼は見事なそっぽ向きを見せてくれた。


「うっし、こんなもんだろう。よく見てろ」


 番田さんの声で、ぼくもそちらに目を向けた。

 料理用エレベーターの前の作業台に、その装置は設置されていた。

 スポンジを台にして、俎板がエレベーターの方へ、滑り台のように斜めに立てかけられている。俎上には鉄道のレールのように、菜箸をラードで固めて取り付けられ、その上に電車の代わりに朝食の載った皿が配置されていた。レールはエレベーター側に伸びており、皿は今か今かとエレベーターの箱に載せられるのを待ち詫びている。

 さらに、エレベーターの扉の把手に結びつけられたテグス。その行く先を辿っていくと、テグスは隣のシンクの蛇口にひっかかけるような形で伸びており、最終的には底の深い鍋の把手に結びつけられていた。その鍋は、シンクの上に橋のような形で置かれている、刃渡りの長い柳刃包丁の上に載せられていた。

 それだけにとどまらず、エレベーターのボタンのすぐ手前には柄の長いレードルが置かれている。レードルは掬い上げる皿の部分の底面を脚にして立っており、その柄はもう少し傾けばボタンに触れるほど近い位置にある。当然、レードル自身がそのような恰好で自立する訳はない。バランスを保てるように、レードルの皿の先端に調味料の小瓶が載せられていた。その瓶にも、エレベーターの把手と同じようにテグスが結びつけられ、同じようにそのもう一端は蛇口の上を通った後で、鍋の把手に繋がっていた。

 何とも大掛かりな仕掛けではあるが、番田さんの言う通り、ほとんどの道具はこの厨房の中にある物ばかりである。


「犯人はこんな形の装置を取り付けた後、蛇口を開けたままにして食堂に来たわけだ」


 番田さんはテグスの引っ掛けてある蛇口の栓を捻ってお湯を出した。お湯は真下の柳刃包丁の上に置かれた鍋の中に溜まっていく。包丁一本で支えられた鍋は不安定で、お湯が溜まっていくにつれて、徐々に一方に傾いていく。するとどうだろう。鍋の傾きによって、把手に取り付けられたテグスが段々と引っ張られていく。余裕がなくなり、ピンと張られた後も、鍋の傾斜はさらに大きくなり、テグスはさらに引っ張られる。

 テグスは蛇口を支点に、てこの原理における作用点である、エレベーターの取っ手と、レードルを支えている調味料を持ち上げる。エレベーターの扉が開き、俎板と菜箸のレールで待機していた皿が重力に従って流れ出す。皿は次々と箱の中に滑り込む。お次はレードルの出番だ。支えを失ったそれは、ボタンに向かって傾いた。レードルの柄がエレベーターのボタンを押す。

 当然のごとく、エレベーターは稼働を始め、朝食を載せた箱を〇階の食堂に向けて上昇させた。そして、そのタイミングで鍋の傾きが閾値を超えたのか、鹿威しよろしく溜まった湯が溢れ出て、傾きが一気に元に戻る。すると、テグスで接続された扉と調味料が元の位置に戻り、レードルが再び屹立する。最初の状態に戻ったのだ。

 つまりこれが繰り返されることによって、自動的かつ定期的にレールに載せた料理がエレベーターの箱に入り、ボタンが押されて食堂に運ばれるというわけだ。

 ぼくは息を呑んで仰天せざるを得なかった。三千目さんや美神さん、極彩さんに雨分形さんも感心しているようだ。複雑な機構のルーブ・ゴールドバーグ・マシンが正常に機能したことだけでなく、殆ど調理器具だけで装置を作り上げた番田さんに。口はとんでもなく粗雑で粗暴で、いかにもいい加減な印象を受けるが、流石に病院の院長を務めるだけあって、本質的には職人肌なのだろうか。


「どうだ? 見たろ、ざっとこんなもんだ」


 振り返り、尊大な態度で全員を見下した彼は、ぼくたちに向かって指を突き付けた。


「でだ。こんなことができたのは、ただ一人しかいねェ」


 ぼくたちを指しているわけではなかった。彼の指はある一点――すなわちこのトリックを仕掛けられた人物に向かって、伸びていたのだ。


「そこの筋肉だるま」


 ぼくらの視線は、一斉に極彩さんに向けられることとなった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ