07話:思いがけない再会
にとり「そんじゃ、君とはひとまずお別れだな。またな、盟友!」
D-1104「ああ、じゃあな!」
にとりは俺達の目的地とは逆の、玄武の沢の方へと歩いて行った。そして残ったのは俺と魔理沙の二人である。彼女の手には庭を掃除するために使う竹ぼうきがあった。彼女は魔法使いである。何をするかは予想ができている。
魔理沙「それじゃあ、私たちも行くかな」
魔理沙は箒に跨る、同じように後ろに跨るよう俺に促した。言われた通り箒に跨ると、魔理沙は強く箒を握った。
魔理沙「しっかり掴まってろよ!」
箒の周辺に小さな砂埃が舞う。二人が跨る箒は緩やかに上昇し、七秒ほどで霧雨魔法店の屋根の高さに到達した。魔理沙はちらりと俺の方を見て、にやりと笑ったので俺も笑って返した。箒は次は前方向に加速した。初めは歩くほどの速さであったが、次第に速度が上がり、体感的に小さい飛行機に乗っているような速度にまでなった。
魔理沙「どうだい? 問題は……なさそうだな」
D-1104「ああ、最高だ。こんなのは初めてだ」
魔理沙は得意になってさらに加速した。さすがにおっかないが、同時にとても気分がよかった。魔法の森の、木々の上を一つの影が走っていく。下を見ると、木々の隙間からキノコの光がこちらを覗いていた。
森の終わりに来たと同時に、遠くに人間が住んでいるような里があるのが見えた。真下を見ると小さな店があった。
D-1104「あの店はなんだ?」
魔理沙「ああ、あれは香霖堂だな。外の世界から来た道具を売って……売ってるんだ。少し寄ってってみるか?」
「売っている」という所で魔理沙が言葉に詰まらせたことが少し気がかりだが、俺たちはその香霖堂に寄ってみることにした。箒はなだらかに降下して、ハングライダーが着陸するときの様に(今回は二人で)で足を動かしながら着陸した。
魔理沙「香霖、会いに来たぜ~!」
魔理沙は威勢よく扉を開けて中に入っていった。俺もそのあとを続く。店は軽く見たところ、霧雨魔法店ほどではないが色々な物でごった返していた。ただ霧雨魔法店と違うのは、あちらは単に魔理沙の収集品の、魔法の道具や本などであることに対して、こちらは魔道具や、なんだかヤバそうな雰囲気を纏った剣、果てにはいわゆる「現実世界」にあるような物なども多く売っていた。店の前には公衆電話が刺さっており、サッカーボールや三輪車なども置いてあった。
霖之助「やあ、今日はお連れさんもいるようだね」
D-1104「今はD-1104って名乗ってる。よろしくな」
霖之助「魔理沙、勝手に居間まで上がってくるなっていつも言っているだろ」
魔理沙「まあいいじゃねぇか、お茶出してくれお茶」
霖之助はため息をつきながらも、居間にいる魔理沙にお茶を注いで出した。その後俺を居間に招き、缶に入ったコーラを出してきた。待てよ、コーラ……?
D-1104「なあ霖之助、これって」
霖之助「コーラだ。外の世界から来たものだから、お前が飲めばいいと思って」
D-1104「俺が外の人間だってことが分かるのか?」
霖之助「ああ、その『つなぎ』とやらは明らかに幻想郷のものじゃないだろう?」
なるほど、もちろんその通りである。霖之助に感謝してコーラの缶を開けて口に流し込んだ。強い炭酸と体に悪そうな甘みが体に染み渡る。まさかここに来てコーラを飲むことになるとは思わなかった。そんなことを思っているうちに、霖之助が「無煙塚」という場所から最近拾ってきた道具の紹介を始めていた。
◆◇◆◇
彼の話は長かった。一時間ほどぶっ続けで喋っている。道具が主に現実世界のものであることが多く、細かい用途を俺に聞いたりもしたため退屈はしなかったが、長かった。集中力がそろそろ切れそうなところで、霖之助はもう一つ道具を出してきた。
霖之助「最後はこれだな。中央に大きな宝石が飾り付けられてる、すごいきれいな首飾りだ。きっとものすごい価値があるものだから、これもまた非売品にするつもりだよ」
俺はその首飾りに見覚えがあった。財団屈指の問題児、ブライト博士の不死の首飾りである。情報統制が厳しいDクラス職員の間ですら彼を知らない者はいないし、なんなら仲の良かった一般職員から首飾りの画像を見せてもらったことすらある。だがなぜその首飾りがここにあるのだろうかは全く見当がつかなかった。そもそも首飾りに触れているのに霖之助が意識を保っていること自体が謎である。俺は迷いに迷った挙句そのことを霖之助に話した。
霖之助「なるほど、この首飾りには人の記憶が宿っていて、首飾りに触れれば記憶に人格が乗っ取られる……か」
手を顎に当てながらしばらく考えた後、霖之助は口を開いた。
霖之助「恐らく、僕が人間と妖怪のハーフだからという可能性が高いな」
霖之助はこう言ってまた話を始めた。また話は長かったが、要約すると妖怪は人間とはやや違う部分があり、その境目がファイアウォールの役割を果たしているとのことだった。本来妖怪は精神攻撃に弱い存在であるため(人間にとっても十分脅威だが)存在自体が危うくなる危険な存在らしい。霖之助は特殊な例であった。ともあれ、魔理沙があの時に言葉を詰まらせた理由が分かった気がする。
魔理沙「じゃあ、私はそれに触れない方が良いわけだな。どうだ霖之助、そのブライト博士とやらの声は聞こえてきたりするのか?」
霖之助「最近幻聴が聞こえると思ったら、そういうことだったのか」
D-1104「そいつがなんて言ってるのかは、分かるか?」
霖之助「耳を凝らせばな。えっと……『どうして残基がここにいる?』って言ってるな。残基が何を示しているのかは分からないが」
D-1104「おそらく、俺のことだ」