04話:Dクラスな幻想郷
俺は二人に別れを告げて歩き出した。諏訪子によると、ここから川を下っていけば人間の里に行き、さらに歩けば博麗神社があるとのことで、博麗神社に行けば現実世界に帰れるといった話であった。彼女はチルノをもう少し懲らしめてから帰るつもりらしく、同行はできないそうだ。
湖をしばらく歩いていると、教えられた通り川があった。
あの放送室には誰かが入っていなければならず、それは俺が入っているべきである。俺は犯罪を犯した罪をあそこで償わなくてはいけないし、あのお嬢ちゃんみたいな目に合うやつをこれ以上増やすわけにもいかない。だから、俺はなるべく早く現実に帰る必要があった。
というわけでまずは人間の里に向かって川伝いに歩いているのだが、どこからか常に視線を感じる。それどころか、足音すらもう一つ聞こえる。少し不気味ではあるが、なんとなく害意のない雰囲気がしたのでしばらく無視をして歩いていた。
真後ろを付けるように足跡がしていたと思えば、横を通って前に来る。さらに無視を続けたら、少し突かれたり、ついにはきゅうりを目の前でかじりだした(実際には見えていないのだが、咀嚼音とにおいで分かった)。ここまでくると、遊ばれているのか構ってほしいのかのどちらかであろう。ただ、声を出して呼んだところで姿を現すようなタチでもない。俺はその足音が前に来たタイミングで思い切り足を伸ばし、もし人がいたらそこに足があるであろう場所を引っ掛けた。
何かが転ぶ音がし、間もなく水色の服を着た少女が現れた。
???「あいてて……えへへ、私の光学迷彩、どうだった?」
いちまる「見えないのはすごい技術だが、足音でバレバレだったぞ」
にとり「そうか! まだまだ改善の伸びしろがあるな。あ、私はにとりって名前だ。よろしくな、盟友!」
初対面なのに盟友にされてしまった
◆◇◆◇
今はこの川沿いをにとりと二人で歩いている
にとり「それでな、今度はここの羽の角度を変えて、そうすると揚力が大きくなるから……」
幻想郷には機械に理解のある人は多くないらしく、俺が幻想郷の外の人間だと知った途端に彼女は嬉々として自分の作ったメカの話を始めた。もしかしたら、幻想郷という場所はそこまで文明が発達していないのかもしれない。かくいう俺も、そこまで機械に詳しいわけではないので、話の内容についていくのが必死であった。一連の話が終わり、にとりが満足したところで彼女は俺自身のことを聞いてきた。
にとり「ところで、盟友はどこか行くアテはあるのかい?」
いちまる「人間の里というところに向かってるんだ。川を伝っていけば行けるって話を聞いて」
にとり「人間の里か! 確かに川を伝っていけば迷うことはないな。ただ、私なら近道を知ってるぞ。よかったら教えてやろうか?」
いちまる「それは助かるな! ぜひお願いします」
そう言うと、にとりは手のひらを上にしてこちらに向けてきた。数秒間お互いに沈黙する。にとりは少しにやけた顔でこう言った。
にとり「……こういう時は、何か渡すものがあるんじゃないか?」
いちまる「現金な奴だなぁ。残念だが、俺は今払える金を持っていないんだ。」
Dクラス職員になってから金を持つ機会は早々ないし、当然のことである。にとりは少し残念そうな顔をしたり、むすっとした顔で頬を膨らませたりしたが、何かに気づいたらしく、唐突に俺の首を指さして言った。
にとり「それじゃあ、その首についてる機械でも構わないぞ」
彼女が指さしたのは、例のデパートに侵入するときに財団に取り付けられた小型の爆弾であった。この機械は自力で外すことができないと伝えた。
にとり「そんなことか! これはここをこうしてだな……」
途端に、彼女は首元の爆弾を弄り始めた。はじめはポケットからスキャナーのような機械を出して読み取ったりしていたが、次第に操作が荒っぽくなって終いにはトンカチで叩いたりしたので機械が爆発するかもしれないと不安になったが、幸い事故なく取り外すことができた。彼女は目を輝かせて言った。
にとり「久しぶりの外の世界の機械だ! これは研究しがいがあるぞ」
かなりこの爆弾を気に入ったらしく、人間の里まで案内すると約束してくれた。
__彼とにとりは二人で歩き出した。太陽はやや西に傾いており、赤い光が紅葉を照らしていた。彼の頭には幻想郷での生活が浮かんだが、自分の使命を思い出し、それを心の奥底に押し殺した__
一時間ほど歩いたところで、彼女は休憩を取らせてくれた。少し疲れてはいたが、狭い放送室に閉じこもっていた割にはあまり体力は落ちていなかった。にとりは自分の体積より大きそうな、デカいリュックを背負っていたが、まったく疲れている様子はなかった。
にとり「人間は私たちと違ってそこまで体力があるわけじゃないからね~、多少は休ませないとバテてしまう。ただ日が傾いているから少し急いだ方が良いかもね」
どうやら妖怪の多くは、最近は例外も増えているようだが基本的に夜に活動しているようだった。
にとり「中には人間を食べちゃう妖怪も結構いるからね。早く里に行けるに越したことはないな」
いちまる「そりゃ怖いな。人間を食べる妖怪って、どんなのがいるんだ?」
こう聞いたところで、にとりはぎょっとした。彼女はおそるおそる俺の背後を指さした。
にとり「そう、まさにそんなやつ……」
俺はとっさに後ろを振り向いた。そこには黒いモヤ? みたいなものが浮かんでいた。にとりはとっさに飛び上がり、どこから取り出したのか中型の銃を構えた。銃から発射された高圧の水がモヤを貫く。
モヤが一部消え、黄色の髪と赤いリボンが露出した。
にとり「やっぱりおまえか。盟友、下がって!」
俺は後ろ向きに飛び、モヤの周りをいくつかのミサイルが爆撃した。モヤは飛び上がり、赤白く光った球のようなものを、にとりに向けて飛ばす。にとりは隙間を縫うように塊を避け、俺の前に立った。
にとり「河童は恩は返す妖怪だからね。ルーミア、勝負よ!」
モヤの正体はルーミアという妖怪のようだ
ルーミア「妖怪が人間を襲うのを邪魔しないでくれよ、久しぶりの外来人なんだぞ」
にとり「外来人は知識があるから里で重宝されるんだよ。くらえ、河童の技術力!」
にとりは背中からヘリコプターのような羽を伸ばし高く飛び上がった。ルーミアもふわりと上昇し、二人の空中戦が始まった。
◆◇◆◇
にとりは普通に敗北した。ルーミアの弾がヘリの羽を掠め、彼女はバランスを崩して地面に激突したのだ。ルーミアはモヤから顔を出し、俺の位置を確認すると、俺を捕食すべく迫ってきた。気絶していたように見えたにとりはその瞬間を待っていたかのように起き上がり、にやりとした顔をしてこちらに何かを投げつけた。
にとり「盟友、顔を覆って!」
それは閃光弾だったようだ。顔を覆った隙間から強い光が差し込む。腕を下すとルーミアはその光をもろに食らっていたようで、ぎゃあと叫びながら地面を転がっていた。
にとり「今よ盟友、逃げるわよ!」




